■医療崩壊がもうそこまで来ている

都内における新型コロナウイルスの累計感染者数は4月22日午後11時現在で3439人となった。うち、入院中の患者が2461人、軽症・中等症の患者が2399人、重症の患者が62人となっている。退院した人は897人。死者は81人だ。

感染症法では、PCR検査(polymerase chain reaction=ポリメラーゼ連鎖反応による検査)によって陽性と判定された人に関しては原則、感染症指定医療機関に搬送し、隔離した上で治療されることとなっている。

写真=iStock.com/RyanKing999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

この指定医療機関は都内に21カ所あり、指定病床数は118床。しかし感染者数はすでに118人を上回っているのはご承知のとおり。ではどうしているのかというと、例えば国立国際医療研究センターでは結核病棟を開放、呼吸器内科、救急科などの医師も駆り出し、規定数を超えて受け入れている状態だ。

このような状況で、日本でも「医療崩壊」という言葉が聞かれるようになった。やみくもにPCR検査をやりすぎると陽性患者が増え、そのうちに病床がパンクして医療崩壊を招くのだという風潮も生まれた。しかし、ここで強調しておきたいのは、病床が足りなくなることだけが医療崩壊ではないということだ。

医療崩壊の定義は、スタッフや器具など医療リソースが不足し、重症患者の治療に手が回らなくなり、医療がまひしてしまうことだ。イタリアやスペイン、アメリカなど諸外国では医師・看護師などが次々と感染し、これが起こってしまった。もともと医師の不足が課題となってきた日本において、本当に怖いのはこっちだ。

■院内感染が次々と確認される怖さ

台東区の永寿総合病院でいわゆるメガクラスターが発生し、医師・看護師など医療従事者69人と患者94人が感染したことは記憶に新しい。中野区の中野江古田病院、墨田区の都立墨東病院でも大規模な院内感染が確認されている。その他、慶應義塾大学病院、東京慈恵会医科大学附属大病院、国立がん研究センター中央病院、練馬光が丘病院などでも院内感染が確認されている。

院内感染が起こるとどうなるかというと、一言で言えばその病院がダウンする。例えば看護師1人の陽性が確認されれば、その時点で同じフロアで働いていた看護師は全員、自宅待機になる。院内のどこにウイルスがあるかわからないので、外来診療や新規の入院、面会者も入れることができなくなる。病院機能そのものが、部分的もしくは完全にダウンしてしまうのだ。これが広範囲かつ連続的に起きてしまった状態が、いわゆる医療崩壊だ。

確立された治療法がいまだない今、人工呼吸器が重症患者にとってのライフラインだ。しかし、この人工呼吸器も誰でも使えるわけではない。ICUでの治療となれば1人の患者に医師、看護師、臨床工学技士などがチームでつき、24時間態勢で呼吸管理にあたることになる。病床や医療物資だけでなくマンパワー=医療従事者も、大事な医療リソースなのだ。

■42万人が死亡する恐れ

厚生労働省のクラスター対策班は4月15日、衝撃的な試算を発表した。人と人との接触を減らすなどの対策を全く行わなかった場合、日本における重篤患者は約85万人に達し、半数の約42万人が死亡する恐れがあるとの内容だ。これは「全く対策を行わなかった場合」のことであり、逆に人と人との接触を8割減らすなど感染拡大防止対策を徹底していけば、1カ月で封じ込めが可能とのことだ。

一方で、クラスター対策班が試算の前提にしていたのは、重篤患者が人工呼吸器などによる呼吸管理、ICUでの治療が受けられる環境だ。医療崩壊によってこの治療すら行えないようなことは考えていない。危機管理の要諦は最悪を想定すること。悲観主義に立って最悪のケースを憂い、備えることが大事だ。

この最悪を回避するための条件であり最重要課題は、医療従事者が感染しないことだ。では、どのように医療従事者を感染リスクから守るのか。答えはシンプルで、いかにウイルスから遠ざけるかだ。もちろん職務の性質上、感染者とは接触することになる。これはどうやっても避けられない。

■マスク、防護服の優先配備や、感染者隔離の設備配備を

大きく分けるとハード面とソフト面だ。ハード面ではマスクや防護服などを優先的に配備すること、感染者を隔離するための設備や動線を整備すること。ソフト面では人員配置だ。

医師や看護師は患者の治療に追われ、どうしても自分たちのことは後回しにしてしまうのかもしれないが、特に新型コロナ治療の最後の砦である指定医療機関においては、症状の有無にかかわらず早急に、医療従事者全員のPCR検査を実施、陽性者と陰性者を特定し切り離すべきだ。ダウンした病院への対応など含め、戦略的な人員配置を行う必要がある。

まず東京都としてやらなければならないのは、医療物資を絶えず潤沢に供給することだ。特に指定医療機関で闘っている医療従事者にとって、マスクや防護服はライフライン。備蓄があることと、現場が間に合っているかどうかは別だ。これまで以上に現場との連絡を密にし、常に状況を把握しつつ、足りないものはその日のうちに送る。この体制を都に求めている。

■医師・看護師などのOBを募集して人員の補充を

一方で、指定医療機関に勤める友人が私に求めてきたことは、宿泊環境だ。どんなに気をつけていても、自分が感染するリスクはある。自分が感染していれば、家族にうつすリスクもある。電車通勤もしなければならない。そういった理由で家に帰れない、帰りたくない医療従事者も増えているのだ。ではどうしていたかと聞けば、仮眠室に泊まったり、駐車場に停めた車の中で寝ていたりするようだ。これでは疲れもとれない。疲れは免疫力を下げる。免疫力が下がると感染リスクは上がる。

このような声は都民ファーストの会にも多く届いており、「新型コロナウイルス感染症対策特別広報チーム」で検討された。宿泊施設の提供までは無理でも、せめてホテル代をもつことはできないか。すでに自腹で払ってもらっている分も、さかのぼって精算できないか。医師・看護師だけでなく、事務員も対象にできないか。このたびの補正予算で6億円の予算がついた。

その他、危険手当を支給すること、子どもや介護が必要な家族がいる場合にはベビーシッターや介護スタッフを派遣することによるケア。医師・看護師などのOBを募集して人員の補充もしたいところ。やるべきことはたくさんある。もちろん、新型コロナ以外の一般・救急医療も維持していかなければならない。医師会との連携も欠かせない。

■医療従事者を守ることが都民を守ることだ

ウイルスとの闘いが始まってから3カ月がたとうとしている。現場の医療従事者の疲れもピークに達しているだろう。特に最前線である指定医療機関への負荷は、少しでも減らしていかなくてはならない。そこで東京都は4月16日、冒頭に触れた感染症法・医療法に基づく入院ルールを緩和した。陽性者のうち無症状から軽症の患者については直ちに入院せず、自宅かホテルでの療養が可能となったことだ。

退院のハードルも課題だ。現在はPCR検査で2回連続、陰性と判定されないと退院できないことになっている。それまでにかかる期間は平均20日。無症状であっても9日かかるとされている。すでに軽快し、ピンピンしている患者も退院できずにいることが、現場の負担を増やしている。退院のための要件を緩和することも急ぎたい。

都民の命を最前線で守っているのは医療従事者だ。裏を返せば、医療従事者を守ることが都民を守ることになる。そのためには医療従事者を手厚くケアし、存分に治療にあたってもらえる環境を整えなくてはならない。あらためて、最前線で闘っている医療従事者に感謝と敬意を表するともに、ハード面からソフト面まで、できるサポートはすべてしていく決意だ。

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尾島 紘平(おじま・こうへい)
都民ファーストの会・東京都議会議員
早稲田大学政治経済学部卒業。衆議院議員小池百合子(現東京都知事)秘書。2015年練馬区議会議員。2017年東京都議会議員(練馬区)。「新しい」「正しい」「わかりやすい」をキャッチフレーズに、都政改革に取り組んでいる。
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(都民ファーストの会・東京都議会議員 尾島 紘平)