最新版「CSR企業ランキング」トップ10社

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14回目にして初の首位となったのは「au」ブランドを展開するKDDIだった(撮影:尾形文繁)

新型コロナウイルスが猛威を振るい、社会の仕組みが大きく変わりつつある。混乱の中、上場企業をはじめとする大手企業には、感染防止のための大規模な休業や非正規を含む従業員の雇用維持、全社的なテレワーク推進など、業績悪化も覚悟しながらの新たな社会的責任が求められている。

東洋経済はCSR(企業の社会的責任)と財務の両面から「幅広いステークホルダーに信頼される会社」を見つけることを目的に、「東洋経済CSR調査」データベースを基に「CSR企業ランキング」を作成・発表してきた。

14回目となる今回は、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)(ESG編)』に掲載する1593社を対象に、CSR141項目、財務15項目で総合評価を行った(ポイント算出方法など、ランキングについての解説はこちら)。ウィズコロナ、アフターコロナも生き残っていける信頼される会社を見つけていきたい。


KDDIが初めての首位に


『CSR企業白書』2020年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

今回は上位500社を紹介する。上位800社や、さらに詳しい内訳得点などランキングの詳細は『CSR企業白書』2020年版に掲載している。

では、ランキングを見ていこう。1位はKDDI(総合ポイント575.0点)だった。人材活用12位(96.0点)、環境8位(97.3点)、企業統治+社会性6位(98.3点)、財務3位(283.4点)とバランスよく得点。NTTドコモを上回り、昨年の2位から初めてのトップとなった。

KDDIフィロソフィを中心に「安全で強靭な情報通信社会の構築」「多様な人材の育成と働きがいのある労働環境の実現」などをCSR活動のマテリアリティ(重要課題)に挙げる。

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)にも積極的に取り組んでいる。離島経済新聞社とともに離島地域の活性化を目的とした「しまものプロジェクト」を実施し、自社の技術を活用した活動を幅広く行っている。

専任のサステナビリティ担当役員が会社の課題を幅広く見渡せる体制を整備。全社員への内部通報制度に関する意識調査の実施や、内部監査部門の設置、グループ内に内部統制責任者の任命・配置など、高いレベルのガバナンスも含めて企業統治+社会性の評価が高かった。

3月末には新型コロナウイルス感染症対策として、社会福祉法人中央共同募金会の赤い羽根「臨時休校中の子どもと家族を支えよう緊急支援募金」に1億円を寄付。4月30日には、グループ会社やサイトでの募金を合わせて351万5500円の追加寄付も実施した。

さらに5月14日には、同社が備蓄していた、医療用品に代用可能な防護服1010着、ゴーグル457個を、全国7カ所の医療機関に提供した。

際立つNTTグループの強さ

2位はNTTドコモ(総合ポイント572.6点)。2年連続トップから一歩後退となった。

部門別は企業統治+社会性99.4点(2位)、財務283.3点(4位)が5位以内。人材活用93.9点(27位)、環境96.0点(21位)も高得点でバランスよく得点した。

活動のマテリアリティは「ICTによる社会・環境への貢献」「コーポレートガバナンスの強化」「人権と多様性の尊重」「気候変動への対応と資源の有効利用」など8つの重点課題を設定し、取り組みを進めている。

社会のインフラを担う企業として、災害時などの危機管理活動はとくに強化している。社内外に設置されたコンプライアンス相談窓口は、通報者が不利益にならないよう徹底。相談(通報)件数も2016年度111件、2017年度111件、2018年度114件と、通報しやすい環境が整っている。

モバイルICTやIoT(モノのインターネット)を活用した取り組みは年々進化。リアルタイムな乗降リクエストから、AI(人工知能)が最適解を判断し「車両配車や運行指示」を行うオンデマンド交通システムなど、本業の通信事業を活用した課題解決ビジネスも積極的に推進している。

ソーラーパネルや大容量蓄電池を導入して「グリーン基地局」を整備。2018年度末には200局で運用するなど、CO2排出の削減にも取り組んでいる。

1999年から「ドコモの森」づくりを推進し、2019年3月時点で全国47都道府県49カ所(総面積190ヘクタール)に設置。定期的な森林整備活動を実施し、温暖化防止、森林・生物多様性の保全に貢献している。

人材活用面も先進的だ。有給休暇取得率は2018年度で91.4%と高い水準。子育て面でも多くの制度が整う。育児休業は生後満3年まで取得可能。短時間勤務は小学3年生の年度末まで取得できるなど、家庭と仕事の両立支援に力を入れる。

ほかにも、フレックスタイム制度、半日・時間単位の有給休暇制度、2018年度に6349人が利用した在宅勤務制度といった、ワーク・ライフ・バランスを進めるための制度が数多く整備されている。

3位は、昨年11位から上昇した日本電信電話(NTT)の総合ポイント569.0点。人材活用12位(96.0点)、環境39位(94.7点)、企業統治+社会性15位(97.2点)、財務7位(281.1点)だった。

有給休暇取得率は96.4%と高水準。障害者雇用率2.67%、介護休業は最大1年6カ月まで取得可能など、高い数値や制度が並ぶ。

ICTを活用したプロジェクトを地方自治体や企業と連携して実施。訪日外国人旅行者向けの観光情報提供サービスや、ICTを活用した農業管理システムの実証実験などを通じて、社会課題解決と事業の両立を目指している。

南アフリカ共和国では「土曜学校」と呼ばれる学生の学力向上支援プロジェクトを、子会社で同国大手のITベンダー・ディメンションデータが行っている。このように本業以外の取り組みも多い。

また、特例子会社であるNTTクラルティでは、四肢・内部・精神障害者による電話応対業務・電子化業務や、知的障害者による紙すき事業、視覚障害者によるWebアクセシビリティなどの業務展開を行い、高い障害者雇用率を達成している。

4位の花王は人材活用で上位に

4位は、昨年3位から1つランクダウンした花王(総合ポイント567.0点)。人材活用5位(98.0点)、環境39位(94.7点)、企業統治+社会性35位(95.5点)、財務20位(278.8点)と人材活用が強い。

女性管理職比率16.8%、同部長比率9.5%と高い女性比率や、65歳までの完全雇用制度などは特筆。パートナーとともに参加できる育児休職復職前セミナー、育児中の男女社員による情報交換のためのランチミーティングなど、子育て社員の支援も幅広い。

5位は、昨年と同じ富士フイルムホールディングスで総合ポイント566.3点(以下同)。6位セブン&アイ・ホールディングス(563.7点)、7位JT(563.6点)、8位コマツ(562.2点)、9位富士ゼロックス(560.2点)、10位旭化成(558.4点)と続く。

大きく順位を上げたのは80位→12位のキリンホールディングス(557.8点)、137位→18位の東芝(553.5点)、69位→36位のパナソニック(547.0点)などだった。



評価項目の各部門トップは、人材活用がANAホールディングス(総合順位25位)、丸井グループ(同63位)、日清製粉グループ本社(同138位)の3社。

ANAHDは2020年までに海外事業所における現地雇用社員の管理職比率を部課長クラス20%、マネジャークラス60%を目指すなど、ダイバーシティの取り組みが進んでいる。

丸井グループは新規出店、新規事業、社内会議参加、期間限定イベント運営などで社内公募を積極的に実施。希望する職種・職務や考慮してほしい身辺上の内容を会社に自己申告できるFA制度など、従業員のやる気を出す仕組みを多く持つ。

日清製粉G本社は女性管理職比率12.4%、障害者雇用率3.28%、労働災害度数率0.00と、高い数値の指標が並ぶ。


環境でトップだったのは丸井グループとSOMPOホールディングス。前者は2030年までに電力を100%再生可能エネルギーで調達すると宣言。ブロックチェーン技術を活用した電力トレーサビリティ(追跡可能性)を実現している。

SOMPOHDは、気候変動による自然災害の増加は保険金支払いの拡大などにつながるという危機意識を持つ。自社の環境負荷削減だけでなく、東南アジアでの干ばつ被害に伴う収入減少を補償する「天候インデックス保険」の提供など、社会での課題解決の意識も高い。


企業統治+社会性はZホールディングス(旧ヤフー、総合順位30位)。代表取締役社長が委員長を務めるリスクマネジメント委員会を発足させ、経営リスク全般を対象に分析するなど、高いガバナンス意識を持つ。

社会面では、パートナーシップによるSDGsの普及と推進活動を推進。2012年から震災復興に特化した石巻ベース(支社)を設け、社員を常駐させて、地域振興・漁業支援を実施するなど、幅広い取り組みを展開している。


CSR3部門の合計は、SOMPOHD(297.9点)が昨年に続き1位だった。


財務部門では、キーエンス(285.7点)が昨年と同じくトップだった。時価総額は全上場企業でもトップクラス。ただ、CSR得点は60点で総合ポイントは345.7点、総合順位は763位だった。


ここで再び、総合評価ランキングに戻りたい。

101〜200位では、トクヤマが322位から169位に急上昇。生産工場での海水の利用、製造工程の改善などによる節水の取り組みをはじめ、環境活動は高いレベルにある。3年平均の総合ポイント上昇率が全社中1位と、ここ数年高い成長率を誇っている。

ディスコも317位から187位に大きく上昇。同社には自ら異動希望先の部署に働きかけ、合意できれば異動が可能になる制度がある。所属部署は異動を妨げることができず、個人の意欲を尊重している。

200位台では、509位から215位に上がったTIS(491.4点)、333位から219位に上がったマブチモーター(491.1点)と、実力ある企業が開示内容を増やし、順位を上げてきた。

301位以下は総合ポイントのみを掲載する。340位のH.U.グループホールディングス(旧みらかホールディングス、463.1点)が昨年の432位から上昇。382位はコンテック(448.8点)で同586位から上昇。200位台も見えてきた。

高まる「ESGの“S”」への関心

ここ数年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資への注目が高まっていたが、環境やガバナンス面の偏重も一部で指摘されていた。ただ、新型コロナウイルスの影響などもあり、多くの評価機関で社会(ソーシャル)面の活動への関心が高まっているようだ。

CSR企業ランキングはもともとこの分野も十分網羅してきたので、この流れは望ましいものだと考えている。

7月3日に開始した今年の東洋経済CSR調査では「ポストコロナ 従業員の働き方・企業のあり方特別調査」を追加で行う。「テレワークの取り組み」や「新型コロナウイルスでの社会課題解決」など、社会性の項目をさらに充実させていく予定だ。