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唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。
外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント8万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊され、たちまち3万部の大重版となった。
坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

十二指腸は交通の要所

 ウンコはなぜ茶色いのだろうか? 一見シンプルだが、この命題には消化にまつわる重大な真理が隠れている。「ウンコの謎」を知るためには、まず十二指腸の仕組みについて知っておく必要がある。

 十二指腸は小腸の一部だというと、意外に思う人が多いかもしれない。名前は知っているが、どこにあるか、何の働きをしているのかはよくわからないという人も多いだろう。

 胃の出口には「幽門」と呼ばれるゲートがある。そこを越えてすぐ下流にある短い腸が、十二指腸である。小腸は、十二指腸、空腸、回腸の三区画に分けられる。十二指腸は、そのもっとも上流にある、アルファベットのCの形をした臓器だ。

「十二指腸」は、指を一二本並べたときの幅に近い長さなので、そう呼ばれている。およそ二五センチメートルである。十二指腸を含む小腸は、栄養の吸収を行うもっとも重要な臓器だ。

 さらに、十二指腸は消化管の中でも特に大切な「交通の要所」である。まず、膵臓でつくられた膵液が、「膵管」と呼ばれる管を通って十二指腸に流れ出し、ここで食べたものと混ざる。

 膵液には、食べものの消化に必要な酵素が数多く含まれている。糖質を分解するアミラーゼや、タンパク質を分解するトリプシンやキモトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどである。つまり、膵液は三大栄養素のすべてを分解できるのだ。

 一方、十二指腸の同じところに出口を持つのが、胆管である。胆管は、肝臓でつくられた胆汁の通り道である。胆汁は胆のうと呼ばれる袋に溜められたのち、膵液と同じように十二指腸に送り出され、そこで食べたものと混ざる。胆汁に含まれる脂肪酸とリン脂質が、食べたものに含まれる脂質を吸収しやすい形に変化させる。ラーメンの液面に浮かぶ油滴を想像するとわかるように、脂質はそのままでは水に溶けない。そこで胆汁によって、水と油を混ざり合わせる作業が必要になるのだ。この作用を乳化という。

 このように、十二指腸は周囲の臓器とさまざまな形で接続した、大切な消化の場なのである。

赤い便・黒い便・白い便

 ウンコは茶色い。誰もが当たり前のようにそう思っているだろう。

 だが、考えてもみてほしい。私たちは、毎日さまざまな色のものを食べている。茶色のものばかり食べているわけではない。口に入るときはカラフルなのに、出てくるときは茶色になるというのは、一体どういうわけだろうか。

 実は、大便の茶色は胆汁の色である。もう少し正確に書くと、胆汁に含まれるビリルビンが、腸内細菌の作用でウロビリンに変化し、これが便を茶色くしているのだ。

 ビリルビンとは、赤血球の成分であるヘモグロビンが分解されてできたものである。赤血球は寿命が約百二十日で、老化した赤血球は破壊され、中のヘモグロビンが肝臓でビリルビンに変化するのだ。これが胆汁の成分として十二指腸に流出する。

 もし、何らかの理由で胆管が詰まってしまい、十二指腸に胆汁が流れ出なくなるとどうなるだろうか? 食べたものが胆汁と混じらないため、白っぽい便が出るのだ。

 他にも、病気によって便の色が変化することがある。

 例えば、便に血液が混じると、赤くなったり黒くなったりする。大腸や肛門などから出血すると、血液がそのまま便に付着し、真っ赤になる。一方、胃や十二指腸のように上流から出血した場合は、便が真っ黒になる。消化管を通って肛門まで到達する長い道のりで、ヘモグロビンが変性して赤色から黒色に変化するからだ。

 まるで海苔の佃煮のように、真っ黒でドロッとした便が特徴的である。

 また、飲んだ薬の影響で便の色が変化することもある。例えば、検査のためにバリウムを飲んだら便は白くなるし、貧血の治療で鉄剤を飲んでいる人の便は黒い。

 ともかく便には、体の不調から飲んだ薬まで、非常にたくさんの情報が詰まっている。ちょうど家庭ゴミから個人の趣味・嗜好、年齢や性別まで読み取れてしまうという話があるように、私たちの排泄物は実に雄弁に体の内情を語るのだ。

(※本原稿は『すばらしい人体』からの抜粋です)