ヘビから人間へと感染した可能性が示唆されている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のように、異なる種へと感染するウイルスが存在します。ウイルスがどのようにして種の壁を越えて感染を広げていくのかを解説したムービーが、YouTubeの教育ビデオチャンネルであるTED-Edから公開されています。

How do viruses jump from animals to humans? - Ben Longdon - YouTube

動物から人間に感染したウイルスの一例が、2017年にアメリカのメリーランド州で確認された「豚から人間に感染するインフルエンザウイルス」の一種であるH3N2亜型です。



メリーランド州で行われた農業祭で、参加者から「目が炎症を起こし、鼻水と熱が出ている豚がいる」という報告がありました。



報告があったにも関わらず、農業祭は予定通り開催されました。農業祭の期間中、豚を撫でた人や、豚がいる納屋に近寄った人のうち……



40人がインフルエンザであると診断されました。



豚から人間へと感染するような、異なる種に感染するウイルスは非常に少ないとされています。



なぜなら、例えば人間に感染しやすいウイルスなら、確実に生き残れるように人間の細胞に適合しながら進化を重ねるためです。



ウイルスが人間の体内で生き残るには、免疫によって破壊される前に人間の細胞に感染する必要があります。



インフルエンザのようなウイルスは、免疫をだますために人間の呼吸器系にある細胞の内部に入り込みます。



細胞に入り込んだウイルスは、細胞の増殖機能をのっとり、増殖し始めます。



ウイルスは細胞のふりをしながら免疫をだまして時間を稼ぎ、増殖を繰り返し、より多くの細胞に感染します。



増殖したウイルスは、別の宿主を探すため、くしゃみや接触などによって移動し始めます。



移動したウイルスが感染しようとするのは人間だけでなく……



ペットや食べ物、草木など、種を問わず接触した相手に感染しようとします。



しかし、人間の細胞に感染することに特化したウイルスにとって、他の動物や植物の細胞は異質すぎて感染しづらいのです。



さまざまな種の間にある遺伝子の違いが、ウイルスが異なる種へ感染するのを妨げています。



ところが、ウイルスは数百万単位で増殖するため、突然変異によって思わぬ進化を遂げる可能性があります。



突然変異によって、ウイルスが異なる種に対して感染しやすくなるということがあるわけです。



突然変異を繰り返すほど、あるいは遺伝子が似ているほど、感染しやすくなる確率が高くなっていきます。いくつか突然変異を遂げるだけで、チンパンジーに適応したウイルスが人間に感染しやすくなるかもしれません。



インフルエンザウイルス・H3N2亜型が豚と人間に感染したように、異なる2種の間でウイルスが感染・増殖すると、ウイルスがより感染力の強いウイルスへと変異する確率が高くなり、伝染病が広く流行する可能性も高まります。



ウイルスが異なる種に感染する突然変異には、多くの研究者が注目しています。



しかし、ウイルスは数も種類も非常に膨大であるため、将来どんなウイルスが流行するかを予測するのは非常に困難です。



多くの研究者が、ウイルスの性質を根気強く研究しています。新たな伝染病を迅速に発見し、ワクチンや予防手段を解明できるよう、研究者たちは戦っているのです。