一般客が気軽に買い物できる、業務スーパーの押部谷店(兵庫県神戸市)。出店エリアは首都圏と関西圏の店舗数がほぼ拮抗する(写真:神戸物産)

2019年に独自の店舗スタイルを切り口に、国内小売りマーケットを席巻した上場企業はどこか。東が衣料品のワークマン(群馬県伊勢崎市)なら、西は食品の神戸物産(兵庫県加古郡)が代表格だ。2020年も業績拡大が見込まれる両社には、地方に本社があるという以外に、共通項が多く見受けられる。

とくに、業務用というBtoB分野の業態だったのが、個人用というBtoC分野に幅を広げたところである。独自の商品開発でPB品を安価で供給し、運営はFC加盟店に任せて収益を得る事業モデル。また、地上波の情報バラエティー番組で、従来の小売業にない特徴に焦点を当てた企画が放映され、一気に認知度が高まったことも大きい。2020年は店舗スタイルに磨きをかけ、新規顧客を獲得する出店と商品開発に拍車がかかりそうだ。

そのうちの西の代表格、神戸物産が2019年12月17日、都内で前2019年10月期(以下、前期)の決算説明会を開いた。沼田博和社長が登壇し、今2020年10月期見通しと中期ビジョンを併せて説明。いいことずくめの状態と先行きへの自信をのぞかせ、売上高の9割を占める「業務スーパー」事業を中心に掘り下げたのである。そこで今回、話題の「冷凍タピオカ」の内容と併せ、知っているようで知らない神戸物産の潜在的な成長力に迫った。

全国800店以上の店は安いPB商品が武器

神戸物産は前期に売上高2996億円と、前々期比12.1%の2桁増で過去最大の増収幅を記録。既存店におけるPB比率上昇で粗利が改善し、営業利益は192億円と同22.4%増だった。減損約12億円を計上しながらも、純利益は120億円と同16.3%増。いずれも会社が計画した数値を上振れし、過去最高を連続で更新したのである。

増収の原動力は、全国に845店(2019年10月末時点)を展開する、業務スーパー事業の躍進だ。2000年に1号店を出店以来、業務ス−パーFC本部がFC加盟店に商品を卸売りする事業モデルを貫く。店舗には3割以上の比率で自前のPB品が並んでいる。

グループ工場は全国に21拠点あり、徳用ウインナーや冷凍うどん、鮭フレーク、水ようかんなど、オリジナル商品を開発・製造。現在40カ国から食品を直輸入し、ブラジル産鶏もも肉やベルギー産フライドポテト、ドライフルーツ類など多彩で、価格がリーズナブルに抑えられている。

何より、若い客層を呼び込んだのは、冷凍タピオカだ。

業務スーパー事業のセグメント別売上高を見ると、前期は2641億円で前々期比で11.6%増だった。出店が計画を7上回る32店の純増を果たしたこと、消費増税後も堅調に推移したこと、などが理由に挙げられる。地方テレビの取材を含めたメディア露出が「多様な新規顧客の獲得につながった」(沼田社長)という運にも恵まれた。

そのきっかけは2019年2月に放映された、TBSがキー局のバラエティー番組「坂上&指原のつぶれない店」である。ここで人気のスイーツ商品の売れ行きを、生産現場の状況まで約40分間にわたり、掘り下げて紹介されたのだ。


300gで275円(税別)の手軽さが受けた、自社輸入の冷凍インスタントタピオカ(写真:神戸物産)

とりわけ、輸入PB品の冷凍インスタントタピオカは、自宅で手軽にタピオカミルクティーが楽しめるとSNS上で拡散し、店頭から在庫が消えるほどの売れ行きとなった。「ブームが急に来たことや原料の取り合いになったことで仕入れ先の拡大が難しい状況になった」のが欠品の理由だという。

また若い女性など「明らかにいなかった年齢層の流入があった。冷凍タピオカが売り切れていても、ほかの店にない商品を面白がってくれた。販売がギリギリでぱっとしない冷凍のスイーツやフルーツまで売れるようになった」(沼田社長)。

一時のブームに乗っかったままではない

神戸物産によると、インスタントタピオカは2015年ごろから発売し、業務スーパー以外の販売ルートは基本的にない。アマゾンなどのネット通販で商品が売られているが、神戸物産が出品をしたものではない。タピオカに限らず「人気の商品は仕入れ先を複数に分散させるなど、欠品が起こらない取り組みをしている」(同社)と説明する。

2019年の株式市場では、タピオカブームに乗っかる関連銘柄として、神戸物産に注目する向きもあった。だが沼田社長は「供給先の状況で売り逃しの時期が長かったので、業績に直接影響しているわけではない」と冷静にブームを振り返る。

今期の会社計画は、前期のようなメディア露出効果を織り込んでおらず、売上高3118億円(前期比4.1%増)、営業利益203億円(同5.5%増)、純利益133億円(同10.3%増)の成長率にとどめた。店舗数は2020年10月末時点で875店と年間30店の純増を見込む。決算説明会の席上、沼田博和社長は「今第1四半期はいい数字が出るだろう」と、幸先のよい出足になるとの見通しを述べた。

それでも、取り巻く環境のよさには慢心せず、既存店の活性化につながる店舗スタイル刷新の手を、緩めるつもりはない。

その1つが、店舗の空きスペースに厨房機器を置いて最終調理し、総菜・弁当を陳列棚に並べて手頃な価格帯で提供する中食事業だ。「馳走菜(ちそうな)」と呼び、2018年2月から始めた新業態である。

馳走菜は前期、7店純増の10店舗となった。

「客が1.4倍伸びた例もある。今期は、店舗が狭い都心の既存店舗にどう棚を設けるか、FCオーナーと相談しながら進めていく」(沼田社長)と、集客強化策として重視する。老朽化や契約満了を機に大きな物件へと移設する際、中食の陳列棚を新たに設けることも有効な手段とみる。「より小商圏への出店密度を高めることや収益構造を変える相乗効果」(同)に期待を寄せている。


メニューを絞って固定化するなど、少人数でも運営できる仕組みにした「馳走菜」(写真:神戸物産)

神戸物産は本社が兵庫県加古郡稲美町と神戸市の以西にあるため、業務スーパーの出店エリアが西日本に多く分布していると思いがちだ。だが2019年10月末時点で、関西直轄(大阪・京都・淡路島除く兵庫・奈良・和歌山・滋賀)の244店に対し、関東直轄(東京・千葉・神奈川・埼玉)は233店である。

時価総額は3年前の5倍、5000億円超に拡大

前期1年間で関西の純増4に対し、関東は純増16だったので、ほぼ拮抗した。東京都は76店で他府県よりも数が最も多い。しかも23区内は城東・城西の両エリアに多く全部で44店を数える。「都内出店の余地はある」と沼田社長は自信を見せる。

同社はこの3年間で時価総額が約5倍の5000億円超となるほど急拡大した。2019年末に発表した中期経営計画は、最終年度2022年10月期に売上高3467億円、営業利益230億円を数値目標として掲げている。出店の中期目標は900と控えめ。設備投資は「20工場の増設が主体となる」(沼田社長)という。

課題だった多角化事業も、「外食などある程度不採算店が一巡した」(沼田社長)としており、向こう3年間は攻め一色の展開となりそうだ。冷凍タピオカ、馳走菜と、神戸物産が業務スーパーで次々と繰り出す一手に、マーケットは熱い視線を向けている。