<数千万人を対象にした監視システムの概要が判明。開発されたハイテク技術の国外拡散も始まった>

一昨年の夏、中国にあるごく平凡な語学学校でのこと。授業中に前触れもなく地元警察が立ち入り、外国籍の受講生全員に「ビザを見せろ」と要求した。

受講生のうち博士課程に在籍する1人は、たまたまパスポートを所持していなかった。すると警官は「まあいい」と言って受講生の名を尋ね、それを携帯端末に入力した。そして「これがおまえか」と言って端末の画面を見せた。そこには受講生の氏名と旅券番号、宿泊先の住所が表示されていたという。

新疆ウイグル自治区なら、こうした光景も珍しくない。あそこでは当局が最先端の技術を駆使して少数民族のウイグル人を監視している。だがこの語学学校があった場所は南部の雲南省だ。

今では中国全土で、地域の公安機関が特定の人々を追跡するためにデータベースと携帯端末を使っている。「重点人員」と呼ばれる人が対象で、仮出所中の犯罪者、薬物使用者、外国人、政府に請願をした人、宗教の信者などが含まれる。地方政府の通達や政府調達事業への入札情報、企業の宣伝文書などを分析すると、こうした監視技術の利用が新疆での少数民族弾圧より前から始まっていたこと、しかも中国全土で行われ、何千万もの人が監視対象となっていることが分かる。

習近平(シー・チンピン)国家主席が強権的な支配を強めるなか、監視と抑圧の対象は増える一方だ。しかもこうしたシステムを製造する中国企業は外国への輸出にも熱心だから、その影響は国境を越えて広がっていく。

公安省による2007年の「重点人口管理規定」は重点人員を「国家安全保障または公共秩序を脅かす疑いがある」者と定義。具体的には重罪犯、刑務所や労働収容所からの出所者、違法薬物の使用者などを例示している。

2011〜19年に国内の省など行政機構34団体のうち26団体で出された通達70件以上を調べたところ、指定される人物の範囲はそれよりずっと広かった。特に頻繁に指定されるのは、政府に何らかの申し立てをした請願者、非合法宗教団体(中国では邪教とされる法輪功など)のメンバー、精神疾患の患者だ。加えて「維穏(社会的安定の維持)」政策に絡む者または「テロ」活動への関与者も含まれる。この2つの範囲には人権活動家やデモの参加者、ウイグル人のような少数民族が含まれる。

監視対象が増えれば、収集される個人情報のデータベースも膨大になる。中国では2000年代半ばにICカードの「第2世代身分証」が導入され、個人情報のデータベース化が進んだ。それは全国の公安当局に共有されている。

サラ・クック(フリーダム・ハウス上級アナリスト)、エミリー・ダーク(トロント大学博士課程)