縦折りスマホ、razrとGalaxy Z Flipを比較レビュー。超ワイド画面は動画時代の最適解(山根博士)

世界初の「縦折り式」スマートフォン、モトローラの「razr」が市場に登場したのは2020年2月でした。しかし現時点でも、販売国はアメリカやヨーロッパなどにとどまっています。一方、同じく縦に折るサムスン「Galaxy Z Flip」は2020年2月に発表されました。こちらはサムスンの他のモデル同様、日本を含む世界各国で販売されています。

筆者は6月中旬にようやくrazrを入手して使い始めました。すでに所有しているGalaxy Z Flipと使い勝手を比較しつつ、ディスプレイが縦に曲がる形状のスマートフォンはこれからの時代に最適なデザインではないかと感じています。

razrの詳細はすでに多くの情報がネット上に出ているため省きますが、チップセットにSnapdragon 710を採用するミッドハイレンジの4Gスマートフォンで、6.2インチのディスプレイを搭載します。

このディスプレイの解像度は2142 x 867ピクセルと縦方向に長く、アスペクト比22:9のワイドなデザイン。しかし、本体を閉じると約半分の大きさとなり、片手で楽に持てるコンパクトサイズとなります。

razrのディスプレイは上下部分がカーブしておりノッチもあるため、写真や動画を拡大表示すると一部が切り取られます。最近のスマートフォンはiPhoneを除くとノッチが無くなり、フロントカメラもかなり小さくなっているため、少し気になるところです。

このあたりは開くと長方形になるGalaxy Z Flipのほうが、視野性は高いように感じます。

また、開いた状態でディスプレイ全面を使っても、razrはノッチやカーブ部分で写真が切られてしまいます。ただし、本体デザインを優先してカーブディスプレイを採用したのでしょうから、このあたりは仕方ないところでもあります。

▲上がrazr、下がGalaxy Z Flip。ギャラリーから写真全体を表示したところ

しかし、本体を閉じたときのデザインの美しさはrazrの圧勝と感じます。

razrのディスプレイは閉じると隙間がほどんどありません。閉じたディスプレイ同士が当たって傷が付かないように内部にわずかな突起がありますが、コンマ数ミリレベル。閉じると厚みは14ミリとなります。また閉じると上下ともに弧を描いた形状となるため、手のひらへの収まりはとても良好です。

Galaxy Z Flipは閉じたときに隙間があり、厚さは17.3ミリ。しかもほぼ正方形です。握りにくいことはありませんが、数値の差以上にrazrは優れたホールド感を実現しています。

毎日持ち歩くスマートフォンだけに、「手に持った時の感覚」の差は気になるもの。razrなら1日中握りしめていても苦にならないと思えるほど、心地よいのです。

razrはこのようにぴたりと閉じられるため、閉じたままでも人に見せたくなる魅力を持っていますが、一方で開いて使う際にはディスプレイ表面の柔らかさがかなり気になります。指先で押す分には「ガラスより若干柔らかいかな」と感じる程度ですが、爪を立てて強く押すと容易に傷がついてしまいそうです。

また、razrのディスプレイは閉じたときに曲がったヒンジ部分の「伸び」部分を、ヒンジの内側に逃がすという、かなりトリッキーな構造を採用しています。そのためディスプレイの曲がる部分は本体から浮いた状態になっています。この浮いたエリアはヒンジ部分を中心にディスプレイ全体の1/4から1/3くらいあり、指先でディスプレイを触ったり、消灯して横から見るとわかります。

写真では照明の関係からヒンジ左部分に影が出てておりディスプレイ面が大きくへこんでいるように見えます。実際は右側のように平滑になっているのですが、この部分が浮いた状態になっているためガラスのように完全なフラット状態ではないのです。

ヒンジ部分をこのように処理しているため、razrは保護フィルムの貼り付けを推奨していません。フィルムの厚みで閉じた時に浮きが生じてしまいますし、ヒンジ部分への逃げがフィルムのせいでうまく逃げられず、曲げた部分のディスプレイに亀裂が入りやすくなるからです。

保護フィルムを貼り付けずに使い続けるとなると、細心の注意を払わなければならないという点は、razrを使い始めて日々感じるネガティブポイントです。

razrを片手で持って親指で開く、勢いをつけて閉じる──という操作は、ディスプレイ表面を指先や爪で無理に押してしまうことにもなり、オススメしません。片手操作をするとさらにカッコよさが際立ちますが……。

このヒンジ部分の処理はGalaxy Z Flipでは大きく異なり、閉じたときに隙間が空きます。筆者は保護フィルムを貼り付けてから使っていますが、トラブルは起きていません。

また、曲がるヒンジ部分にガイドとしてディスプレイの表面にうっすらと1本の筋を入れています。ディスプレイがそのガイド部分以外の全てに密着しますので、ディスプレイ表面の作りは全体的にしっかりしていると感じます。

写真では影が強調されているため筋がくっきりと見えますが、実際はここまでは見えません。

サムスンは2019年4月にプレリリースしたGalaxy Foldのディスプレイの弱さが問題になり、発売が約半年延期となりました。2機種目となるGalaxy Z Flipはその反省も踏まえてディスプレイの強度にはかなり気を使っています。

モトローラは初めて開発した折りたたみディスプレイ搭載スマートフォンがrazrであり、しかもデザインを優先したことから、ディスプレイの強度に関しては現時点ではまだ合格点をあげられないと筆者は感じます。

では、razrを入手した筆者はこうした点に不満を感じているのでしょうか? 実は不満どころか日々持ち歩くことに大きな喜びを感じているのです。洗練されたデザインだけでも物欲・所有欲を満たしてくれます。

ディスプレイの弱さは「デザインとのトレードオフ」と考えてしまえば気になりません。つまり「高価なスマートフォンなのだからちゃんとしていなくては困る」と考える人にはrazrは向いていないのです。「このデザインが気に入り、毎日使いたい。そのためには苦労をいとわない」と思う人であればrazrを持つと幸せになれるでしょう。

またrazrの魅力は、デザインだけではありません。22:9のワイドディスプレイが使いやすいのです。すでに筆者は3月からGalaxy Z Flipを使っていますが、こちらもディスプレイのアスペクト比はrazrと同じ22:9です(サイズは6.7インチ、2636x1080ピクセル)。

ソニーモバイルのXperia 1 IIやXperia 10 IIの21:9よりもさらにワイドなこのディスプレイは、これからのスマートフォンの使い方に適したデザインだと感じます。

試しに19:9のGalaxy S10+とGalaxy Z Flipで表示したTwitterの画面を並べてみます。

左がGalaxy Z Flip、右がGalaxy S10+です。このようにアスペクト比が大きいほうが1画面の情報量が増えます。SNSを常用する現代において、一画面に表示できる情報量は多いほうがいいに決まっています。

そして利点はこれだけではありません。この状態でYouTubeをポップアップ画面で表示してみます。

▲Galaxy Z Flip(左)は、後ろのアプリ表示で隠されるエリアが狭くなります

このように動画を見ながら他のアプリを利用するという使い方は、アップルがiOS 14で「ピクチャ・イン・ピクチャ」機能を追加したことからわかるように、これから一般的になるでしょう。大型化するスマートフォンのディスプレイを1つのアプリだけで占有する時代は終わりを告げようとしています。

そんな動画ファーストの時代にrazrやGalaxy Z Flipであればワイド画面を折りたたみ、片手で持ち運ぶことができるわけです。また2つのアプリを2分割表示して使う際も便利です。

一方で今後に望むのは、閉じた状態でもスマートフォンとしてある程度使えるようになることです。

とくにrazrは、背面に2.7インチ800x600ピクセルのセカンドディスプレイこそ搭載されていますが、通知を受けるなど、できることは最小限なのです。

モトローラのスマートフォンに搭載されている本体を振って操作する「Motoエクスペリエンス」を使うことで閉じたままでもカメラ操作などはできますが、いずれはGalaxy Foldの外部ディスプレイのように、ここからもアプリが使えるようになる後継機が出てくることに期待したいものです。

縦折り式のスマートフォンは価格が高いことから、現時点ではプレミアムな製品という印象を受けます。やがて5Gの普及が進み動画を見ながら他のアプリを使うことが日常的になれば、今よりもワイドサイズのディスプレイが求められるようになります。

razrもGalaxy Z Flipも縦折りディスプレイの最初のモデルですから、まだ完全に成熟した製品とはいえません。しかし、ガラケーがストレート型から折りたたみ型へ進化したように、スマートフォンもいずれ縦折りスタイルが当たり前になるのかもしれない──razrとGalaxy Z Flipを使いながら、そんなことを感じました。