彼氏と初めてのお泊まり。翌朝、目を覚ますと彼の姿がなく…?
「結婚するなら、ハイスペックな男性がいい」
そう考える婚活女子は多い。
だが、苦労してハイスペック男性と付き合えたとしても、それは決してゴールではない。
幸せな結婚をするためには、彼の本性と向き合わなければならないのだ。
これは交際3ヶ月目にして、ハイスペ彼氏がダメ男だと気づいた女たちの物語。
▶前回:デート中、スマホをずっと気にする彼氏。彼女が暴いた男の“ありえない悪行”とは?
Episode 3:凛子(27歳・フラワーデザイナー)の場合
「凛子、ごめん。ほかに好きな人ができた。僕と別れてほしい」
相手は、キャスティング会社を経営する彼氏。新規の案件を次々とものにしては、常に忙しくしているような人だ。
だから私は私で、フラワーデザイナーとしてのスキルアップのために、休日はアレンジメント上級クラスの講座に通ったり、ワークショップに参加したりしていた。
それもあってか、交際3年目を過ぎても2人の関係は安定していたし、頻繁に会うことができなくても、お互いの仕事や生活を尊重し合えていると思っていた。
なのに…彼は仕事で知り合った23歳のインフルエンサーと、2ヶ月前から親密な関係にあると言うのだ。
彼とは、結婚の話をしたことはなかった。けれど、アラサーに差しかかった私は、“そろそろ”と思い始めていた矢先だった。
私は、まさかの結末に丸2ヶ月ひどく落ち込んで、4kgも痩せてしまった。
そして、ようやく元気を取り戻したころ。
ひとりで向かったのは、縁結びで有名な神社。以前、会社の先輩が、参拝後すぐに彼氏ができたと言っていたのを思い出したからだ。
― 私だって、次こそは!
こう意気込んで参拝を済ませ境内を歩いていると、社務所の前に1枚の張り紙を見つけた。
失恋した女が神社で見つけた張り紙には、一体何が書かれていた?
都内某所にある国内屈指の縁結びの神社は、平日だというのにたくさんの人でごった返していた。人々が織りなす行列に並び、拝殿にたどり着くまでに要した時間は15分。
無事に参拝を済ませた私が境内を抜けて、社務所の前に来たとき。
“縁結び会”と書かれた張り紙が、ふと目に留まった。
「これって、神社が主催する出会いの場ってこと?」
思わず独り言が飛び出して、慌てて手で口もとを押さえる。だが、反対の手ではスマホのスケジュールアプリを開いて予定を確認する私がいた。
― この日は、ちょうど休みだ…!
こういう場所での出会いなら、きっと結婚につながる良縁に違いない。
すると、タイミングよく社務所の引き戸が開いた。中から宮司が出てくると、私は彼を引きとめて、その場で縁結び会に申し込みをしたのだった。
◆
迎えた縁結び会当日。
集合場所は、神社の拝殿近く。そこには、20代から40代くらいの男女が20人ほど集まっていた。
― へえ〜。参加者ってこんなにたくさんいるんだ。
時間ちょうどに到着した私がその輪に加わると、良縁祈願の祈祷からスタート。その後は、場所を移して全員が自己紹介を済ませると、男女1対1で会話をするフリータイムが設けられた。
相手と連絡先を交換するなり、食事に行くなり、自由にしていいという。
しかし、近くにいた人同士が次々とペアになっていく中で、私は見事に孤立してしまった。
その理由は…私の服装だ。
グレーのニットにグリーンのスカート。レッドソールがひときわ目立つ、ルブタンの10cmヒールといった服装に、ランダムに毛束を引き出した巻き髪のポニーテールの私は、厳かな場所で浮いてしまっていたのだ。
― ちょっと派手だったかな?どうしよう…ひとりは気まずいよ。
「こんにちは!」
私が所在無げにしていると、スーツの上からでもわかるがっちりとした体型の、スポーツマン風の男性が声をかけてきたのだった。
「あ、こんにちは!」
ひとりでいた私が、ホッとした気持ちで挨拶を返すと、彼はバッグから名刺入れを取り出した。
「樹です。仕事は、六本木と広尾でパーソナルジムを経営しています」
「凛子です。私は、フラワーデザインの仕事をしています」
「実は、ジムの会員さんから教えてもらって来たんですけど。僕、浮いてるなって思ってました」
「私も…です。ちょっと、派手な服装で来ちゃったかなって」
私より3歳上の樹は、体も声も大きく、今までに出会ったことのない体育会系の男性。ところが、シワ1つないピシッとしたスーツや、キチッと磨かれた靴、チラッと見えたバッグの中はスッキリと整頓されていて、そのギャップが好印象なのだ。
しかも、第一印象で圧倒された分、1度親しみやすさを覚えると打ち解けるのはあっという間だった。
― 彼って、いい感じかも!
こう思ったのは私だけではなかったようで、彼と縁結び会の最中にLINEを交換すると、翌日からテンポのいいやり取りが始まった。
◆
次に樹と会ったのは、1週間後。
私の会社の近くにある、恵比寿の創作和食店で食事をした。2回目のデートは、彼のジムの近くにあるスペイン料理店。樹とは、食べ物の好みがよく似ていたし、ふたりともお酒を飲まないという点でも気が合った。
その帰りに、彼から交際を申し込まれると、私たちはとんとん拍子で恋人同士となった。
― 先輩が言ったとおり、私にもすぐに彼氏ができちゃった…。あの神社の御利益!?
すっかり浮かれていた私だったが3回目のデートの後、樹の家に招かれて、一夜をともにした。
翌朝、新宿にあるタワーマンションの1室で、私は驚きの光景を目の当たりにしたのだった。
初めて彼の部屋に泊まった翌朝に、凛子が見たものとは…?
― あれっ?今、何時?
隣で眠っていたはずの彼の姿がないことに気づいたのは、6時前。
真っ白なリネンと家具で統一された樹の寝室で目を覚ますと、彼が眠っていたベッドの半分だけがキレイに整えられていた。
― ずいぶん早起きじゃない?もうちょっと一緒に寝ていたかったのに。
初めてお泊まりした日の翌朝に、ひとりだけ寝室に取り残されるのは寂しい。私は樹の姿を探してベッドから出ると、リビングへと向かった。
まだ寝ぼけた目をこすりながら、ソファに座る彼の後ろ姿に視線を移す。
「樹くん、おはよう!早起きだね…っていうか、寒くない?」
リビングのカーテンが大きく揺れているのを見ると、どうやら窓が開いているらしい。
「樹くん?…ここで寝てるの?」
話しかけても返事がないことを心配して、樹の正面にまわると、彼は目を閉じて静かに座っていた。
「ねえ、具合でも悪いのっ?大丈夫?」
私が矢継ぎ早に問いかけると、彼が鼻から大きく息を吸う音が聞こえた。
「…おはよう、凛子ちゃん。僕、今メディテーション中だから、ちょっと待っててね」
「えっ?メディ…?」
樹はそう言うと、スマホのタイマーを5分後にセットし直してふたたび目を閉じたのだった。ピピピッと通知音が鳴るまで、私はその姿をただ眺めていた。
「ごめん、ごめん!凛子ちゃんが起きる前にやっておこうと思ったんだけど。これ、瞑想!それと、空気の入れ替え!朝にやると、集中力が高まっていいんだよ」
「そ、そうなんだ…。樹くん、いないからどうしたんだろうって心配になっちゃって」
そう言いながら、樹の部屋をグルッと見渡す。
昨日の夜は、間接照明の雰囲気のある暗さで気がつかなかったけれど、物が少なく、きっちりすぎるほど整頓されている。その様子に感心していると、彼は、バケツと雑巾を手に玄関に向かうのだった。
― 待って、今から掃除?
「樹…くん?何するの?」
樹は、私が履いてきたルブタンのレッドソールを左手で持つと、右手に持った雑巾で玄関を拭き始めた。
「ああ、朝は絶対に玄関を掃除するようにしてるんだ!キレイだと、帰ってきたときも気分がいいでしょ?」
― ん?何か変な音がしない?
彼は、ザリザリと音を立てながら、一心不乱に床を磨いている。ジムの会員が、玄関掃除に塩水を使うようになってから、何となく運気が上がっていると言っていたのを真似しているそうだ。
このほかにも、樹の朝は忙しい。
朝食は、豆乳で作ったプロテインドリンクをベースに、10種類以上の野菜や果物を加えたスムージーがお決まりだ。洗濯は、3種類の柔軟剤をグラム単位で量ってブレンドしたものを使う。外出前は、バッグの中身を全部出して、持ち物チェックをした後にもう一度しまう。
確かに驚くような習慣もあったけれど、自分が気持ちよく暮らすためにやっていることを否定するつもりはない。
― いろいろと、こだわりがある人なんだなあ。
交際当初は、彼の家に泊まるたびにこんなふうに思っていたのだ。ところが、しばらくすると樹は、独自のこだわりとルーティンを私にも勧めてくるようになった。
「凛子ちゃんも、せめて玄関掃除くらいしたらいいのに」
「あーうん。朝はほかにやることがあるし、私はいいかな」
さらに、私が仕事で失敗したと話すと、朝のうちにメディテーションをしないからだよと諭してくるのだ。
正直に言うと、そんな樹にかなりうんざりしてきていたある朝のこと。
いつものように先に起きて、忙しなくしている樹が妙にいら立っていた。
「僕、コンビニに行ってくるから!玄関を掃除する塩が切れちゃって」
「そうなんだ…わかった」
私が手に持ったスマホの画面を眺めながら生返事をすると、彼は眉間に深いシワを寄せてこう言った。
「凛子ちゃんは、のんびりしてるよね。もうちょっとこだわりを持ったほうが、生活が充実するしメリハリがつくよ。僕なんか、まだほかにも…」
これには、いろいろな意味でパチッと目が覚めた。
「ねえ…もしかして樹くんって、私のこと朝からダラダラしてるって思ってない?これ、私の日課なんだけど」
樹に見せたのは、海外の有名フラワーアーティストのInstagramのアカウントだ。
私は毎朝、仕事に行く前、インスピレーションを高めるためにこうやってさまざまなデザインを見るようにしている。
「こだわりって、私の中では“1人だけの楽しみ”って意味合いが大きいんだよね。朝、ゆっくり作品を眺めたり、好きな紅茶を飲んだりしてから出勤するようにしてるんだけど、おかげで充実した1日を始められてるよ。
樹くんは、こだわりの時間…楽しい?せっかく毎日の暮らしをよくしようとこだわっていることなのに、やらなくちゃいけない義務みたいになってない?」
ここまで一気に話し終えると、樹からはグッと息を飲む音が聞こえてきた。
「義務か、そうだな。僕は、こだわっていることは楽しむよりもストイックに追求したいし、相手ともシェアしたいっていうか。凛子ちゃんとは、ちょっと考え方が違うかもしれないな」
「それって、私にも朝から玄関の掃除をしたり、洗濯とか瞑想とかも一緒に…ってこと?」
「できたらいいよね」
腹を割って話したついでに、樹が言う“まだほかにも”あるというこだわりを聞くと、ベッドメイキングの仕方や服のたたみ方、リモコン類は定位置以外に置くことは許されず、食事においては自宅では添加物NGなど、まだまだ出てきそうな勢いだった。
聞けば聞くほど、それらを一緒にこなすのは到底無理だと思った。
「…ごめんなさい。私にはできないかも」
こうして、彼とは交際3ヶ月で別れたのだった。
私は来週、例の神社にお礼参りに行くつもりだ。
この前は、「素敵な出会い」を祈願した結果、樹という彼氏ができた。けれど、今度は「私に合ったいいご縁」を祈願しようと思っている。
▶前回:デート中、スマホをずっと気にする彼氏。彼女が暴いた男の“ありえない悪行”とは?
▶1話目はこちら:「今どのくらい貯金してる?」彼氏の本性が現れた交際3ヶ月目の出来事
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