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レオ・プルノーとウェイン・チェリー

text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)photo:Will Williams(ウィル・ウイリアムズ)/Vauxhall(ヴォグゾール)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
ヴォグゾールのエンジニアリング&スタイリング・センター、グリフィン・ハウスのボスは、デイビッドBジョーンからレオ・プルノーへ変わり、全盛期を迎える。

初代シボレー・カマロのデザインに関わった人物で、コークボトル・ラインは、後のヴォグゾールHBビバへも大きな影響を与えた。今でも、そのデザインの評価は高い。

ヴォグゾールXVRコンセプト(1966年)

GMで最も有名なデザイナーの一人で、グローバル・デザインのトップを務めていたビル・ミッチェルは、年に1度、グリフィン・ハウスを訪ねた。権威主義的な雰囲気を撒き散らして。

ミッチェルは、実寸大のクレイモデルへ注文を付けた。気に入らないデザインを目にすると、ランチから戻ってくる前に修正しておきなさい、と指示を出したという。

ちなみにクレイモデルとは、デザイン開発で制作する工業用粘土の試作モデル。スケールモデルもあるが、デザイン案が進むにつれて実寸大が作られる。

一方、レオ・プルノーの身代わり的に働いたデザイナーのウェイン・チェリーは、柔らかな雰囲気だった。グリフィン・ハウスの最盛期に、主要な役割を果たした。

アメリカの美術大学を卒業した彼は、GMへと入社。シボレー・カマロやオールズモビル・トルネードのデザインに関与。1965年にレオ・プルノーのアシスタントへ就任すると手腕を発揮し、ヴォグゾールXVRコンセプトのデザインに取り組んだ。

今でもウルトラ・モダンに見えるデザインだ。さらに強い影響力を放ったSRVコンセプトも生み出す。ルーイトンのグリフィン・ハウスの創造性を、強く世界へ知らしめることになった。

休眠状態になったデザインスタジオ

1970年になると、ウェイン・チェリーはアシスタント・デザイン・ディレクターに昇進。1975年まで、大きな仕事を手掛けた。

彼は常にスタイリッシュだった。フェラーリ308GTBでの毎日の通勤は、開発センターでも話題になった。

ヴォグゾール・エクウス・スポーツ・ロードスター・コンセプト(1978年)

ケン・グリーンリーは、英国へ日産チェリーが初めて導入された時の反応を忘れない。「ウェイン・チェリーは、自身と同じ名前のクルマが登場したことを、嫌がっていました。日本車を真剣に捉えることは、最後までありませんでしたね」

グリフィン・ハウスの集大成ともいえるコンセプトカーは、1978年のエクウス・スポーツ・ロードスター・コンセプトだろう。量産されることはなかったが、くさび形のシルエット、ウェッジシェイプ・デザインの台頭をよく示している。

1983年へ時が進むと、GMは生産性や収益性を重視するように変化。技術やデザイン開発は、ドイツ・リュッセルスハイムへと統合し、オペルとヴォグゾールのモデルを展開するようになった。

デザイナーのウェイン・チェリーは、まだ英国に残っていた。1991年にアメリカへ帰国するまで、グリフィン・ハウスのデザイン部門が残っていた理由でもあった。

ヴォグゾール・エンジニアリング&スタイリング・センターは、GMがベッドフォードを売却した1980年代半ば以降、主だった活動を停止。GMはデザインスタジオを休眠状態にし、セールス・マーケティング部門へグリフィン・ハウスを割り振った。

グリフィン・ハウスのコンセプトモデル

オペルとモデルが共有されるが、ヴォグゾールの英国でのシェアは1993年までに17.6%へと続伸した。皮肉なことだ。挑戦的で注目に値するデザイナーの創作活動が、再興する日はやってくるのだろうか。

グリフィン・ハウス、ヴォグゾール・エンジニアリング&スタイリング・センターで生まれたコンセプトカーを何台か見ていこう。当時の活気も、伝わってくるようだ。

ヴォグゾールGTコンセプト

ヴォグゾールGTコンセプト(1960年代)

1960年代後半に作られた、エレガントなクーペ。マセラティのような雰囲気が強い。ヴォグゾールの領域から、どの程度デザイナーに自由度が与えられているのか、試したものだろう。想定メカニズムは不明。もしかすると、スタイリングだけかもしれない。

ベッドフォード・チェイサー

短いホイールベースを持つ、CFバンをベースとしたオフローダー。四輪駆動システムは、軍用スペックの本気のものだ。誰もがこのアイデアを支持したが、車名はヴォグゾールの上層部に反発されたらしい。

ヴォグゾールSE100

小さなコンセプトカー。英国のミニを近代的に解釈し、スペース効率を追求する試み。車名の100は、クルマの全長を示している。100インチ、つまり2540mmだ。

ヴォグゾール・ベトゥラ

1965年に登場した前輪駆動のコンセプトカー。ファミリー層をターゲットにしていたが、デザインはスチュードベーカー・アバンティから影響を受けているように見える。

当時、ヴォグゾールのエンジニアの1人が、極秘状態だったこのクルマの写真をクリスマスカードに使用。知人の間にも広まり、大騒ぎとなったそうだ。

全盛期の個性的なデザイン

ヴォグゾール・エクウス・スポーツ・ロードスター

1970年代後半に提案された、スポーツカーのコンセプト。デザイナーのウェイン・チェリーと、ヴォグゾール、そしてグリフィン・ハウスの創造性の頂点にあった時期といえるだろう。

ベースとしているのはパンサー・リマというモデルだが、ウェッジシェイプ・デザインの流行を先取りしている。現在カリフォルニアで保管されているようだ。

ベッドフォードCG80/CG90

ベッドフォードCG80/CG90(1970年代)

小さくスタイリッシュなコンセプトモデル。1970年代にCG80とCG90という2台が作られている。恐らく数字はインチによるホイールベースの長さだ。メカニズムは、ヴォグゾール・ビバをもとにしている。

ベッドフォードRタイプ

同じデザインで、複数のボディ展開が可能なコンセプトモデル。1970年代のトレンドでもあった。日産やイタリアのデザイナーも似たようなアイデアを同時期に生み出している。Rタイプでは、ピックアップとバン、ステーションワゴンが提案された。

ヴォグゾール・スキャンプ

現実的なデザインで、最も量産モデルへ近かったコンセプトモデル。1972年の発表だが、その10年近く後に発表されたオースチン・メトロに似た特徴を備えている。ヴォグゾールもこのデザインは気に入っていたようで、さまざまなボディ展開が考案された。