ミドル世代で独身の私。今の「家賃並みの返済」でマンションを購入したいが、本当に買っても大丈夫なのか?(写真:ふじよ/PIXTA)

「家は持ち家賃貸、結局どちらがいいのでしょうか?」

ファイナンシャルプランナーである筆者も、よく聞かれることです。

家を買いたい「動機」を、経済的に多少無理してでも満たすことができれば「買ってよかった」となるでしょうし、ローンの支払いに苦しむことになれば「買わなければよかった」となります。結局のところ、持ち家を買うかどうかの答えは人それぞれということに行き着きます。正しい「解」はその人にしか決められません。しっかり考えるために、家を買うときに考えるべきポイントをお伝えします。

月8万円の賃貸生活を脱したい49歳会社員

会社員の高橋菜々美さん(仮名、49歳)は、現在、家賃8万円のマンションで1人暮らしです。買いたいマンションが見つかりましたが、本当に買っても大丈夫なのかと悩んでいます。

高橋さんが家を買いたい「動機」は2つです。1つはコロナ禍の在宅勤務で家にいる時間が多くなり、住環境を向上させたいこと。もう1つは長い老後を思うと、どこかのタイミングで家を買うほうが老後の生活コストを下げられるのではないか、ということです。

仮に、高橋さんが女性の平均寿命86歳まで賃貸に住み続け、インフレや家賃の高騰などを考えなければ、約3600万円がかかります。検討中の物件は都内の1LKで35平方メートル、価格3400万円の新築マンションです。

高橋さんはコツコツ貯めた貯蓄から800万円を頭金にする予定です。手数料などの費用を支払うと、貯蓄残高は200万円になります。返済計画書によると、借入額2600万円、変動金利0.625%、借入期間30年、毎月返済額は今の家賃並みの約8万円です。

そのほか、月々の管理費が約1万2000円、修繕積立金は5年ごとに上がり、20年目と24年目は一括支払いで、平均すると年間で約19万円。固定資産税が約13万円程度です。

高橋さんは継続雇用で65歳まで働く予定ですが、計算すると、65歳時点のローン残高は約1270万円です。65歳以降79歳になるまで8万円のローンを支払い続けることができるでしょうか。

高橋さんが受け取る年金の見込み額は年間約188万円です。手取り160万円ほどとすると、生活費は月13万円。退職金は800万円ほどの見込みで、現在の貯蓄額200万円と合わせると1000万円。65歳以降30年間生きるとして、年間に取り崩せる額は33万円です。月額2万8000円ですので、老後の生活費は約15万8000円となります。

一方で、住宅にかかる費用は、ローン完済まで月額約11万9000円で、差し引くと3万9000円。生活が成り立たない可能性が大きいでしょう。変動金利で計算しているため、将来金利上昇によって返済額が増えることもありえます。

ではどうすればいいのか。解決策として考えられるのは「働く期間を延ばし、現役時代にローンを終わらせる」ことでしょう。

高橋さんの今後の平均手取り年収は約428万円です。70歳まで働くことを前提に、借入期間を30年から20年に短縮して計算してみます。

毎月の返済額は約11万5000円です。住宅関係費用は手取り年収の約4割で、差し引くと残りの生活費は20万3000円。頑張れば貯蓄もできそうです。借入期間を10年短くすると毎月の支払額は増えますが、利息を約85万円も減らすことができます。

「年金繰り下げ」と「住宅ローン控除」の威力

長く働くことで老後生活費を増やすことができますし、適用事業所で働けば、70歳未満の者は厚生年金の被保険者になるので、働いた分、老齢厚生年金額も増えます。また、繰り下げ受給をすると、年金額は月に0.7%増額します(在職老齢年金制度で停止されている部分は繰り下げできません)。

高橋さんが70歳まで繰り下げた場合は年額約267万円になり、手取りを約215万円として月額17万9000円となります。年間取り崩し可能額を33万円のままとしても、月の生活費は20万7000円です。住宅費用を引いた16万8000円が自由に使える金額です。

ただし、このシミュレーションは変動金利かつ健康で働き続けられることが前提です。もっと手堅く考えるには、物件価格を下げて全期間固定金利で試算することです。

住宅ローン控除を使える場合は、還付された税金を貯めておいて、必ず繰り上げ返済をすると決めるとよいでしょう。住宅ローン控除は、ローンで住宅を取得したり改築したりした場合に、年末ローン残高の1%を所得税額から差し引く仕組みで、原則10年間控除を受けられます。

2020年末までに入居する場合は特例として13年間控除ができることになっていましたが(11〜13年目は「ローン残高の1%分」と「建物価格×2%÷3」のいずれか低い金額を控除する)、2021年度税制改正で、特例期間を2022年末まで延長することになります。また、減税の対象物件の床面積が「50平方メートル以上」から「40平方メートル以上」に変わります(所得制限あり)。

高橋さんの場合は、面積要件に該当しないため、住宅ローン減税は受けられません。物件を見直すことも検討するとよいかもしれません。

東京23区の新築マンションの平均価格は、2013年が約5900万円、2020年は約7800万円と1.3倍になっています。2021年も価格上昇は継続するとみられています(不動産経済研究所データより)。購入時期の検討もお勧めしたいです。20年30年と続く支払いです。慎重に考えましょう。