北海道の広大な土地には大自然が広がっていて、いろんな野生動物が暮らしています。日本で野生の鯱が見られるのは北海道だけです。えっ、「鯱」ってなに? さて、なんと読むかわかりますか? 今回はアイヌの逸話にも出てくる、野生動物「鯱」をご紹介します。

鯱はまさに魚の虎!その正体は…

魚と虎、誰もが知っている動物の漢字を組み合わせた「鯱」とは、漢字のとおりまさに魚の虎。体が大きく、大きな魚も捕食します。一方、野生ではなく水族館にいる鯱は見事なショーをおこなっているようです。さて、野生動物の正体はわかりましたか?

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正解は「シャチ」

「鯱」は「シャチ」と読みます。シャチは生まれたときで180kg、大人になると体長が8~9.5m、重さが8トンになるほど身体が大きいです。くっきりと分かれた白と黒のツートーンカラーが印象的。クジラと同じ哺乳類です。

魚だけでなく、なんとクジラやアザラシまで捕食します。世界中の海に生息していて、海洋生態系の頂点に立つ生物なのです。陸での百獣の王はライオンですが、似ている虎の字がシャチの漢字に含まれているのも納得の強さ。まさに海中にいる、魚の虎なのです。

知床の海で野生の鯱が見られる

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北海道で野生のシャチが見られるのは、世界遺産にも登録されている知床の海です。水族館でシャチがいるのは、千葉県の『鴨川シーワールド』と愛知県の『名古屋港水族館』だけ。野生のシャチが見られるというのは、とても貴重なことなのです。

知床の観光船では、シャチなど海の野生生物を見るクルーズもおこなわれており、観光で訪れる人がたくさんいます。シャチが見られるベストシーズンは4~6月ごろ、ギリギリ7月の下旬まで遭遇できるようです。

アイヌの逸話では神様として登場

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シャチはアイヌ語で「レプンカムイ」と呼ばれます。意味は「沖にいる神」。アイヌに伝わる民話にも「レプンカムイ」がよく出てきます。

現在のえりも町である幌泉のニカンベツでは、美しい娘がレプンカムイに嫁ぐと、浜にクジラが揚げられて人々は豊かに生活できたけれど、しだいにカムイノミ(神に酒を捧げて祈ること)をしなくなったらクジラは揚がらなくなったという逸話があります。

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また、襟裳岬では、海からやってきた女の子・レシラが浜で拾われた夫婦に育てられ、大きくなって村の大嵐がやまないときに、海からレプンカムイを呼んで嵐がおさまったという話も。

さらに現在の帯広市にある十勝幌尻(ポロシリ)岳の湖で、海の神であるレプンカムイが、十勝を所領していた天の神カンナカムイ(雷神)に挑み、戦いに敗れ、海の魚や海草を献上したという民話もあります。

ちなみに明治末期の北海道を舞台にして、アイヌ文化も詳しく描かれている漫画『ゴールデンカムイ』にも、北海道の海でシャチが登場。格闘しながら捕獲しようとするのですが、結果についてはぜひ漫画を読んでみてください。

アイヌの時代から北海道に訪れているシャチは、人と共に歴史を歩んできました。これからも人と動物が共存できる環境であってほしいものです。

【参考】国立科学博物館、水産庁、北海道、株式会社グランビスタ ホテル&リゾート、公益財団法人 名古屋みなと振興財団、有限会社知床ネイチャークルーズ、知床羅臼ビジターセンター、郷土資料館「ほろいずみ」・水産の館、帯広市

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