Googleは、Dolby AtmosとDolby Visionに対抗する、HDR映像と3Dオーディオに対応したロイヤリティフリーでオープンソースのメディアフォーマットを開発するプロジェクト「Project Caviar」を推し進めていると、IT系ニュースサイトのProtocolが独自に入手したプレゼンテーション映像を基に報じています。

Google’s Project Caviar to compete with Dolby Atmos, Vision - Protocol

https://www.protocol.com/entertainment/google-dolby-atmos-vision-project-caviar

After pushing AV1 codec, Google goes after Dolby with HDR and audio standards | Ars Technica

https://arstechnica.com/gadgets/2022/09/google-and-youtube-to-take-on-dolby-with-free-hdr-and-audio-standards/

ハードウェアメーカーがDolby AtmosやDolby Visionに対応した機器をリリースするためには、Dolbyにライセンス料を支払わなくてはなりません。例えば、XboxでDolby Atomosを利用するためには1ライセンス当たり15ドル(約2100円)を支払う必要があります。

また、Dolbyのクラウドメディアソリューション部門ヴァイスプレジデントであるギレス・ベイカー氏によると、DolbyはテレビメーカーにDolby Visionのライセンス料として2ドル(約280円)〜3ドル(約420円)を請求しているとのこと。Protocolによると、Dolbyの2021年度収益の25%はDolby AtomosやDolby Visionといったイメージング特許によるものだったそうです。

家電メーカーであるSamsungはこのDolby Visionのライセンス料の支払いを回避するため、ロイヤリティフリーでオープンなHDR用ダイナミックメタデータ技術規格「HDR10+」を、20世紀フォックスやパナソニックと共同で開発しました。

しかし、HDR10+を普及させる試みはほとんど失敗した、とProtocol。Dolbyのブランド力は非常に強力で、DolbyはNetflixやDisney+、HBO Maxなどのストリーミングサービスにライセンス料を請求する代わりに、Dolby Visionのエヴァンジェリストとしてプレミアム機能の売りにすることを認めました。この戦略はかなり有効的で、HDR10+はDolby Visionの牙城を崩すことができませんでした。

Dolbyのロバート・パークCFO(最高財務責任者)は、「ストリーミングサービスのパートナーが私たちの技術を配信したいといってくれたことは素晴らしいことでした。このエコシステムですべてを収益化しようとすると、おそらくブランドがここまで成長することはなかったでしょう。私たちは再生デバイスで正当なライセンスを得ているのです」と述べています。

Samsungと同様に、Googleもこれまでオープンメディアに積極的に取り組み、コーデックの開発に重点を置いてきました。例えば2009年にビデオコーデックメーカーのOn2を買収し、VP8を採用するコンテナフォーマットのWebMを公開しています。

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さらにGoogleは、ロイヤリティフリーのビデオコーデック「AOMedia Video Codec 1.0(AV1)」を開発・管理するための業界団体「Alliance for Open Media」を立ち上げています。

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Project CaviarはWebMやAV1のような独自のコーデックではなく、Dolby AtmosやDolby Visionといった既存のコーデックを利用しながら、よりリッチで没入感のあるメディア再生を可能にするHDR映像フォーマットと3Dオーディオに注目したプロジェクトになっているとのこと。



Googleのグループプロダクトマネージャーであるローシャン・バリガ氏はプレゼンテーションで、Dolbyの名前こそ出さなかったものの、それでも既存のHDR映像や3Dオーディオに取って代わるフォーマットを確立しようとしていることをはっきりと宣言しています。プロジェクトに参加している企業はGoogleのほかにAmazon、Netflix、Meta、Intel、Microsoft、SamsungといったAlliance for Open Media傘下企業。記事作成時点で、Immersive Audio Containerという新しい3Dオーディオフォーマットを開発しています。

ただし、Immersive Audio Containerを単体で押し出してもHDR10+の二の舞になり得ます。そのため、GoogleはHDR 10+とImmersive Audio Containerの両方を扱う新しい規格を設立し、業界団体で管理し、ハードウェアメーカーやサービスプロバイダーが無料で利用できるようにしようと考えているようです。



その戦略の要となるのが、Googleの抱える映像共有サービスのYouTubeです。スマートテレビなどの映像再生機器において、YouTubeへの対応はもはや必須といえます。バリガ氏はプレゼンテーションで、YouTubeをロイヤリティフリーの新しいフォーマットに対応させると述べ、映像再生機器を開発するメーカーに新しいフォーマットを選ぶように訴えかけました。GoogleはAV1の普及を図るためにRokuなどの企業に積極的に働きかけており、Project Cavierでも同じ戦略を取ると考えられます。