巨悪・箕部啓治幹事長(柄本明)に戦いを挑む姿が描かれた日曜劇場『半沢直樹』第9話。息をのむ怒涛の展開に、ネット上では「話がすごすぎて窒息しそう」と大反響だったが、最終回を前にして、改めて半沢直樹(堺雅人)の人間力が浮き彫りになる回となった。(以下、第9話ネタバレあり)


第8話ラスト、これまで半沢を目の敵にしていた金融庁の黒崎が託した「伊勢志摩ステート」というキーワード。元部下の森山(賀来賢人)と共に、東京中央銀行に潜むパンドラの箱を開けようとする半沢。


『半沢直樹』と言えば、「やられたらやり返す!倍返しだ!」のフレーズのように、苦杯を喫した相手にリベンジしていく姿が爽快な物語だが、前に現れるのは決して敵ばかりではない。半沢のバンカーとしての正義を貫く姿勢に惹かれ、心強い味方が次々と登場するのだ。



逆に言えば、どんなに強い心を持っていても、「人は一人では戦えない」というメッセージも含まれている。特に、銀翼のイカロス編で半沢が対峙するのは、日本政府の中枢人物。一介の銀行員である半沢一人では到底立ち向かえない相手だ。


前シリーズで土下座させられた大和田(香川照之)も「お前なんか大嫌いだ」と言いつつ、半沢のバンカーとしての能力とゆるぎない信念には一目を置き、不本意ながらも手を組む。第9話でも、大和田への強請りの道具としてだが、なんだかんだでしっかりカメラ目線でツーショット写真を撮るシーンも微笑ましい。

さらに第8話で、国税庁へ飛ばされる際、箕部幹事長の不正を暴くことを半沢に託した黒崎(片岡愛之助)も「あんたのことなんて大嫌い」と口では言うが、第9話では、半沢からの要請にウキウキ顔で協力。紀本常務(段田安則)と箕部幹事長の癒着の決定的な証拠を掴むために、大立ち回りで大活躍。半沢への“愛”が強く感じられた。

また前シリーズからずっと半沢を見守っているフェアリー渡真利忍(及川光博)も、毎回ムチャぶりをする半沢のお願いに、憎まれ口を叩きつつも喜んで応じてくれる。二人は同じ大学出身で、同期入社というつながりがあるが、「お前には絶対迷惑をかけないようにするからさ」という半沢の言葉に「迷惑かけないってなんだよ!お前のような男こそ、人の上に立つべきだと思っているんだ。銀行のトップに行く男だと。だからこそ危ない橋を渡ってきたんだ。そこのところ見くびらないでもらえます?」と胸アツ発言。

東京中央銀行で半沢イズムを叩き込まれた森山も、箕部という巨大な敵に挑むために「危ない橋を渡らせるわけにはいかない」という半沢の親心に対して「次長の力になりたいんです。次長に出会って人生が変わりました。大事なのは感謝と恩返し。恩返しさせてください」と熱い思いを吐露する。

こうした自分の保身を顧みずに協力してくれる人たちの力を借りて半沢は、箕部が銀行から借りた20億円という金を伊勢志摩ステートに融資し、二束三文で土地を買わせ、そこに空港を誘致することで、高額に売却するという錬金術のからくりにたどり着く。



ほかにも、前シリーズで半沢にコテンパンにやられてしまったタブレット福山(山田純大)も、本シリーズでは半沢に協力する。「大和田さんの指示だから」と相変わらず嫌味っぽいが、どことなく半沢に協力することが楽しそうに感じられる。東京中央銀行の闇を知る小料理屋の女将・智美(井川遥)も、途中まで敵か味方が分からないような立ち位置だったが、半沢のバンカーとしての清廉さに心を許し、協力的な姿勢を見せる。

なぜ半沢と関わった人たちは、みな半沢に惹かれていくのか。それは“ブレない”信念があるからだろう。ある意味で半沢は聖人君主ではない。これまでもかなりダーティーなことをやって難局を乗り切ってきたことも多い。それでもバンカーとしてのポリシーは、どんな相手であってもブレることがない。

そんな半沢の魂の叫びと言えるのが、中野渡頭取(北大路欣也)、大田和、箕部幹事長という強烈な面々に発した第9話のラストシーンだ。


箕部のすさまじい圧力に、中野渡頭取も大和田もなすすべがないというなか、箕部幹事長から土下座を命令された半沢。大和田も半沢の頭を押さえつけ、背中に覆いかぶさり土下座を強要するが、半沢は断固拒否。



箕部幹事長に屈しようする中野渡頭取に向かい「私は銀行を信じています。我々は金融の力で世の中の懸命に働く人たちの助けになるのだと。この銀行に勤めるほとんどのバンカーがその正義を、その使命を信じています。だからこそ己に厳しく、謙虚に自分たちでなく、世間の利益となることを最優先に心掛け、真摯に励んできたんです。あなたのしたことは懸命に働く全銀行員の裏切りにほかならない。到底許すことなどできません」と糾弾。



さらに箕部幹事長に「あなたはもはや政治家ですらない、欲にまみれたただの醜い老いぼれだ」と言い放つと「この借りは必ず返します。やられたらやり返す、倍いえ3人まとめて1000倍返しだ!」と宣言した。

いよいよ最終回。こうした半沢のブレない信念は、さらに多くの人を引き寄せるかもしれない。箕部幹事長の秘書・笠松(児嶋一哉)や、白井議員(江口のりこ)など、不穏な動きも見せており、もしかすると最後、半沢の救世主となるのかも……というような期待を持ちつつ、1週間を待ちたい。



日曜劇場『半沢直樹』

最終回 9月27日 日曜 よる9時放送

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