「iPhone XSやXR用のモデムチップ販売、クアルコムに拒否されていた」独禁法違反訴訟でアップル幹部が証言
米連邦取引委員会(FTC)が大手半導体企業クアルコムを相手取った訴訟にて、アップル幹部がiPhoneのモデムチップに関する数々の証言を行ったことが報じられています。この訴訟は、スマートフォン用モデムチップで圧倒的なシェアを持つクアルコムが独禁法に違反した疑いがあったとして提起したものです。

2019年iPhone、サムスンやMedia Tek等の5Gモデムチップ採用を検討?



1つは、アップルがiPhone用の次世代通信規格「5G」モデムの調達先として、インテルやサムスン、Media Tekを検討していたということ。

もともと2011年〜2016年にかけては、iPhone用モデムチップはクアルコムが唯一の調達先でした。それが2016年に登場したiPhone 7でインテルとクアルコムの2つに分割され、クアルコムの独占状態は終了。そして2018年のiPhone XSやiPhone XRといった最新モデルでは、インテルのモデムチップのみが使用されています。

アップルのサプライチェーン部門幹部トニー・ブレビンス氏の証言によると、クアルコム独占時代も同社は他社製チップを使いたいと考えていたが、クアルコムは調達先の多様化を阻止しようと特許ライセンス料の払い戻し(リベート)を申し出たため、独占契約が締結されたとのこと。

たとえば2013年にも、iPad mini 2用にインテル製モデムチップが検討されていたものの、そうするとクアルコムからのリベートを失うために断念したそうです。ブレビンス氏いわく、インテル製品を「経済的に魅力のないものにした」とされています。

しかし2016年から2017年にかけて複数の調達先にシフトすると、クアルコムとの法的な混乱は両社の関係に「非常に深くネガティブな形で」影響を与え、結果的にiPhoneはインテル製チップのみを使用するようになった......という風にアップルとクアルコムの軋轢が深刻なものとなった経緯が語られています。

とはいえ、インテルが唯一の調達先になった現状は決して望んだものではなく、アップルは常に複数の企業と協力したいと考えていたとのこと。そうした戦略は「Project Antique」と名付けられて、全体的なコンセプトは「2番目のサプライヤーを見つけること」。さらに「クアルコムとインテルの両方を組み合わせたかった」として、クアルコムと決別したことも本意ではないと示唆しています。

そうした「Project Antique」戦略の文脈のなかで、ブレビンス氏はインテルやサムスン、Media Tekといった複数の5Gモデムチップ調達先を検討していた......と語ったわけです。チップ供給元をいくつかに分割した方が価格交渉もしやすく、非常事態にも対処しやすいといった事情が推測されます。

もっとも、この訴訟では2018年3月以前に起こったことが網羅されている反面で、それ以降についての証言はありません。ブレビンス氏も2019年のiPhoneが5Gモデムを採用するかどうか、決定的な手がかりは伏せたままです。

iPhone XSやiPhone XR用モデムチップの供給をクアルコムに拒否されていた


もう1つの証言は、アップルは2018年の最新iPhoneでもクアルコムにモデムチップの供給を求めたにもかかわらず、先方から拒否されたということです。

こちらの証言は、アップルのジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)によるものです。

上述の通り、同社の方針は一貫して「チップの供給先を複数に分ける」ということ。ウィリアムズ氏は「2018年の戦略も、デュアルソース化(調達先を2つにする)ことだった」と語り、クアルコムと途中までは協力していたが結局は断られたと証言しています。

ウィリアムズ氏はクアルコムのスティーブ・モレンコフCEOにチップの販売を頼んだものの、拒否された。しかたなくインテルCEOに電話をしてiPhone2018年モデル用のすべてのチップ供給を頼むしかなかったーーといった経過だったそうです。

こうした証言は一見すると、モレンコフ氏がアップルと「解決の入り口にいる」として歩み寄る姿勢を示していたことと矛盾しそうです。が、あくまでクアルコムが独占契約にこだわり、アップルがデュアルソース化を堅持しようとしたとすれば、両社が平行線をたどったことに一定の説明がつきそうです。

クアルコムは2019年に5G対応モデムチップを供給できる数少ない企業の1つ。巨大な取引先の1つを失ったクアルコムと、5G市場でのビジネスチャンスを逃しかけているアップルは、ともに痛みに耐えているのかもしれません。