「反トランプ」メディアもトランプに立ちはだかる(写真:AP Photo/Evan Vucci)

2020年の米大統領選で再選を目指すドナルド・トランプ大統領。その相手となる民主党の候補者は、最終的に誰がなるのか。つい最近まで10%前後の差をつけて優勢だったのは、ジョー・バイデン前副大統領だった。

このバイデン氏に対して、トランプ陣営の選挙責任者、ルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、バイデン氏のウクライナ関連の金融スキャンダルを糾弾し、自らウクライナに乗り込む意欲を表明するなど、バイデン氏に対して厳しい姿勢を示している。


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トランプ大統領もバイデン氏のことを「スリーピー・バイデン」(話が眠りを誘うほどつまらないバイデン)と皮肉るが、ジュリアーニ氏ほど辛口ではない。それには、トランプ流の読みがあるのだろう。

トランプ大統領が民主党候補へそれほど厳しい批判をしていないのは、バラク・オバマ前大統領が、民主党候補の誰に対しても支持表明を与えていないことと関係している。トランプ大統領の真のライバルは、いま名乗りを上げている民主党候補ではなく、メディアの人気者であるオバマ前大統領ではなかろうか。

バイデンとウォーレン、もつれる可能性が高い

オバマ氏と、オバマ氏以上に人気のあるミシェル夫人も、民主党の最終候補者が確定した段階で支持を表明するとしている。

今年6月に開催された民主党候補による第1回ディベートではハプニングがあった。候補者の1人であるカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)が、バイデン氏の過去の人種隔離政策を問い詰め、うまく応答できなかったのだ。

このディベートをきっかけに、バイデン氏の支持率は低下。その後、上院議員(マサチューセッツ州)のエリザベス・ウォーレン氏が急浮上し、民主党の大統領候補者選びは、バイデン氏とウォーレン氏の間で、もつれる可能性が高い。

このバイデン、ウォーレン両氏のどちらをオバマ氏は支持するのか。ウォーレン氏は、バイデン氏とは比べものにならないほど高潔な人物だが、オバマケアなどには批判的だった。オバマ氏寄りのメディアにとっては、ウォーレン氏支持に尻込みせざるをえないだろう。

アメリカのメディアは、自身がキングメーカーになりたがっているフシがある。いまだ国民的人気の高いオバマ氏がバイデン氏を支持すれば、バイデン氏の人種・女性偏見や金融疑惑にもかかわらず、反トランプの立場からメディアもバイデン氏を支持せざるをえなくなる。

トランプ氏も、2020年の大統領選で再選を果たし、その後キングメーカーになるというのが本音である。マイク・ポンペオ国務長官が将来の大統領選への出馬に含みを持たせているため、自らの後継者として、マイク・ペンス副大統領を支持するかについて明言を避けている。

もし2020年の大統領選でトランプ氏が敗れれば、民主党は、退任後のトランプ氏を刑事訴追することを狙っていると言われている。トランプ氏がキングメーカーになりたいのは、そうした事態を避けるためだ。

「学生ローン帳消し」公約でウォーレン支持が拡大

メディア人気がいま一つのウォーレン候補に対する支持は、カリフォルニア州だけでなく、全米で拡大している。そのテコになっているのは、ウォーレン候補の「学生ローン帳消し」公約である。

この学生債務救済法案は数年前にも議会で審議され、当時大統領だったオバマ氏も全面的に支持していた。つまり、オバマ氏にとって、ウォーレン氏が候補者になったほうがプラスになる。疑惑を抱えているバイデン氏だと、「オバマ神話」がダメージを受ける。

ウォ−レン氏の学生ローン帳消し案は、住宅購入者だけを特別扱いして、住宅ローンを帳消しにする政策と変わりはない。民主党候補の1人であるピート・ブーテジェッジ市長(インディアナ州)は、ウォーレン案は正当性に欠けると批判するなど、エリート優遇批判が出ている。

とはいえ、バイデン氏と比べると、ウォーレン氏は高潔さではるかに勝っており、民主党の大統領候補者になるとみるのが自然であろう。そのときには、トランプ対ウォーレンの一騎打ちとなる。

8月26日に発表された最新の世論調査によると、ウォーレン氏の支持率は20%に上昇し、バイデン氏の19%を上回っている。バイデン氏の支持率は、2カ月前に比べて13%下落した。

そこで思い起こされるのが、2016年大統領選でのトランプ氏とヒラリー・クリントン氏の一騎打ちである。それは、アメリカ大統領選史上、演説好き候補とそうでない候補との差が歴然とした選挙戦だった。

今のところ、ウォーレン氏の支持率はトランプ氏を上回っている。ただ、その差は、2016年にヒラリー氏がトランプ氏につけていた差ほど大きくない。

過去の民主党大統領であるオバマ氏も、ビル・クリントン元大統領も、無類の演説好きだった。トランプ氏ほど演説好きでないウォーレン氏が、最終的にトランプ候補に逆転される可能性は十分ありうる。

トランプはメディアに決して引けを取らない

トランプ氏は多くのメディアを敵に回しているが、相手を論破し大衆を動員することのできる「演説好き」という点で、トランプ氏はメディアに決して引けを取らない。

一例を挙げれば、3大ネットワークを中心とするアメリカの大手テレビ局は、大統領選を左右する「スイング州」といわれるアメリカ中部などへの情報浸透力が強くない。

これに対して、トランプ大統領は1〜2年目から、アメリカ中部で演説会を開いてきている。筋金入りの演説好きという大衆動員力、説得力をいかんなく発揮して根強い支持を獲得している。そこに、トランプ大統領再選の可能性が見て取れる。