「るろうに剣心」シリーズは、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の2作品あわせて70億円近い興行収入を記録 ©和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

2020年に続き、大きくコロナの影響を受けた2021年の映画興行シーン。年間最後の稼ぎどころとなる正月興行を前に、今年の概況を振り返ってみたい。

2021年の年間の興行収入(売上高に相当、以下興収)は、2000年以降で最低となった昨年(1432億8500万円)を上回りそうだが、史上最高を記録した2019年の2611億8000万円からは大きくマイナスになるのは間違いない。11月までの状況から推測すると、2019年の60%台、2020年の110〜120%となる1600億〜1700億円程度にとどまりそうだ。

10月までの興収は昨年比120〜130%で推移

今年も映画館の営業へのコロナ禍の影響は続いたものの、2020年との大きな違いは全国の映画館がクローズし、興収がゼロになるような事態には陥らなかったことだ。

4月25日には3回目の緊急事態宣言による休業要請が4都府県(東京、大阪、京都、兵庫)に出され、6月の制限緩和まで該当地域のシネコンなど大規模映画館は休業を余儀なくされた。夏以降も10月1日の全面解除まで緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が地域ごとに発令されたが、営業時間の短縮や座席数50%までの動員となる制限などはありながらも、興行は継続されてきた。

そうした結果、10月までの興収では、2020年比120〜130%ほどとなっていた。ただ、2020年は10〜12月で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(興収403億円)が記録的なヒットとなり年間興収を大きく底上げした。今年はそれに代わるメガヒット作が秋になかった。12月公開の『マトリックス レザレクションズ』『劇場版 呪術廻戦 0』『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』『キングスマン ファースト・エージェント』などの期待作はあるものの、2020年比では減速する可能性が高い。


庵野秀明総監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は100億円を超す興行収入を記録。今年を代表する1作となった ©カラー

ただ、作品ごとに見ていくと、コロナの影響をものともしない特筆すべきヒットが生まれている。まずは今年唯一の100億円越えとなった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(3月8日公開、12月15日時点の興収102.8億円)。新劇場版シリーズ4部作の最終作にして、前3作それぞれの倍近くになるシリーズ最高興収を記録。その作品性とともに今年を代表する1作となった。また、定番の人気シリーズ24作目『名探偵コナン 緋色の弾丸』(4月16日公開)は興収75億円超えのヒット。7月16日公開の『竜とそばかすの姫』(2021年12月上旬時点の推計興収65億円、以下同)も含め、アニメ作品は今年も好調だった。

コロナ影響が少ない若者向け映画がけん引

一方実写は、2020年夏公開から延期となり4月23日に封切られた『るろうに剣心 最終章 The Final』(興収43億円)と、6月4日公開の『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(興収24億円)が2部作合わせて70億円に迫る数字を記録した。

さらに、7月9日公開の『東京リベンジャーズ』は、人気漫画の実写化作品だが、コアなファン層にも支えられ、興収44億円と、2021年の邦画実写No.1のヒットを記録した。オリジナル作品も1月29日公開の『花束みたいな恋をした』が、若い世代の間で口コミが広がり、ロングランヒット。最終的には興収38億円と大健闘した。


『東京リベンジャーズ』コアなファン層にも支えられ、興行収入44億円を大健闘 ©和久井健/講談社 ©2020映画「東京リベンジャーズ」製作委員会

コロナ禍においてもコアファン層を持つシリーズ作品や、人気漫画原作の映画化作品は、しっかりと観客を動員している。平時でもヒットする作品群ではあるが、社会情勢の影響を受けない、ファンのモチベーションの高さが鮮明となった。

また、これらの作品は若い世代が観客の中心で、同世代はコロナのなかでも観たい作品があれば映画館に行くことが改めて示された。コロナの影響が続いた今年は、若い世代向けの映画がヒットした1年だったと言えるだろう。

ただし、ヒット作のなかでも、本来であればもっと興収が伸びていてもおかしくない作品も目立った。『名探偵コナン』や『るろうに剣心』2部作は100億円も視野に入っていた作品といえる。しかし、どちらも公開が緊急事態宣言と重なってしまった。公開のタイミングが違っていれば、さらに興収が上がっていたことも十分考えられる。

一方、伸び悩んでいるのが洋画。2020年はハリウッド大作の公開がほぼゼロとなったが、2021年の夏以降は戻りはじめていた。しかし、映画館への客足は思うように回復していない。

作品ごとに見ると、『ワイルド・スピード ジェットブレイク』(8月6日公開)が洋画ではトップだったが興収は36億円にとどまった。期待されたダニエル・クレイグのラスト作品『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は28億円、小栗旬が出演したモンスターバース4作目『ゴジラvsコング』は19億円ほど。作品規模や映画界の期待の大きさに対して興収が追いつかない作品がほとんどで、10億円に届かない大作も続出した。


『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は興行的には、コロナ禍の影響を受けた作品のひとつ © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

こうした洋画不振には、コロナ以外にも要因がある。そのひとつがディズニー作品に代表された「配信シフト」の姿勢だ。

ディズニーは今年だけでも『ラーヤと龍の王国』『あの夏のルカ』『ブラック・ウィドウ』『ジャングル・クルーズ』『シャン・チー/テン・リングスの伝説』『エターナルズ』『ミラベルと魔法だらけの家』など作品数は多いが、興収はいずれも10億円前後とかつてのような本来の作品力に見合った数字をあげられていない。

それは、コロナ禍において自社配信サービス・ディズニープラスでの配信開始日を劇場公開日とほぼ同時(1日違い)にしているため、都心部のシネコンなどで配給されないケースが相次いだ。

同日配信で映画館への客足に影響

米ディズニーは『シャン・チー』以降、「配信は劇場公開の45日後」とし、日本もそれにならったことで、秋以降は大規模公開の上映館数に戻っている。だが、11月5日公開の『エターナルズ』の興収見通しは11〜12億円と思わしくない。

ここからわかるのは、劇場と配信の観客の分断が進んでいること。映画館の大スクリーンで観たい映画ファンやレジャーのようなイベントとして楽しむ若年層と、家のテレビやスマホで気楽に観ることを優先するライト層で、映画というコンテンツを楽しむメディアがはっきりと分かれてきていることがうかがえる。

これは洋画だけの問題ではない。映画界がここ数年抱えていた構造的な課題で、コロナ禍によってその分断がより進んでいることがわかる。アメリカでは現在、「劇場公開から配信まで45日間」を設けるのが一般的になりつつある。日本もそれに追随するのか、日本の商習慣に寄った独自のルールを作るのか。2022年は日本映画界のひとつの節目になる年かもしれない。


2022年5月27日公開予定の『トップガン マーヴェリック』。トム・クルーズが教官として復活 © 2020 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

さて、2022年の興行はどうなるか? 映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「この2年間は通常の興行分析がなかなか難しかった。来年もコロナの状況によるが、実写もアニメも邦画はコロナ禍に積み重ねたノウハウがあり、これまでに成功してきていることをこの先もやっていくと思う。ポイントになるのは洋画だ。2022年はハリウッド大作が多いので一時的には興収は上がる。しかし、配信の状況も大きく影響してくると思われるので油断はできない」と予測する。

固定ファンのいるアニメは作品ラインナップにも安定感があり、人気原作の実写化やテレビ局映画など若い世代向けの作品が好調な邦画実写もコロナの状況にかかわらず動員が期待できる。

ハリウッド大作が牽引できるか

全体の底上げのカギになるのはやはり洋画だ。動向は読みにくいが、1980〜90年代のヒット作のシリーズ続編などの大作が、まずは追い風になりそうだ。


2022年3月18日公開予定の『SING/シング:ネクストステージ』 ©2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

とくに『トップガン マーヴェリック』や『ジュラシック・ワールド/ドミニオン』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ザ・バットマン』などは、コロナで客足が鈍った年配層を映画館に戻すきっかけになることが期待される。

これ以外にも『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』『モンスターズリーグ』『ミニオンズ フィーバー』『SING/シング:ネクストステージ』といった大作やシリーズ続編も控えている。

2022年は今年からさらに年間興収が回復することが予想される。ただし、問題はそこからだ。大高氏は「日本映画界は邦画と洋画が両輪となって連動しないと活性化しない。ひとつ危惧するのは、洋画に押し寄せている配信へのシフト強化が、邦画にどのような影響を与えていくか。この2年以上に、これからは先が見えなくなっている」と指摘する。

コロナ禍からの年配層映画ファンがどれだけ戻るか、そしてここ2年配信と興行の試行錯誤を続けたディズニー作品がどう方向性を固めるかが注目点となりそうだ。