津田大介氏

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“反日プロバガンダ”の象徴である「慰安婦像」が展示され、その近くのモニターでは、昭和天皇の御影が燃やされる様子を映し出す……。中止騒動を招いた「表現の不自由展」は、もともと私設展覧会だったものが、あいちトリエンナーレの企画に発展した経緯がある。

 矢面に立たされた芸術監督の津田大介氏(45)は、実行委員会のメンバーとの間に“溝”があったと明かす。

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【写真】昭和天皇の御影を燃やしている大浦氏の映像作品

 そもそも失態の原因になった「表現の不自由展」は、いかなる経緯で生まれ、また、どんなメンバーが運営しているのだろう。

 美術ライターによると、

「もともとは、2012年に東京・新宿のニコンサロンで予定されていた慰安婦の写真展が、ニコン側の通告で中止されたことから始まりました。このニュースを知って、行動を起こしたのが武蔵大学教授の永田浩三さんでした。永田さんは、知り合いのギャラリーに企画を持ち込んで写真展を実現させる。これをきっかけに『表現の不自由展』の実行委員会が立ち上がるのです」

津田大介氏

 以降、永田氏は仲間を募り、展示を断られた作品の展覧会を、民間ギャラリーで開くようになる。今回の展示の実行委員5人のメンバーの一人というわけだ。その行動力たるや大したものだが、永田教授の前歴を知れば、さもありなん、なのだ。

 話はさらに遡って01年1月、NHKが後に政界まで巻き込むことになる番組を放送する“事件”が起きる。慰安婦問題の責任を問う「女性国際戦犯法廷」を取り上げたEテレの「戦争をどう裁くか」である。あくまで民間団体の活動で、もちろん、法廷は模擬裁判。実効力はないが、日本政府と昭和天皇に強姦と性奴隷制についての責任で有罪判決が下された。さすがに、放送では判決部分はカットされたものの、異様な内容の番組は大きな反響を呼ぶ。しかも、その後、事態は思わぬ方向に転がった。法廷の主催者(VAWW−NETジャパン)が、事前に知らされていた企画と番組内容が違うとしてNHKと番組制作会社を提訴したのである。

 事情通が語る。

「実は永田さん、元NHK職員で番組のチーフプロデューサーだったのです」

 さらに番組の4年後、放送前に故中川昭一代議士と安倍晋三党幹事長代理(ともに当時)が、NHK幹部に圧力をかけていたと朝日新聞が報じる。このことは先述の訴訟でも俎上にあがり、この際、NHK側のはずの永田氏は、原告側の証人に立ち、番組改変を国会担当局長から命じられたこと、政治家の関与がなかったように幹部らが口裏合わせをしたと証言したという。だが、裁判は原告の敗訴に終わり、永田氏は09年、NHKを退局する。その後武蔵大の教授に転身していた永田氏、津田氏が引っ張り出したとはいえ、今回の騒動の発火点には、そもそも慰安婦問題に特別な思い入れを持つ“黒幕”とも言うべき人物がいたわけである。

 その永田氏に、今回の展示中止について聞くと、

「どうせ面白おかしく書くんでしょう。取材はお断りです」

 と、元ジャーナリストらしからぬ返事。代わって「御影焼却」映像の作家・大浦信行氏に聞くと、こんな経緯を明かすのだ。

「燃えてますね!」

「私が新しい映像作品(昭和天皇の御影を燃やしている映像)を展示してくれないのなら、出品はお断りすると伝えると、津田さんから“一度会ってくれませんか”と誘われた。今年の5月なかばのことです。そこで映像を見せると、ぜひ出品して欲しいと言う。“天皇燃えてますね!”なんて笑っていました」

 にわかに信じ難い話だが、少なくとも映像を肯定的にとらえている口ぶりだったと大浦氏は振り返る。

「津田さんは、今回の展示について、“こういった内容を個人の画廊ではなく、公立の美術館でやることに意義がある”とも話していた。だから、ある程度の批判を覚悟で冒険に出たのだと思いました。抗議電話が殺到したり、街宣車が来たりすることぐらいあり得る。そのぐらい腹をくくっていると思っていたけど、蓋を開けてみれば腰砕けで、たった3日間で中止です。彼も芸術の世界で一目置かれるチャンスだったのに、残念なことです」

 さて、今回の「展示中止」問題を識者はどう見ているのだろうか。評論家で「アゴラ研究所」所長の池田信夫氏が言う。

「問題になった『表現の不自由展・その後』は、いわば“前科”のある作品をもう一度展示するというコンセプトです。しかし、慰安婦像にしても、日本政府が10億円の拠出金を払って日本大使館前からの撤去を求めている最中なのに、公的な場所で展示するのは矛盾している。これは、表現の自由という一般論にとどめておけることではありません。たとえば津田さんは慰安婦像について、それが持つ意味合いをどこまで突き詰めていたのか。結局“表現の自由”という言葉による一点突破しか考えていなかったのではないでしょうか」

 たしかに、今回の「展示中止」問題では、津田氏の負うべき部分は大きい。が、一方で、騒動の裏には、他にも責任を問われるべき人物がいる。

 美術評論家の藤田一人氏によると、

「私も、トリエンナーレはオープニング前日のプレビューに呼ばれ、レセプションにも顔を出しています。そこで目の当たりにしたのは、お役所が絡んだ美術展で見るお決まりの光景でした。最初の挨拶が大村秀章知事で、その後、実行委員長代理の河村たかし名古屋市長が一席ぶつ。その時は、展示物に問題があることなどには全く触れずに楽しそうに乾杯していたのです。河村さんは『燃えよドラゴンズ!』の替え歌を気持ちよさそうに歌っていました。つまり、プレビューに呼ばれても、きちんと作品を見ていない。その程度の問題意識だったわけです。トリエンナーレの開催前から朝日新聞などは慰安婦像が設置されることを報じていたにも拘わらず、気に留めている様子もなかった。だから、水面下で根回しが出来ているのだろうと思いました」

 とまれ、今回の「展示中止」騒動は簡単に収まりそうにない。かつて、NHKと政界を相手に立ちまわった手強い人物を引っ張り出してしまったのだから。

「週刊新潮」2019年8月15・22日号 掲載