東京23区の男女の生涯未婚率ランキングを紹介します(写真:Graphs/PIXTA)

2020年国勢調査に基づく、男女都道府県別生涯未婚率ランキングをご紹介した際に「高知が女性の1位」というのが大きく話題となりました。おかげさまで複数のテレビ番組をはじめとして、多くのメディアでもランキング表が紹介されました(『「女性の生涯未婚率」東京を抜き1位の「意外な県」参照』)。

東京23区に限定した男女の生涯未婚率

これは、高知という意外なところが1位になったためですが、東京23区だけで見ても、意外な結果が出ます。今回は、東京23区に限定して男女の生涯未婚率の結果を見ていきましょう。


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ちなみに、区ごとの生涯未婚率は、国勢調査時に住んでいた住所ベースであり、出生地の未婚率を表すものではありません。また、未婚には親と同居する未婚も含まれますので、必ずしも全員が一人暮らしの単身未婚者ということではありません。東京23区に加えて、23区以外の東京地区もまとめた形で集計しています。


男性では北区が驚異の39.5%。約4割が生涯未婚という高い結果となっています(男性の全国値は25.7%)。北区以外でも、豊島区、中野区、足立区が30%超え。最も生涯未婚率の低い港区の15.8%と比べると、2.5倍もの開きがあります。

一方、女性では1位が渋谷区の31%で、こちらも女性の中では唯一の30%超えでした(女性の全国値は16.4%)。女性最下位の江戸川区とはおよそ2倍です。しかも、渋谷区の男性は29%であり、それよりも上です。

生涯未婚率が男性より女性が高い区は?

ちなみに、23区で生涯未婚率が男性より女性が高い区は全部で7区あります。渋谷に加えて、千代田、中央、港、文京、目黒、世田谷区です。

それにしても、イメージ的には「若者の街」といわれる渋谷区が、女性の生涯未婚率で圧倒的大差で1位であるのは意外に思うかもしれません。但し、生涯未婚率はあくまで若者の未婚率ではなく、45〜54歳の未婚率の平均値ですので、渋谷区にはその年代の未婚女性が多く存在するという意味になります。

何も2020年になって急にその年代の未婚女性が渋谷に集結したわけではありません。実は、1990年からの10年ごとの推移を見ても、ずっと渋谷は23区中女性の生涯未婚率1位でした。すでに2010年には30%を超えています。

コーホート別に男女で10年ごとの渋谷区の未婚率推移をみてみると、30代前半までは男性の未婚率のほうが高かったのに対し、40代前半で男女が逆転しています。つまり、渋谷区に住む40代以上の女性の未婚率は高いということです。


一方、男性の1位は北区です。20年間不動の1位をキープする女性の渋谷区と違って、男性の北区は2000年時点は5位、2010年は4位でした。この20年間をかけて徐々に1位にのしあがったことになります。北区は、2020年には女性部門でも2位に躍進しており、男女ともに未婚の多い街であるといえます。

北区も含め、男女ともに共通して生涯未婚率が高い区は、豊島区、中野区の3区のみで、あとは、男性と女性とでは値の高低エリアに差があります。男性は、足立区、葛飾区など、いわゆる下町と呼ばれる城東地区や周辺部が上位にくるのに対し、女性では、足立区、葛飾区は下位に位置し、上位は渋谷区、中野区、新宿区など中心部に集中します。男女で生涯未婚者が暮らす区が棲み分けられているということです。


東京の婚姻率は2000年以降ずっと1位

勘違いしてはいけないのは、これは一人暮らしの未婚者だけではなく親元に住む未婚者も含まれています。また、そこに45〜54歳のファミリー世帯の居住割合が多ければそれだけ下がることになります。ファミリーの多い江戸川区などが男女共通して未婚率が低いのはそのためです。

また、「生涯未婚率の高い区に住むと結婚できない」などの因果もありません。『20代独身の若者たちが東京に集まり続ける理由』の記事でもご紹介したように、東京は未婚率も高いと同時に婚姻率も高いエリアです。東京の婚姻率は2000年以降ずっと全国1位でもあります。東京では結婚できないどころか、東京こそ日本で一番結婚しやすいところといえます。

では、なぜ、生涯未婚率も高くなるのか、といえば、ひとつには「地方と比べて、結婚に対するプレッシャーが小さく、周りも未婚が多いため肩身が狭くない」という面もあるでしょう。しかし、それだけではありません。結婚する人としない人との特に本人の経済環境における影響が大きいからです。そしてそれは、男女で正反対の傾向があります。

生涯未婚率は本人の年収と深く関係します。男性の生涯未婚率は年収が低いほど高く、年収が高いほど低くなりますが、女性の場合は逆で、年収が低いほど低く、高いほど未婚率が高くなります。全国的にもそうですが、東京ではより顕著です。

2017年就業構造基本調査より、東京の有業者のみ抽出して計算すると、個人年収400万円未満の男性の生涯未婚率は35%以上になりますが、同時に、400万円以上の女性の生涯未婚率も35%以上になります。年収400万円を分岐点として、男女で平均を大きく上回る未婚率に振り分けられています。


区ごとの未婚者の所得別人口の統計はないため、2020年総務省「市町村税課税状況等の調」より、未既婚全体の23区の平均所得と生涯未婚率との相関をみることにします。それによると、男性の場合は、所得の高い区ほど未婚率が低くなり、その相関係数は▲0.6381と、強い負の相関があるといえます。女性のほうは、相関係数こそ0.2096とはいえ、所得の高い区ほど未婚率が高くなるという弱いながら正の相関がみられます。

家賃の高い区の女性の生涯未婚率が男性より高いのもその表れです。ちなみに、LIFULL HOME'Sによるワンルームなどの家賃相場は渋谷区3位、北区16位(2月7日時点)です。一人暮らしの場合は治安の良さなども考慮する必要もありますが、渋谷区などは、職場への通勤の利便性なども考慮し、バリバリ仕事で活躍する女性がそのまま生涯未婚者となったという可能性は否めません。逆にいえば、渋谷区は一人で生きる未婚女性にとって、住環境含め住みやすい街であるということかもしれません。

北区の未婚男性の場合も、自分の所得を鑑み、物価や家賃の安い北区を選択したということもいえます。不思議なのは、女性の2位も北区である点です。しかも、2010年まではトップ5圏外だったのに、急に2位になりました。

高齢化率も高い

北区は、お花見で有名な飛鳥山公園があり、大学も多く、交通の利便性も高く、その割に家賃などは安いため人口も増加中の区です。ただし、一方で高齢化率も高く、23区中2位。これは、一度北区に住んだ住人はなかなか他の区に引っ越さないという点もあるのでしょう。20年以上居住率は21.3%で23区中3位です。

20年間の北区の年齢別人口構成を比較してみると、元々20年前にいたボリューム層の25〜34歳が20年を経てそのまま45〜54歳とスライドしています。もちろん、20年間一人も区外へ移動しなかったわけではないでしょうが、年齢別のボリュームはそのまま維持されており、北区の生涯未婚率が高いのは、未婚者が他の区から移動したというより、元々いた人たちが未婚のまま年を重ねたとも考えられます。

さらに、北区の赤羽界隈は、葛飾区立石と並んで、安く美味しい酒とツマミが楽しめる「せんべろ(千円でべろべろに酔える、という意味)」の街としても有名で、昼間から酒を飲むおじさんや女性客がソロ酒を楽しむ場として、コロナ禍前はちょっとしたブームも作ったところです。

繰り返しますが、どこの区だったとしても、東京の23区の婚姻率は高いわけで、北区に住んだからといって結婚ができないとは言えません。ましてや、北区から出れば結婚できるという保証もありません。結婚しようと、独身のままであろうと、何十年も住み続けたいと思うような居心地のいい場所があるなら、それもまたひとつの幸せなのだと思います。