ビーレフェルトで活躍するMF奥川雅也【写真:Getty Images】

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【ドイツ発コラム】黒星発進の開幕戦で、奥川の存在は数少ないポジティブな要素に

 ドイツ2部ビーレフェルトのMF奥川雅也は、リーグ開幕戦のザンドハウゼン戦で一時は同点となるゴールを決めた。

 ザンドハウゼンのハードなプレーを前に序盤から打開策をなかなか見出せず、後半開始早々にはMFシルバン・シドラーが2枚目のイエローカードで退場処分となり、最終的に1-2で敗れたチームのなかで、奥川は数少ないポジティブな存在だった。

 得点シーンは後半14分。ザンドハウゼンのコーナーキック(CK)をGKカピーノがキャッチすると、ビーレフェルトはそこから素早いカウンターへと移っていく。FWクリューガーがドリブルで持ち運び、ペナルティーエリア左サイドへ走りこむキャプテンのFWファビアン・クロスへスルーパス。クロスは鋭い切り返しで相手DFを外すと、ゴール前で待つ奥川へラストパスを送る。

 奥川はボールを足元で受けると、素早くアウトサイドに持ち運んで相手DFのブロックを外すして右足でゴール左へと綺麗に流し込んだ。劣勢のチームにもたらした貴重なゴールだ。

「いい位置でボールをもらえた。9番(クロス)が打つかなと思ったんですけど、オフサイドにならないように下がって待っていたら、うまくパスが来て。(ボールが)足元に入ったんですけど、相手DFもGKの位置も見えていたので、あとは流し込んだという感じですね。その前に1人少なくなってという状況で、(あのシーンでは)上手く人数かけて攻めれて、ゴールを決められた。自分としては時間帯も含めて良かったと思います」

 この日のビーレフェルトは3-1-4-2でスタート。奥川はロビン・ハックとともにインサイドハーフで起用されていた。奥川は、「自分たちでうしろからボールをもって、相手がプレスに来るのは分かっていたので、そこをうまく剥がしてというサッカーをプレシーズンからやっていたんですけど、なかなかうまいことはまらなかったかなと」と話す。

 例えば、前半23分に相手クリアボールを拾って右サイドからドリブルでボールを運んだり、同25分にクロスのヘディングのこぼれ球を拾って右サイドでチャンスの起点を作ったり、同39分には味方からのパスが乱れたものの、素早くボールにアプローチして相手のファウルを誘ったりと、奥川がボールを持つことでチームにリズムが生まれるシーンはあった。とはいえ、いいタイミングでボールが受けられる場面自体が少なかったのは事実ある。特にビルドアップ時にDF陣から中盤へのパスが届かない。奥川もチームの課題を指摘する。

「準備期間でやっていたサッカーというのが上手く表現できなかったという部分と、相手のシンプルなサッカーに対応できなかったというのがあったと思います。退場者が出てから、みんなやる気を出したというか。もっと勇気出してプレーすることができたけど、それじゃ遅いかなと思った」

1年での1部昇格に向けて意欲

 今季、ウリ・フォルテ新監督を迎えたビーレフェルトは、プレシーズンマッチでなかなかの印象を残していた。ギリシャ1部の強豪オリンピアコスに3-1、昨季オランダ1部で準優勝のPSVには4-0の快勝劇を見せている。選手たちもそれなり以上の手ごたえでシーズンに臨んだはずだ。

 だが、やはりテストマッチと公式戦は違う。ザンドハウゼンの迫力あるプレスを前にビーレフェルトはボールを前進させることができない。FWクロスへのロングボールだけではチャンスを作り出すことは難しい。奥川が話すように、退場者を出して1人少なくなったことで責任感が増したのか、各選手の運動量が増え、好チャンスが作れる時間帯があったのは持ち帰れる好材料ではある。勝ち切ることは難しくても、引き分けで勝ち点1を手にすることはできたはずだ。

「2点目を取られた時もそうですけど、守備のやり方が上手くできていなかった。(守備ラインを)下げているにもかかわらず、あれだけフリーでやられるというのは……。もうちょっと、ちゃんとサッカーをしないといけないなと」

 セットプレーやロングボールで強引に奪われたわけではない。ペナルティーエリア付近にラインを引いて、人数は揃っていて、それなのにセンターからのパス交換で崩されて、最後はエリア内からフリーでザンドハウゼンのDFダビド・キンソンビにゴールを許してしまう。チームとしての安定感はまだこれからという印象を残している。

 それだけに中心選手として奥川に懸かる期待は大きい。興味深かったのは、得点後のシーンだ。喜びのガッツポーズとともに自陣に戻った奥川が、アシストをしたクロスの元へゆっくりと足を運ぶ。キャプテンであるクロスは力強く拍手をしながら歩み寄ると奥川を抱き寄せ、背中をバンバンと叩き合って離れていった。お互いに確かな信頼関係があることを感じさせられる。奥川もチームを助けたい意思を滲ませる。

「僕たちのやりたいサッカーというのがまだ上手く表現できていない。去年とはまた違うサッカーをしているので、そこにしっかりと貢献したいなと思っています。誰もが思っていることだと思いますけど、1年で上に(ブンデスリーガに)戻ることが一番ですし。タスクを担って、チームを助けるプレーができるように頑張りたいと思います」

 そこには中心選手としての確かな自覚と責任感がある。持ち前の決定力の高さを存分に発揮し、これまで以上にチームを引っ張る存在となってくれるはずだ。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)