サマーソニックの前哨戦、ソニックマニア(SONICMANIA)が洋楽勢を多数迎えて完全復活。8月19日の夜、オープンの時点から多くの人が会場の幕張メッセに詰め掛け、「この日を待っていた!」という尋常でない熱気が場内をみるみる満たしていった。

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その熱が最初にピークに達したのは、21:30ちょうど、MOUNTAIN STAGEにカサビアンが登場した瞬間。ステージ中央に現れたサージ・ピッツォーノに凄まじい勢いで拍手が降り注ぎ、期待の高さを感じた。しかも1曲目から「Club Foot」という超強力なセットリスト! サージはギターを持たず、マイク片手にステージを練り歩きながらオーディエンスを煽っていく。


カサビアン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


カサビアン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

カサビアンはシンガーのトム・ミーガン脱退という苦境を乗り越えて、サージがフロントマンを務める新体制でニュー・アルバム『The Alchemists Euphoria』を発表したばかり。トムが果たしていた役割を引き受け、バンドを牽引していこうと決心したサージの気迫がライブでも漲っていた。そんなサージを後ろで支えるのは、今回からサポートで加わったザ・ミュージックのロブ・ハーヴェイ。最初のうちはフードをかぶって気配を消していたので表情がよくわからなかったが、リズム・ギターにバック・ボーカル、キーボードまで兼任する活躍ぶりで、サージも度々ロブの名を呼んで新しい仲間の存在をアピールしていた。

サージがギターを弾かない場面が多くなった分、もうひとりのギタリスト、ティム・カーターの存在感が増した。メインのリフやリード・ギターはもちろん、「Underdog」ではテルミンも鳴らし、マルチプレイヤーならではの強みを発揮。サージがギターを持つ曲では、トリプル・ギターになって重厚に攻められるのも新しい”売り”だ。特に新作から披露された「Chemicals」や「The Wall」で、その威力が存分に発揮されていたと思う。新作はどちらかというとサージのソロ・プロジェクト、THE S.L.P.で得た刺激をバンドに持ち込んだ感じがする脱ロック的な意欲作だったが、次作でロブがレコーディングに全面参加したら、よりギター・バンドとしての屈強さが強調された内容になる可能性があるかもしれない。


カサビアン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


カサビアン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

もちろんトムの不在を感じる場面がなかったわけではないが、彼以上の勢いでせわしなく動き続け、オーディエンスに積極的に語りかけ、この場を盛り上げるためなら何でもしようというサージのひたむきな姿勢に、古参ファンも心を打たれたはず。新作が全英No.1を獲得したことを報告する、サージの晴れやかな笑顔が忘れられない。

そして何より、リズム隊の爆発力が桁違い。やはりカサビアンの命はこのグルーヴなのだな、と改めて痛感させられた。パワータイプのドラマーだと思っていたイアン・マシューズが、曲によってマレットを使った繊細な表現で光るところを見せていたことも印象に残っている。個々の力量も、バンドとしての結束力も抜群。この状態がキープできるなら、カサビアンは今後も安泰だろう。

映画で人気沸騰中、スパークスの快演

続いてSONIC STAGEにてトリオ編成で熱演中のCorneliusを横目で眺めながら、スパークスを観にPACIFIC STAGEへ移動。レオス・カラックス監督の『アネット』と、ドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』、2本の映画が日本でも公開されて、御年73歳のラッセル・メイルと77歳のロン・メイルが俄かに人気沸騰中。その効果か、これまでの来日公演ではあまり見かけなかった若いファンがステージ前方に多数集まっていた。ショウは『アネット』のオープニング曲、「So May We Start」で開幕。軽やかにジャンプを連発するラッセル・メイルは動きにも歌声にも切れがあり、年齢をまったく感じさせない。


スパークス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


スパークス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

50年を超える長い活動の間に、ギターが核となるハードなロックンロールから、ディスコ、エレポップと変貌を続けたグループだが、ライブではそれら時代も作風も異なる楽曲を取り混ぜて披露していく。『Balls』リリース後、2001年の初来日時はメイル兄弟+ドラマーのみで打ち込み主体、エレポップ寄りの演奏に徹していたが、現在のようにツイン・ギター編成のバンドの方がグラム・ロック時代のレパートリーも断然映える。かといってどちらのサウンドにも寄りすぎないよう、アレンジの匙加減にも工夫が感じられた。


スパークス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


スパークス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

なので、初期〜ジョルジオ・モロダー期の人気曲ばかりでなく、「Angst In My Pants」「Tips For Teens」「Music That You Can Dance To」といった80年代のひねくれポップや、キーボードのロンが前に出てきてポエトリー・リーディング風に歌う怪曲「Shopping Mall Of Love」、フランツ・フェルディナンドとの合体ユニット=FFSの「Johnny Delusional」、そして現時点での最新作『A Steady Drip, Drip, Drip』(2020年)から選ばれた「Stravinskys Only Hit」「Lawnmower」「All That」まで、違和感を覚えることなくスムーズに聴けてしまう。そこから浮かび上がってくるのは、変わり続けた彼らの変わらない側面……予想を裏切る曲展開の斬新さと、飛び抜けたメロディの美しさ。圧倒的な楽曲の強度があってこそ、初めて成り立つショウだ。

もう何千回耳にしたかわからない「The Number One Song In Heaven」や「This Town Aint Big Enough For Both Of Us」がいまだにフレッシュに聞こえるのは何故だろう……と考えながら観ていると、早くもライブは終幕に。最後はそれらクラシックスに負けない、コロナ禍でなかったらシンガロングが起きるはずの名曲「All That」を朗々と歌い上げ、ドラマティックに締め括った。


ボーイズ・ノイズ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ボーイズ・ノイズ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

一方、カサビアンやスパークスの裏では、2000年代からエレクトロ・シーンを牽引し続けてきたボーイズ・ノイズ、近年は自身のボーカルを前面に出し、音と映像のシンクロで圧倒的な世界観を届けるマデオンが、ダンスを求める観客たちを大いに沸かせていた。彼らを筆頭としたDJアクトや、国内で人気を誇るラッパーたちを目当てに、若いオーディエンスが大勢訪れていたことも強調しておきたい。この幅広さこそ、ソニックマニアというイベントならではの醍醐味と言える。


マデオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


マデオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

プライマル・スクリーム、あの名盤を「再構築」

続いてMOUNTAIN STAGEに戻ると、プライマル・スクリーム目当ての人たちでごった返していた。彼らが『Screamadelica』の再現ライブをやると聞いて、当初は「2011年のソニックマニアでやったじゃん!」と思っていたが、そこは構成やアレンジに手を加え、大幅にバージョンアップしてきたからさすが。その頃のライブは映像作品/CDでリリースされた『Screamadelica Live』で確認できるが、それと今回のショウを比較すると、メンバー・チェンジの影響を反映しながら柔軟に進化してきたことが具体的にわかるはずだ。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

何より大きいのが、しばらくバンドをサポートしていたギタリストのバーリー・カドガン(リトル・バーリー)が2015年に外れ、現在はアンドリュー・イネスのギター1本のみという、彼らの長い歴史でも珍しい編成になっていること。一時はケヴィン・シールズも加わって分厚い音の壁を築いていたこともあるが、アンドリューの役割が絞られたことで明解なアンサンブルになり、その分ロックンロール色も前回より増したように感じた。その結果、最後にボーナス的に披露する「Rocks」とのギャップが縮まり、『Screamadelica』の”再現”と言うよりも、”リコンストラクション”と呼ぶに相応しい内容になっていたと思う。

2011年のソニックマニアでベースを担当していたマニはストーン・ローゼズのリユニオンがきっかけで同年に脱退、その後シモーヌ・バトラーが加わってから、もう10年近くになる。マニほどのパワーや重圧感はないが、シモーヌもベースがよく歌うタイプ。多彩なプレイでバンドを引っ張る職人肌のドラマー、ダリン・ムーニーとの相性もバッチリだ。そしてギターが減った分の余白を、オルガンやシンセ、ピアノが彩り豊かに埋めていく(マーティン・ダフィの代わりに参加したテリー・マイルスが担当)。減員しているのにカラフルさを増した演奏は、サイケデリックかつソウルフルな『Screamadelica』の世界を、より豊富になった音楽語彙でじっくり語り直していくような味わい深さがあった。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

ボビーのボーカルとオルガンでゴスペル風に盛り上げて始まる「Movin On Up」から、気概はビンビン。女性ボーカルなしでボビーが歌い切った「Dont Fight It, Feel It」はワウ・ギターが疾走、アルバムとは別物のファンキーなグルーヴに更新されていた。前回からボーカル入りの構成が採用されている「Come Together」も、シングル・バージョンとアルバム・バージョンの間を取ったようなアレンジで、あの可憐な歌メロを生で浴びるとやはりこの上なく気持ちいい。

驚いたのは、『Screamadelica』より遅れてEPで世に出た曲、「Screamadelica」を加えたこと。これがEPともデモ・バージョンとも異なる、ボビーのボーカルを前面に出したメロウなアレンジになっており、AOR/ブルー・アイド・ソウル的にすら聞こえる洗練された演奏がたまらなく新鮮だった。こんなアダルトなプライマル・スクリーム、という路線もあるのか。そこから続くバラード、「Damaged」「Im Coming Down」ではまた方向性が少し変わり、ボビーが心酔するサザン・ソウルの香りが溢れてくる。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そうやって考えると、オリジナルの『Screamadelica』らしさを最も残していたのは「Higher Than The Sun」と「Loaded」ぐらいだったかも。「Shine Like Stars」はデモ集『Demodelica』に収められていた”Jam Studio Monitor Mix”の後半に登場するメロディが採用されており、これも『Screamadelica』バージョンとは異なるアレンジが新鮮だった。ここでスクリーンに故アンドリュー・ウェザーオールの写真が投影され、場内が拍手に包まれた瞬間は、この日のクライマックスだったと思う。アルバム制作時のメンバー、ロバート・”スロブ”・ヤングや、重要な役割を果たしたシンガー、デニス・ジョンソンも今はこの世にいない。彼ら早逝した仲間たちに捧げるトリビュートとしても、このショウが続けられていることをしみじみ実感させられた。


ハードフロア(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ハードフロア(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

変わり続けるバンドの”現在”を見届けた余韻の中、最後に観に行ったハードフロアには、逆に頑固なまでの変わらなさと、これでいいのだという強い信念を見せつけられた。アシッド・ハウス味がかなり後退した新解釈の『Screamadelica』に触れた後で、2022年の今もローランドTB-303をギンギンに稼働させるオリバー・ボンツィオ&ラモン・ツェンカーを観ると、時空がグニャリと曲がったような不思議な気分に。とにかく楽しそうに電子音を操り、おじさん2名がビートを繰り出しながら身をよじる姿は、まるで年季の入ったパーカッショニスト・コンビのようであった。テンションの上げ方やうねりの作り方も職人芸の域に達している。サムシング・ニューばかりでなく、ここまで貫徹する姿勢、それもまた音楽家としての正しいあり方だ。帰ろうとしていた足を止めてしばらく身を委ねたせいで始発を逃してしまったが、何とも言いようのない多幸感に包まれて帰宅。そんな終わり方ができるところもまた、ソニックマニアらしい。

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