●企画書では今田耕司だった『神さまぁ〜ず』

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『7つの海を楽しもう!世界さまぁ〜リゾート』『櫻井・有吉THE夜会』(TBS)などを手がける水野達也氏(ジーヤマ取締役)だ。

さまぁ〜ずとは2007年にスタートした『神さまぁ〜ず』シリーズ(TBS)からの付き合いで、YouTube『さまぁ〜ずチャンネル』も一緒に立ち上げた同氏。「その先に笑いがあるならNGがない」という2人の魅力、そしてYouTubeを作ってからこそ分かったテレビの可能性も語ってくれた――。

○■スタッフには優しかった細木数子さん

水野達也1976年生まれ、静岡県出身。千葉大学工学部卒業後、CS放送や『GTに行こう』などを担当。02年に制作会社・ジーヤマへ入社し、『ズバリ言うわよ!』『世界一受けたい授業』でディレクターに。『神さまぁ〜ず』シリーズ、『炎の体育会TV』、『有田とマツコと男と女』、『キカナイト』、『23時の密着テレビ「レベチな人、見つけた」』などを手がけ、現在は『7つの海を楽しもう!世界さまぁ〜リゾート』『有吉ダマせたら10万円』で演出、『櫻井・有吉THE夜会』でプロデューサー。ジーヤマの取締役を務める。


――当連載に前回登場した『SASUKE』の乾雅人さんが、水野さんについて「有吉(弘行)さんと櫻井(翔)くんの『究極バトル“ゼウス”』という番組でご一緒したことがあったんですけど、素晴らしいディレクターです。有名なバラエティをいっぱいやっていて、ジーヤマの取締役でもいらっしゃるんですけど、ディレクターとして話を聞いてみたいですね」とおっしゃっていました。

いやいや恥ずかしいです(笑)。乾さんの番組は特殊なので、『ゼウス』以降でお仕事は一緒にしてないんですが、事あるごとにプライベートでお会いして、「そり立つ壁、登らせてくださいよ」とか言ってます(笑)

――これまで、どんな番組をご担当されてきたのですか?

この前亡くなられた細木数子さんの『ズバリ言うわよ!』(TBS)で特番のときはチーフADだったんですが、レギュラーになって坂田(栄治、総合演出)さんにディレクターにしてもらい、同時に『世界一受けたい授業』(日本テレビ)でも福士(睦、総合演出)さんにディレクターにしてもらいました。だから、僕の中には坂田・福士イズムがあるんです。

――『ズバリ言うわよ!』は、当時すごい勢いでしたよね。

細木さんは「地獄に落ちるわよ」といったワードが結構フィーチャーされていましたが、普段、僕らにはめちゃくちゃ優しい人でしたよ。よく食べる人がとにかく好きで、細木さんとご飯に行くと坂田さんと2人で吐くほどご飯食べてました(笑)

――坂田さんに前取材したとき、「言葉の力が強くて気持ちもこもってるので、発言がズドンと来て流れない」という点で、細木さんとマツコ・デラックスさんに似ているところがあるとおっしゃっていました。

たしかにそうですね。でも、マツコさんは結構命がけで身を削ってテレビと向き合ってますよね。『有田とマツコと男と女』(TBS)を少しお手伝いしてたんですが、そんな感じがしました。

――細木さんはスパッとテレビをやめられましたもんね。そこからどんな番組をやっていったのですか?

『ズバリ言うわよ!』をやってるときに、新しくさまぁ〜ずの深夜番組が始まることになるんですけど、坂田さんが「細木さんの番組は大丈夫だから、そっちに専念していいよ」と言ってくれて、『ズバリ言うわよ!』には籍だけ置かせてもらい、『神さまぁ〜ず』という番組で初めて演出をやるんです。なかなかそんなこと言ってくれる人いないんですけど、坂田さんはちょっと変わってて(笑)、「やるからにはちゃんとやれよ」と。そこで初めてさまぁ〜ずと出会ったんです。

○■「オチなくてもいいじゃん」で始められる

――『神さまぁ〜ず』はどのように立ち上がったのですか?

僕、生意気だったんでADの頃からいろいろ企画書書いてて、それが引っかかって「やってみないか?」となったんです。

――企画書にさまぁ〜ずさんでやりたいと書いてあったのですか?

本当のことを言うと、最初は今田耕司さんで企画書を書いてました(笑)。その頃のさまぁ〜ずって、『モヤさま』(テレビ東京)とか『怪しいホール貸しちゃうのかよ!!』(テレビ朝日)とかやってて「深夜の帝王」と言われていた時代だから、一緒にやれたら面白いなと思って。

――『神さまぁ〜ず』はいろいろな企画がありましたが、印象に残るものは何ですか?

「ジェントルマンNO.1決定戦」ですね。水着の女性をコース上に並べて、ジェントルマンだから少しでも体に触れたらアウトっていう企画です(笑)。有吉さんがジャッジして、今じゃできないですけど、バカバカしいし面白いし、ちゃんと成立してたし、よくできた企画だなと(笑)

あとは、ブラマヨの吉田(敬)さんの誕生日会で、延々とイスを引いて転ばせるっていうのも好きですね。今のテレビじゃ、ケガするからダメだって言われるような企画ですけど(笑)

――まさに“痛みを伴う笑い”ですね(笑)

でも、吉田さんの返しが全部めちゃくちゃ面白かったんですよ。もう現場で本当に偏頭痛になるかと思うくらい笑ってましたね。

――そこから今に至るまで、さまぁ〜ずさんとのお付き合いが続いていますが、魅力はどんなところですか?

もう10年以上付き合ってるから分かんなくなってきちゃいましたけど(笑)、あの2人に文句言う人ってほとんどいないんですよね。いい人だし、気をつかってくれるし、お笑いに対してストイックだし、ブレないところはブレないし、その分ものすごい大変だろうなと思います。

――放送作家の北本かつらさんが、「東京風の白黒はっきりさせない優しさがある」という言い方をされていました。

それはあるかもしれないですね。僕が感じたのは、「企画上、オチなくてもいいじゃん」って始められる2人なんですよ。例えば、関西の芸人さんとかだったらフリがあってオチがあってという1パッケージがあるんですけど、そういうのを明確に決めておかなくていいって言うんです。だから、ワ―って盛り上がって終わるんじゃなくて、「じゃあ、ここで終わりだから」って締めちゃって、「こんな終わり方するんですか!?」「渋すぎるでしょ!」ってみんなで笑って終わるという、あの感じがさまぁ〜ずだなあと思いますね。

●YouTubeのほうがさまぁ〜ず独特のゆるさが出やすい

さまぁ〜ず


――さまぁ〜ずさんはコンビ仲がものすごく良いというのも有名ですよね。

今どきあの年次で、一緒の楽屋で普通に会話してますから(笑)

――その点でいうと、あのキャリアでYouTubeチャンネル『さまぁ〜ずチャンネル』を始めるというのもなかなかないと思うのですが、これも水野さんが手がけているんですよね。

あれは僕がさまぁ〜ずと面白いことをやりたいなと思って、「YouTubeやりませんか?」って言ったんです。「いや〜どうですかね」って言われると思ったんですけど、「面白いことできるならいいよ」って言ってくれました。2人共、面白いことやその先に笑いがあるなら、NGがないんです。そこも魅力の1つですね。

――どんな企画を提案してもですか?

例えば大竹(一樹)さんに『夜会』に出てもらって、奥さん(=中村仁美)の話をゴリゴリしてもらって、たぶん僕が大竹家の奥さんを鬼嫁にしちゃったんですけど(笑)、それでも大竹さんが快く出てくれるのは、「その先に面白いがあるならやるよ」っていうことなんですよ。おかげで僕、大竹さんの奥さんに会うときは、いつも「すいません…」から入るんですけど(笑)

――とにかく「面白い」が正義なんですね。

そうです。逆にそれ以外はやらないと言ってるくらい、ストイックという感じもしますね。

――言われてみれば、ドラマも出ないし、コメンテーターもされないし、本当にバラエティだけですよね。今、さまぁ〜ずさんが地上波でやってる番組は、企画が立っているものが多いですが、その中で何でもできる場としてYouTubeは魅力的だったのでしょうか。

それはもちろん大きかったですね。地上波の深夜でも、やっぱりゴールデンタイムに上がる企画をやってほしいとなることが多いので、我々バラエティをやってきた人間として何かできることはないかなって探したときに、YouTubeでやっちゃえばいいかなと思ったんです。

――登録者数は50万人を超え、再生数も安定していますが、手応えはいかがでしょうか?

手応えはないですけど(笑)、見てもらってるファンの方には好評を頂いてるんじゃないかなと思います。ゲスト呼んだりしてしっかり番組みたいな感じになってるので、本当に儲からないんですよ(笑)

――制作費もかけているんですね。

YouTubeって普通そんなことしないと思うんですけど、ゲストがいたほうが2人の絡みが面白いんです。よくさまぁ〜ずって「俺ら芸能人と全然会わない仕事なんだよ」って言うんですよ。自分たちの冠番組でも『アメトーーク!』(テレビ朝日)みたいにいろんなゲストを回すんじゃなくて、2人で完結する番組が多いんです。『Qさま!!』(同)はたくさんの人がいますけど、頭いい人ばかり集まるので、フワちゃんがすごい出だしたときも「会ったことない」って言ってたし、そういうパッと出てきた若手芸人さんにあんまり会わないという話をずっとしてたので、じゃあYouTubeでそういうのもやろうと。だから、めっちゃ楽しんでくれてますね。YouTubeのほうがさまぁ〜ず独特のゆるさが出やすいなとも思います。



○■テレビ局へそのまま売り込みに

――テレビとの作り方の違いというのは、どのように意識されていますか?

圧倒的に違うのは、テレビは受け身で、ザッピングしてたまたま見ることが結構あるじゃないですか。だから、テレビがある程度ターゲットを広くとる“大砲”だとしたら、YouTubeはものすごい狭い相手に満足してもらえればいいという感じで作りますね。『さまぁ〜ずチャンネル』は、僕とさまぁ〜ずで立ち上げたので、3人のテレビ局みたいなものなので何でもできる。だからすごい自由にやらせてもらってます(笑)。普通の企画やってると思ったら急にお笑い企画やったりするし。でも、テレビでもまだまだやれることはいっぱいあると思うんですけどね。

――コンプライアンスが厳しいとか、制約が多いとかいろいろ言われていますが。

これだけ「テレビ終わってる」とか言われてる中で、『オモウマい店』(中京テレビ)とか、ヒット番組が出るじゃないですか。僕はテレビに依存してるわけじゃなくて、配信とかいろんなものをやってみて、数あるメディアの1つとして認識してるんですけど、やっぱりテレビってクリエイティブの叡智が集まっているので、すごいメディアだと思いますよ。最近はちょこちょこ配信のほうに行く人も多いですけど、テレビ界にはまだまだ才能がある人が集まってますよね。

――放送作家の樅野太紀さんが、YouTubeに比べて、テレビは「ビッグプロジェクトをやってる感じが楽しい」と言っていたのが印象的でした。

やっぱりそうですよね。『水曜日のダウンタウン』(TBS)のおぼん・こぼんさんみたいな時間をかけたドキュメンタリーみたいなのは、なかなかYouTubeではできないじゃないですか。そういうジャンルとか、タレントバラエティは、テレビが圧倒的に強いですよね。

最近テレビってすごいなと思ったのは、『さまぁ〜リゾート』って10年くらいやってるんですけど、「番組を見て、今海外に住んでます」という人がいて、その方が番組のインスタに「今、カンクン(メキシコ)に住んでいるので、リポートできます。協力させてください」ってメッセージをくれたんですよ。そういうことがあると、テレビって人の人生を変える力があるなと思うし、ちゃんと番組を作らなきゃいけないなって改めて思いましたし、やっぱりやりがいがあるなと思いましたよね。さまぁ〜ずもそういう話をすると喜んでますし、現地のロケで会った人が日本に帰ってきてスタジオに遊びに来たりすると、すごいフランクなんですよね。「お〜久しぶりだね〜」って(笑)

――『モヤさま』とか見ててもそうですけど、一般の方との壁の低さがありますよね。

そういうところはすごいですよね。

――YouTubeをやるようになって、テレビに持っていけるなと気づいたことなどはありますか?

『さまぁ〜ずチャンネル』の場合は、もともとテレビでできそうな企画もやっているので、テレビ局にそのまま売り込みに行ってます(笑)。僕が考えているのは、これからはテレビで新しい番組を打つときに、お試し枠でやるんじゃなくて、「YouTubeでこれだけ作って、相当シミュレーションできてるのでどうですか?」というふうに持っていけるんじゃないかと。

――YouTubeでパイロット版ができるというわけですね。

ヒロシさんはYouTubeでソロキャンプをやってて、BS-TBSで番組(『ヒロシのぼっちキャンプ』)になったじゃないですか。そうやってすでにファンを付けたコンテンツなら、放送してくれるのではないかと思ってるんです。

――ジーヤマさんとしては、配信系の制作も増えているのですか?

Netflixの『未来日記』も始まりましたし、めちゃくちゃ増えてます。ただ、プラットフォームが増えすぎて、今、芸人さんが本当に忙しいんですよ。『さまぁ〜ずチャンネル』で結構ダイアンに出てもらってたのに、この前オファーしたら「ちょっとその日は4本入ってて、その間に縫えるかどうかやってみます」って言われて、「ウソだろ!? ダイアン!」って(笑)。自分たちでも配信をやってるので、もう芸人さんはみんな超忙しいんです。

●「みんな今、有吉さんに褒められたい」

有吉弘行


――『夜会』をはじめ、『有吉ダマせたら10万円』(フジテレビ)など有吉さんとも結構番組をご一緒されていますが、最初の出会いはどこだったのですか?

それこそ、『神さまぁ〜ず』の「ジェントルマンNO.1決定戦」が最初だったと思います。ちょうど(品川祐を)「おしゃべりクソ野郎」と言ったか言わないかくらいのときに、当時の界隈では「有吉さん、面白いぞ」ってウワサがすごいあったんですよね。

――『有吉弘行のダレトク!?』(カンテレ)や『有吉の夏休み/冬休み』(フジテレビ)をやられている長沼昭悟さんは、有吉さんのことを「超常識人だからバランス感覚に優れている」とおっしゃっていたのですが、その部分は感じますか?

それもありますし、やっぱり感覚が鋭いですよね。すべての番組で自分が求められていることが分かっていて、使い分けてるというか。『有吉クイズ』と『かりそめ天国』と『夜会』と『正直さんぽ』で全然違いますし、そこの見極めがすごいなと思います。

あと、僕らスタッフがぬるいことをしてるとバレるというのがあります(笑)。逆に、面白いものには本当に面白いと思ってもらえるので、スタッフはみんな「有吉さんに面白いと思ってもらえるものを作ろう」という気持ちが強くなりますよね。

――演者さんでも、『有吉の壁』を見てるとそういう気持ちを感じますよね。

有吉さんの番組って、スタッフや芸人さんに限らず、ゲストでVTRに出るような役者さんも「これ、有吉さんが見てるんですよね」と聞いてきたりする感じなんですよ。やっぱりみんな今、有吉さんに褒められたいんですよね。

――『夜会』のゲストの皆さんも、そんな感じですか?

みんなそうですね。もちろん櫻井(翔)さんに対してというのもありますけど、特に有吉さんに認められたいという気持ちが、皆さん強いと思います。あれだけ天下を取っちゃったんで、本当に若いうちに一緒に仕事してて良かったなあと思います(笑)

――『夜会』での有吉さんと櫻井さんは、やはり抜群のコンビネーションですよね。

そこは櫻井さんのすごいところで、嵐としてあれだけアイドルのトップに立っても、バラエティの現場に来ると「僕はバラエティを中心でやってる方々のところに入れさせてもらってるんで」という気持ちでいらっしゃるんですよ。あんなにスターで、あれだけバラエティもやってる人なのに。だから有吉さんへはもちろん、我々スタッフにもリスペクトの気持ちがすごいですし、バラエティへの敷居のまたぎ方というのが、こっちが「そんなに低い姿勢じゃなくても大丈夫です」って言いたくなるくらい、ちゃんとしてますよね。すばらしいです。

○■国分太一が見せるたけしへの察知能力

――『櫻井・有吉THE夜会』は『櫻井有吉アブナイ夜会』からリニューアルし、演出を担当された『23時の密着テレビ「レベチな人、見つけた」』(テレビ東京)は『たけしのニッポンのミカタ!』からの番組ということで、いずれも水野さんは前身がある番組に参加するという形でしたよね。そこの難しさというのはあるのですか?

やはり前の人たちが作ってきたものがあるので、やりにくさというのはありました。『夜会』は、前の番組のスタッフが8割くらいそのままでスタートして、総合演出の僕だけが変わったみたいな感じで、最初は外様でしたよね。みんな良くしてくれましたけど、中には「なんであいつ偉そうにしてるんだ」という声もあったと思います。

――そこからどのように、自分の色というのを出していくのですか?

もう割り切って皆さんにお願いすることはするし、それで結果で出していくしかないなと思いましたね。僕に代わったタイミングで、ちょっとずつ視聴率が上がっていったりもしたので、みんながついてきてくれたというのがあると思います。

『レベチ』のほうは、局のCP(チーフプロデューサー)だけ残って前のチームが離れて、うちとBEE BRAINさんが新しく入るという感じだったので、ゼロから作るという感じでした。

ビートたけし


――(ビート)たけしさんとお仕事されるのは、これが初めてでしたか?

特番で1回ご一緒しただけで、レギュラーは初めてでした。もちろん緊張感はすごかったですけど、やっぱりコメントがさすがですよね。最初の頃は、埋もれてるアーティストやとある学問に集中している人たちを紹介する内容だったので、アートにはものすごく造詣が深いですし、「この子はこの学問に選ばれてるからずっとこれをやったほうがいい」とかズバッとおっしゃたりして、その言葉を聞いていると、やっぱりすごいなと思いました。

――あの番組って、VTR中ずっとたけしさんと国分(太一)さんのワイプが出てるんですけど、たけしさんがいろいろしゃべってるのに声がほとんどONにならないのは、たけしさんがOAで使えないこと話してるんだろうな…と(笑)

その通りです(笑)。たけしさんって、スイッチが入るといろんなことをお話しになるのですが、それを我々が止めることはしないので(笑)

――国分さんも、たけしさんと長いタッグになりました。

国分さんは、VTRを見ながらワイプのリアクションと、たけしさんの話をうまくまとめてくれるという、こっちのやってほしいことを両方やってくれるし、やっぱり長年一緒にやられてるだけあるなあと、本当に思いますね。たけしさんが多くを言わなくても察知能力が速くて、たけしさんは国分さんがいるから、この番組をやってくれているというところもあるのではないかと思います。

●VTRを2倍3倍に面白くする東野幸治

――ここまで伺った『ゼウス』『神さまぁ〜ず』『さまぁ〜リゾート』『さまぁ〜ずチャンネル』『夜会』『レベチ』のほかにも『有吉ダマせたら10万円』(フジテレビ)など、水野さんは手がけてきた番組のジャンルが本当に幅広いですよね。

僕は結構、他の演出家の人たちに比べて、小器用なほうだと思うんです。それがあんまり良くないっていうのもあるんですけど(笑)、『さまぁ〜リゾート』みたいな情報番組もできますし、『さまぁ〜ずチャンネル』みたいなバラエティも好きですし、『夜会』みたいにプライムタイムでファミリー向けに作るというのもできますという、その番組によって使い分けるというのをやってますね。

――まるで有吉さんのように!

いやいや(笑)。でも、もちろんそれぞれの番組にこだわりはあります。『さまぁ〜リゾート』だったら土曜の夜に疲れてテレビを見た人にリラックスしてもらいたいし、30分で2回は笑ってもらいたいというのを意識してますし、コロナ禍でなかなかいいロケができていないですけど、ただ情報を見せるだけじゃないという工夫は、いろいろしようと考えています。

東野幸治


――他にもいろいろな番組を手がけてきたと思いますが、特に印象に残る演者さんを挙げるとすると、どなたになりますか?

パッと思いつくのは、東野幸治さんですね。特番で何回かしかご一緒してないんですけど、めちゃくちゃすごいなと思うんです。我々が「だいたいこのくらいの上がりだな」って想像しながら作ったVTRを、2倍3倍にして面白くしてくれる。東野さんにMCをやってもらった『最強文化系コロシアム 天下一文道会』(TBS)という番組で、ホリエモンさんとDaiGoさんがババ抜きをやったんですけど、その2人のイジり方が抜群にうまかったんですよね。東野さんはよく、番組に求められることを淡々とやるだけだと言って「自分はチーフADみたいなもんです」とおっしゃるんですが、こちらからしたらめちゃくちゃ助かるんです。

――『ドッキリGP』(フジテレビ)って、スタジオ収録のスケジュールの関係でたまにVTR中に東野さんのワイプがないときがあるんですけど、やっぱりあそこにいるといないで全然面白さが違いますもんね。

それってすごいことですよね。しかも、BS-TBSで『アドベンチャー魂』という冒険する番組も始まって、運動神経がいいからトライアスロンとかもやってるし、『カリギュラ』(Amazonプライム・ビデオ)で鹿狩ってるし、同じ奥様と2回結婚してるし、娘さんとYouTubeでラジオやってるし、『街録ch』にも出てるし、その生き様がめちゃくちゃ面白いですよ。僕の書いた企画書には結構、東野さんの名前がMCで入ってるんですけど、なかなか通らなくて(笑)

○■社内で『イッテQ』演出について語る会

――今後こういう番組や作品を作っていきたいというものはありますか?

何も考えなくていい「バカだなあ」って言われるような、ただただ面白いバラエティを作りたいのと、もう1つは、世の中には埋もれているすごい人がいっぱいいるので、そういう人たちを紹介する番組をやりたいなと思いますね。今、HIKAKINを見て育って、ヒューマンビートボックスのすごい子たちがいっぱいいるんですよ。彼らが世界でヒューマンビートボックスの対決をやる動画は1,000万回再生とかになってて、YouTubeとの相性がすごくいいから、テレビでも『フリースタイルダンジョン』みたいにヒューマンビートボックスの対決番組をやりたいと言ってるんですけど、あんまりピンときてない人が多くて(笑)。『レベチ』をやって、世の中には才能にあふれた人がいっぱいいるんだなあと思ったんですよね。



――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

昔『SRS』っていうフジテレビの格闘技番組があって、100人組手をやる八巻建弐さんという空手家の方のドキュメンタリーがあったんです。大学に落ちて、浪人しようか就職しようか悩んでるときにそれを見て、「俺、こんなので負けてる場合じゃないな」と思って、人生が変わったんですよね。

そういうのもありつつ、この業界に入ってから一番すごいなと思ったのは、『(世界の果てまで)イッテQ!』(日本テレビ)でした。あまりにもすごいと思ったから、うちの会社で(演出の)古立善之さんについて語る会を開催したくらい(笑)

――ご本人のいないところでですか!?

もちろん(笑)、うちの会社は古立さんと1回も仕事したことないですから。『イッテQ』だけじゃなくて、『嵐にしやがれ』『月曜から夜ふかし』についても、みんなで集まって何がそんなにすごいんだというのを話し合ったんです。古立さんのことを知りたすぎて、『さまぁ〜リゾート』の編集所のミキサーさんを『夜ふかし』と同じ人にしてもらって、「今週の古立さん、どうだったの?」って聞いてたくらい(笑)。ナレーションのうまさと、人を嫌な気持ちにさせない編集、そしてスピード。すべてにおいてめちゃくちゃすごいじゃないですか。一時期、テレビのディレクターがみんな真似してましたからね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』(テレビ東京)をやっている斉藤崇さんです。佐久間(宣行)さんの右腕みたいな存在で、『キングちゃん』(同)、『チャンスの時間』(AMEBA)やNetflixで今度やる『トークサバイバー! 〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』もやって、千鳥さんからの信頼度がすごく高いんですよ。今我々の世代で一番番組を抱えてるんじゃないかなと思います。めちゃくちゃ仕事してるから、「どうやってやってるんですか?」って聞いてみたいです(笑)

次回の“テレビ屋”は…



『ゴッドタン』『あちこちオードリー』斉藤崇氏