バイデン当確に熱狂した市民も、普通の生活に戻る。次のマーケットの転換点はどこになるのか(写真:ロイター/アフロ)

長かった2020年のアメリカ大統領選挙もようやく決着を迎えることになりそうだ。11月7日のアメリカ東部時間午前、異様なほどに慎重な姿勢を維持してきた同国の主要メディアが、せきを切ったように民主党のジョー・バイデン候補の当確を打ち始めた。

「バイデン大統領誕生確実」でも残る「波乱の芽」

一方、現職大統領であるドナルド・トランプ氏の陣営は票の数え直しや不正を理由にした投票の無効を求める訴訟を起こすとしており、最終決着にはまだ至らないかもしれない。だが、この結果が覆ることもないだろう。

仮に最高裁判所の判断を仰ぐまでの事態となったとしても、10月に上院でスピード承認して半ば強引に押し込んだエイミー・バレット氏も含め、判事がバイデン候補の当選を取り消すような判断を下すことはなさそうだ。

両候補の獲得票が過去最高を更新、7000万票を超えるに至るまでに盛り上がった選挙だったが、この先は注目度も急速に下がってきそうだ。好天に恵まれたこともあり、民主党の支持者の多いニューヨークでは至る所でお祭り騒ぎとなったが、それが終わればほとんどの人々は日常に戻っていく。新型コロナウイルスとの戦いが依然として続いている中、いつまでも選挙結果に浮かれている場合ではないからだ。

もっともマーケットの関係者にとっては、まだ選挙は終わってはいない。下院は共和党に激しく追い上げられながらも、かろうじて民主党が多数を取る見込みとなった。だが、上院は「どちらの支配」になるのかが、まだ確定していないからだ。

原稿執筆時点(10日午後)では、上院の議席数は「48対48」で民主、共和両党が均衡、アラスカ、ノースカロライナ、ジョージア州の2議席の残り合計4議席は、まだ結果が出ていない(一部ではノースカロライナで共和党勝利としているところも)。

このうちアラスカとノースカロライナは共和党が勝利する可能性が高そうだ。だが、ジョージア州は2議席(うち1議席は現職議員の引退に伴う予備選挙)に過半数の得票を得た候補がなく、州の規定により決戦投票に持ち込まれることになった。

このジョージア州の2議席共に民主党が勝利した場合、上院の議席数は50対50となる。上院の規定では法案の審議で賛成票と反対票が同数となった場合、議長を兼務するカマラ・ハリス次期副大統領の投じる1票に委ねられることになっていることから、事実上民主党が多数を占めることになるわけだ。

上院のマジョリティー(多数党)が民主、共和のどちらになるのかは、バイデン新政権がこの先政策を推し進めていくうえで非常に重要な意味を持ってくる。来年1月5日に予定されている決選投票は、ある意味、大統領選挙よりも注目されるべきイベントだ。

保守色が強いジョージア州で民主党候補の勝利はある?

元々ジョージア州は保守色が強く、大統領選でも1992年に当時のビル・クリントン候補が現職のパパブッシュであるジョージ・H・W・ブッシュ大統領を打ち負かして以降は、すべて共和党候補が勝利している。

そうした共和党の地盤で未確定ながらもバイデン候補の票がトランプ大統領を上回り、上院選でも共和党候補が過半数を取り切れないほどまでに追い上げたことは、今回のいちばんのサプライズと言ってもよい。

その立役者として一層の注目を集めているのが、ステイシー・エイブラムス元下院議員だ。エイブラムス議員は2018年の州知事に立候補、予備選挙を勝ち抜き黒人女性として初めて民主党の候補となった。

そして、多数の選挙人登録の拒否など、共和党が多数を取る州政府の嫌がらせをものともせず、本命とされる共和党の候補に肉薄、僅差で敗れ去ったのだ。このときに黒人などそれまで選挙にほとんど行ったことがなかったマイノリティーに対して、選挙人登録を勧める活動を地道に行い、マイノリティー票の掘り起こしに大きく貢献したとされている。彼女の貢献がなければ、今回の同州における民主党の躍進はなかったと、評価する声が一気に高まったわけだ。

肝心の決戦投票であるが、筆者は民主党が今の勢いを維持したまま2議席ともに勝利する可能性は、かなり高いと見ている。

今回の選挙では事前予想で圧倒的に不利とされていたトランプ大統領が予想外に健闘、下院選でも共和党が民主党から多くの議席を奪還、多数を取るには至らなかったものの、事前の想定以上に躍進した。

結局、トランプ大統領の人気は、やはり相当高かったということであり、議会選で共和党の票が伸びたのは、トランプ大統領に勝たせたい一心で投票所に赴いた支持者が、「ついでに」共和党の議員候補の名前を書いたというのが多かったからなのではないか。

となるとトランプ大統領がいない1月の決選投票は、共和党がかなり不利になると見ておいたほうがよいだろう。大統領選で勝利し、気をよくした民主党の支持者はこのままの勢いで決選投票にも足を運ぶと思われるが、一方で共和党の支持者は意気消沈している。

大統領選の決戦投票ならば、今度こそと盛り上がるのかもしれないが、トランプのいなくなった共和党には、とくに興味もないという人も多いだろう。共和党支持者の投票率が下がれば、思った以上の大差で民主党候補が勝つことも、十分にありうるのではないか。

マーケットには民主党の勝利は必ずしもプラスではない

もっともマーケットにとってみれば、それは必ずしもよいことではない。

確かに、短期的には民主党が上下両院で多数を取ることで、今よりも規模の大きい景気支援策が早期に成立する可能性が一気に高まることになる。これで主要株価指数が改めて史上最高値を試す展開になることになっても、何ら不思議ではない。

だが、それも実際に景気支援策が成立するまでの話となるだろう。その後は買い材料も出つくし、大幅な財政出動に伴う財政赤字の拡大や、それに伴う金利の上昇といった負の側面に注目が集まるようになれば、株価の調整圧力は一気に高まってくることになる。

しかも、その次に民主党から出てくるのは、企業や高額所得者に対する増税や、規制強化、GAFAと呼ばれるハイテク大手の解体といった、市場にとっては好ましくない民主党の過激な政策ばかりということになりかねない。

また、対中国政策に関しても、口では威勢のいい、強気の発言を繰り返していても、いざとなれば中国に対して譲歩の連続だったトランプ政権に比べ、より厳しい方針を打ち出してくる可能性が高いと見ておくべきだ。

来年の1月5日に決選投票が控えていることを忘れず、民主党が勝利することがあれば、大型財政出動への期待に市場が浮かれているのを横目に、こうした弱気シナリオに対する警戒感を高めておく必要がある。