昨季ツアー初優勝を果たした三ヶ島かな【写真:荒川祐史】

写真拡大 (全2枚)

インタビュー前編、高級時計購入&ツアー初Vまでの物語

 女子ゴルフの今季国内ツアー開幕戦・ダイキンオーキッドレディスが、3月3日から沖縄・琉球GCで開催される。約3か月のオフだったが、プロ7年目の三ヶ島かな(ランテック)は、イベント出演、取材対応、練習などで忙しいオフを過ごしていた。

 理由は、昨季最終戦でメジャー大会のJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップで初優勝を飾ったからだ。優勝会見で宣言した通り、約540万円の高級腕時計も購入。「THE ANSWER」は、そんな25歳の素顔にインタビューで迫った。前後編でお届けする「前編」では初優勝以降と、ゴルフに導いてくれた父親との物語を紹介する。(取材・文=柳田 通斉)

 ◇ ◇ ◇

 三ヶ島は穏やかな笑みを浮かべ、昨年12月の状況を明かした。

「シーズン終了後の忙しさを初めて経験しました。リコーカップで優勝した後、一気にスケジュールが決まっていって、うれしい悩みでした(笑)。スポンサーさんへのあいさつ回りをしても、行った先々で『おめでとうございます』と祝福されました。花束やケーキをいただいたり、多くの方と喜べる時間が増えました」

 プライベートでは、大きな買い物をした。初優勝会見で宣言した通り、ロレックスの腕時計を一括払いで買った。

「アイスブルーを12月末に買いました。540万円です。会見で値段を聞かれた時、『言わなきゃいけないですか』と躊躇しましたが、(ネットで)『調子に乗っている』とたたかれるのも覚悟で、『500〜600万円』と言いました。

 でも、そのおかげで記事を見た(男子プロの)矢野東さんが『ちゃんとした店で買った方がいい』と連絡をくださり、銀座のお店を教えていただきました。やっぱり、初優勝は特別ですし、私がおばあちゃんになっても語り継げると思い、形に残るものを買うと決めていました。もう、ずっと欲しかったのでめちゃくちゃうれしいですし、売ることは全く考えていません。文字盤がとにかくきれいで、昨年末のJLPGAアワードにはつけていきました(笑)」

初優勝までにさまざまな苦労と決断…父親からも“独立”

 誰に何を言われようが、実力で手にした初優勝と賞金3000万円。だが、そこにたどり着くまでには、さまざまな苦労と決断があった。ゴルフを始めた10歳から時から二人三脚で歩んだ父の直(すなお)さんからも“独立”した。

「昨年5月16日、『ほけんの窓口レディース』最終日の朝に、私から父に『来週から自分でやる』と伝えました。それまでは、ずっと父がツアーに帯同してキャディーや車の運転、さまざまな手続きをしていました。それが当たり前になっていたのですが、『1人でやらないと見えない世界がある』『何かを変えたい』『甘えているところを削りたい』という思いがあり、半年以上は悩みました。父はすぐに私の思いを理解してくれて、その試合を最後に帯同しなくなりました」

 言葉通り、三ヶ島は翌週からキャディーの手配、車の運転もするようになった。

「自分で言ったからにはしっかりやらなければと思いました。それまでは父が疲れている中で運転している姿を見て、気を遣っている自分もいました。始めてみるときつかったけど、1人の時間が増えたことで冷静にいろんなことを考えられました。

 面白いことに昨年11月下旬、リコー杯の前週にゲッターズ飯田さんの本『金のカメレオン座』を読んでいたら、『2021年5月、あなたの生活のベースとなるもの(生活環境)が変わる。苦労するだろうけど、新たな人生の基盤になる』という内容のことが書かれていました。すごく勇気をもらって、その翌週に初優勝ですから感謝の思いでいっぱいです。今、一番会いたい人はゲッターズ飯田さんです」

 一方で、父とは連絡さえ取らなくなっていた。三ヶ島自身が1人の行動に慣れ、リズムができていたからだ。そして、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ第3ラウンド(R)で単独首位に立ち、2位古江彩佳と3打差で最終Rに入った。

「1番からバーディーを取れましたが、古江さんが入れ返してきて、キャディーさんと『やっぱ、入れ返してくるよね』『そりゃ、そうだ』と話していました。2番では古江さんが、第2打で直ドラ(ティーを刺さないドライバーショット)を打って気合を感じましたが、私もスキを見せないようにずっと笑顔でいました。

 そんな中、4番のロープ外にいる父に似た人を見かけたんです。でも、『ここに来るかな〜』と思って、気にすることを止めました。15番パー4では、第2打がバンカーで『目玉』の状態になりましたが、『何でここに突き刺さってるんだ』と言って、笑いました」

 古江が追い上げてきた状況で三ヶ島はボギーを打つも、16番パー3、17番パー4で連続バーディー。18番パー4はパーセーブで試合を制した。そして、仲間たちから祝福された後、約6か月ぶりに父と再会した。

優勝試合で約6か月ぶりの再会も父「じゃあ、帰るわ」

「実は18番グリーンで父の姿をハッキリと確認して、『幻じゃなかったんだ』と思いました。『おめでとう』と言ってくれて、表彰式を終えてから一緒に記念写真も撮りました。でも、父はすぐに『じゃあ、帰るわ』と言って、コースを後にしました。妹もそうですが、うちの家族はサッパリしているんです(笑)」

 もっとも、父には感謝してもしきれない。シングルプレーヤーだった父は、研究を重ねて三ヶ島のスイングを作り、レベルの高い九州のジュニア大会に出場させ、地元福岡の強豪校、沖学園高に通わせてくれた。

「ずっと、上達できるような教育をしてくれました。それが今も私のベースにあります。裕福な家庭ではなかったので、中学からジュニア仲間がいる沖学園には入れなかったけど、『ちゃんとゴルフを続けて、特待生で入れる成績を残したら高校からは』と言ってくれたので、中学の3年間は全力で頑張れました。そして、高校では上手な仲間と競い合うことができました」

 父は、三ヶ島がツアーに出始めた16年から勤務先の総合物流企業ランテックを休職し、17年限りで退職した。以降は、娘のサポートに専念してきただけに、現在は52歳にしてリタイアの状況だという。

「ここから先、父がどうしていくかは分かりませんが、ゆっくり休んでいてほしいです。これまで、ものすごく頑張ってくれたので……。私ができることとして、以前に車をプレゼントしてありますが、これからも親孝行はしていきたいです」

 目尻が下がる優しい表情ながら、芯の強さを感じる話しぶり。「後編」では、極限まで追い込まれたプロテストを振り返り、厳しさを増す国内女子ツアーをいかに戦っていくかを語っている。

■三ヶ島かな(みかしま・かな)

 1996年7月13日、福岡県須恵町生まれ。沖学園高卒。10歳でゴルフを始め、約1年後には全国小学生ゴルフ大会女子の部24位。中学、高校も全国レベルで活躍し、国内女子ツアーの最終予選(QT)を5位で突破して16年からレギュラーツアーに参戦。17年には賞金ランク41位でシード選手となり、18年7月にプロテスト合格。得意クラブは7番アイアン。20-21年統合の昨季は、獲得賞金8906万6929円で賞金ランク18位。血液型AB。

(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)