アメリカのスタートアップ・Lonestarが2022年4月に、月面に建設したデータセンターに地球上の重要なデータを保管する計画を発表しました。Lonestarはすでに国際宇宙ステーション(ISS)を使ったデータ送受信テストに成功し、500万ドル(約6億3800万円)の資金調達を達成しています。

Lonestar plans to put datacenters in the Moon's lava tubes • The Register

https://www.theregister.com/2022/05/21/lonestar_moon_datacenter/

2022年2月、LonestarはISSでのデータ保存とエッジ・コンピューティングのテストに成功したことを発表しました。このテストではISSにあるコンピューターでCanonicalのUbuntu仮想マシンを起動してエッジサーバーとして再構築し、ブロックチェーン技術を用いたアプリを実行して、そのデータを地球に送り返すことに成功したとのこと。



すでにLonestarはシードラウンドで投資家から500万ドルの資金を調達しており、さらなる資金を調達するべく、NASAが出資する航空宇宙企業のIntuitive Machinesと共同で「月着陸船を使ってソフトウェアとハードウェア両面での概念実証実験」を行う契約を締結したと、2022年4月に発表しました。

この概念実証実験ではデータのアップロードとダウンロード、そしてエッジ・コンピューティングのテストを行う予定となっています。記事作成時点ではデータ通信の帯域を選定している段階で、LonestarはSバンド・Xバンド・Kaバンドで月とのデータ送受信を行う許可をすでに得ているそうです。月は地球の周りを公転しながら自転しており、常に同じ面が地球を向いているため、「月面にデータセンターを建設しても常に地球との通信が可能」というのが、Lonestarが打ち立てる月面データセンター計画の要です。

この概念実証実験では、Intuitive Machinesが開発する商用月面着陸機「Nova-C」が月面着陸に成功するかどうかにかかっているとのこと。月は引力が強い上に大気が非常に薄く、着陸プロセスの精度と速度が求められるため、Nova-Cを月面に無事着陸させるのはかなりの高難度ミッションといえます。



Lonestarの創設者であるクリストファー・スコットCEOによれば、Lonestarは2024年に5ペタバイト、2026年には50ペタバイトのデータを格納できるサーバーを月に打ち上げることを計画しているそうです。「サーバーを月に打ち上げる頃には、15Gbps規模の通信をアンテナから送受信し、月にデータをホスティングできるようになるでしょう」とスコットCEOは考えています。

ただし、月面のデータセンターを実現するためにはマイナス183℃から106℃まで変化する月の表面温度、さらに四六時中降り注ぐ宇宙線からデータセンターを守る方法を確立する必要があります。この問題に対して、スコットCEOは「玄武岩質の洞窟内に設置すれば、温度も安定する上に有害な宇宙線からサーバーを守ることが可能です」という解決法を提示しています。



スコットCEOは月面データセンターの建設計画について、大規模な気候変動や核戦争などに備えて永久凍土内の施設に農作物種の種子を保存する「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」と似た目的があるとしています。スコットCEOは「スヴァールバル世界種子貯蔵庫は、気候変動の影響で浸水の被害に遭いました。また、地球上のデータセンターは戦争やサイバー攻撃のような破壊手段の影響を受けやすいといえます。私たちの最も貴重な資産である知識やデータを、爆発や火災があり得る地球上に置いておくなんて考えられないことです。私たちは地球上の資産を安全な場所に保管する必要があります」と述べました。