5月のU-20W杯では結果を残せなかった西川。その雪辱を晴らす圧巻の活躍を見せた。(C)Getty Images

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 待ち侘びた瞬間だった。

 西川潤(桐光学園)にとっては2度目となる世界の舞台。一世代飛び級で参戦した今年5月のU-20ワールドカップでは、目に見える形での結果を残せなかった。ボールが収まらず、決定機に絡んだのも数えるほど。苦杯をなめたラウンド・オブ16の韓国戦ではチャンスを逃し、歯痒い想いも味わった。

 次こそ結果を残す――。強い覚悟を持って挑んだ今回のU-17ワールドカップ。オランダとの初戦は、その想いが結実する試合となった。

 10月27日に行なわれたグループステージの初戦。戦前の予想は欧州王者有利のなか、西川は目に見える形で10番の責務を果たす。

 最初の見せ場は36分。ハーフウェーラインを超えたあたりからボールを運ぶと、左足でスルーパスを送る。

「大和とも話をしていたので、練習通り。そこに動いてくれたので、大和の動き出しが本当に良かった」
 

 若月大和(桐生一高)の動き出しに合わせた絶妙なスルーパスでゴールをお膳立てし、オランダのDF陣を手玉に取った。後半に入ってもその勢いは止まらない。若月とのコンビで幾度も敵陣に迫ると、69分に再び魅せる。

「あの速さじゃないと通らないと思っていた。相手のディフェンス 陣は能力が高い。なので、あのパススピードで出すしかないと」

 スピード、コースともに申し分のないラストパスを若月に送り、ふたつ目のアシストをマークした。

 オランダ相手に2アシスト。これだけでも胸を張れる結果だが、西川は全く満足していなかった。一番欲していたのは、何よりもゴールだったからだ。

 77分にVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)判定の末にハンドでPKを獲得した場面。誰がキッカーを務めるのか、その行方に注目が集まるなか、ペナルティスポットに向かったのは西川だった。ボールをセットすると、得意の左足で相手GKの逆に蹴り込んだ。
 得点が決まった直後。西川は仲間と喜びを分かち合うと、小さくガッツポーズ。待ち焦がれた瞬間を噛み締めた。ゴールへの想いは、自らPKキッカーに名乗りを上げたことからも伝わってくる。決めればハットトリックだった若月に直接話し、PKを蹴ることを直訴していたのだ。

「得点は絶対に取りたいと思っていました。大和が蹴りたいと言ってきたけど、自分が蹴って決めたいという想いが強かった」

 10番としてのプライドはあるし、飛び級でU-20ワールドカップに出場した際の悔しさを胸に秘めている。そして、根っこの部分にあるのはFWとしての矜持だ。

「ホッとしましたね。得点を決めてなんぼなので、ゴールが奪えて良かった」
 

 西川にとって、最高のスタートを切ったのは間違いない。得点以外の場面でも身体を巧みに入れ、最前線で何度もボールを収めた。そのプレーが若月を生かしたのは確かだ。前半に迎えた決定機を逃したのは悔やまれるとはいえ、得点シーン以外でも存在感を放っていた。

 U-20ワールドカップで結果を残せなかった男は、U-17ワールドカップの舞台にやってきた。上のカテゴリーに1度招集された経緯もあり、本来であればU-17代表でプレーしない可能性があったが、出場を志願。桐光学園の鈴木勝大監督や代表スタッフに自らの意思を伝え、リベンジの機会を得た。

 そして、迎えた初戦。ひと回りもふた回りも逞しくなって帰ってきたことを、自ら証明した。だが、まだ1試合が終わっただけに過ぎない。

「U-20では本当に悔しい想いをしましたし、それを初戦でぶつけたいという気持ちがあった。うまくぶつけられましたけど、まだオランダ戦が終わっただけ。次の試合に向けてまた準備をして行きたい」

 10番の視線の先にあるのはただひとつ。グループステージを突破し、ひとつでも上に行くこと――。西川の“逆襲”はまだ始まったばかりだ。
 
取材・文●松尾祐希(フリーライター)