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テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第52回は、6日に放送された日本テレビ系バラエティ番組『世界の果てまでイッテQ! 2時間SP』をピックアップする。

もはや説明不要の人気番組だが、2019年1回目の今回は、イモトアヤコ、出川哲朗らエース級を投入した2時間SPで勝負。人気絶頂の状態から、スキャンダルに見舞われた昨年を経て、どんな変化が見られるのか。裏番組のライバル『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)も2時間半特番を仕掛けるため、いきなりの真っ向勝負となった。

○イモトアヤコの「エース」たるゆえん

新年最初のコーナーは、「珍獣ハンターイモトのイッテQカレンダープロジェクト」。南米・ギアナ高地の絶壁でクライミングに挑むという。

40時間をかけて到着したものの、数日前から風邪をひいて体調不良のイモト。さらに、10分ごとに変わる悪天候、登る前に泣き出してしまう、風邪が悪化、安室奈美恵を思い出して自らを鼓舞……ドラマティックな展開でたたみかけて、視聴者に息つく暇を一切与えない。

イモトは不安や不満をこぼしつつも、「たぶんこのロケに集中しきれてないんだな」と持ち前のストイックさを見せ、「帰国後に『下町ロケット』(TBS系)のロケがあって、朝5時から吉川晃司(との共演)なんだよ」というエピソードで笑わせた。スポ根と笑いを織り交ぜられるのは、イモトの「エース」たる理由ではないか。

一方のスタッフサイドも負けていない。ナレーションとイラストを多用して畳みかけるように挑戦の詳細を伝え、秒速レベルのカット割りとテロップで揺れ動くイモトの心情を視聴者に届けた。

もう1つ見逃せないのは、さまざまなアングルから大自然をとらえたカメラワーク。雄大な映像をたっぷり見せる演出は、1966〜1990年にかけて日曜夜に放送されていた名番組『すばらしい世界旅行』(日テレ系)を彷彿(ほうふつ)とさせる。今ではあまり知られていないが、『イッテQ』は日テレにとって温故知新の精神が宿る番組と言えよう。

○エンディングでデヴィ夫人がボヤいた理由

次のコーナーは、「女芸人一芸合宿in広島」。森三中、いとうあさこ、椿鬼奴ら、いつもの女芸人たちが正月らしく琴を習うという。鼻につかない程度に教養を絡められるのも『イッテQ』の強みであり、ファミリー向け番組として親世代を味方につけている。

ただ、案の定と言うべきか、琴の練習シーンより、お好み焼き店での正座対決、2日目朝の相撲、縁結びのパワースポットで恋みくじ、高さ38mの冷水に打たれる滝行、夜のカラオケ大会とイベントざんまい。女芸人たちはすべての場で、ここぞとばかりにののしり合いや自虐トークなどの寸劇を繰り広げた。

そのほとんどが見慣れたやり取りであり、いわゆる「団体芸」なのだが、女芸人たちは男芸人たちのように「なれ合い」「パワハラ」と嫌われることは少ない。暴言を吐いても、取っ組み合いになっても、どこか仲の良さがにじみ出るような牧歌的なムードを醸し出せる。実際、最後にスタジオで「合宿で20時間以上、その後も個別練習を重ねた」という琴の演奏を仲よく披露したシーンも、穏やかなムードであふれていた。

最後のコーナーは、「出川女子会のロサンゼルスツアー」。出川哲朗、デヴィ夫人、河北麻友子、堀田茜、谷まりあの5人がアメリカのユニバーサル・スタジオ・ハリウッドなどを訪れた。

「絶対に押さえたい場所BEST3」を紹介するなど紀行番組としての顔を見せたほか、「エアリアルシルク」という宙づりのパフォーマンス、グランピング施設での手料理対決、お化けドッキリを放送。「女性4人が互いに毒づきながらも、けっきょく楽しそう」というムードで番組は終了した。

エンディングでデヴィ夫人が、「みんなで戦ったシーンがないんですよ。また武井さん(ディレクター)、切っちゃったの?」とボヤいたように、放送されないシーンを含めたロケ時間の長さは特筆もの。手間と時間とお金をかけた制作姿勢は、他の追随を許さないものがあり、それだけで貴重だ。

○「バラエティの謎とき」に挑み続ける

周知のように、昨年『イッテQ』は、「祭り」企画の“ウソ”で窮地に追い込まれた。番組に携わるすべての人が「あんなことは二度とあってはならない」という意識を持っているだろう。その点を踏まえて、2019年1回目の放送にウソはなかったのか?

その答えは、「ついていいウソはあったけど、ついてはいけないウソはなかった」。女芸人や出川ガールズの暴言や毒づいた姿、ののしり合う寸劇は、どれも「ついていいウソ」。そこに不快感はなく、むしろ「こんな友人関係や仕事仲間なら楽しそう」と思わせるものがあった。「今年はこういう“ついていいウソ”でやっていきます」という意志表示に見えた感さえある。

そう見えた最大の理由は、イモト、女芸人、出川ガールズら、女性を全面に押し出した構成。MC・内村光良は母性あふれる進行でなごませ、スタジオの宮川大輔や手越祐也はほとんどコメントしなかった。今年はこれまで以上に「『イッテQ』は女性の番組」というイメージが強くなっていくのかもしれない。

1980〜1990年代のバラエティが好きだった人は、牧歌的なムードに物足りなさを感じるところもあるだろう。ただ、『イッテQ』はこの日もわざわざ冒頭に、番組スタート時に掲げた「謎とき冒険バラエティー」というサブタイトルを掲げていた。

現在の内容に「謎解き」はなく、その意味では「看板に偽りあり」と言える。しかし、年々表現の幅が狭まり、制作費の縮小が叫ばれる中、日曜20時というテレビ業界のド真ん中で、「バラエティの謎ときに挑み続ける」という意味ならば合点がいく。

ライバルとして名乗りを上げた『ポツンと一軒家』に加えて、今年は『あまちゃん』(NHK)のスタッフが再集結した大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)も放送されている。ちなみに6日の視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、『イッテQ』(19:00〜20:54)16.0%、『ポツンと』(19:00〜21:00)15.4%、『いだてん』(21:00〜21:00)15.5%と大接戦だけに、一年間熱い戦いを見せてくれるだろう。

○次の“贔屓”は…「放送500回」の記念ゲストは明石家さんま!『A-Studio』

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、11日に放送されるTBS系バラエティ番組『A-Studio』(23:15〜)。

笑福亭鶴瓶がMCを務めるトーク番組であり、今回が記念すべき500回目の放送となる。節目のゲストに選ばれたのは、鶴瓶とは40年超のつき合いがある明石家さんま。おのずとトークパートが長くなったり、あらぬ方向へ脱線したりなど、ふだんとは異なるところもあるだろう。

しかし、だからこそふだんの魅力が浮き彫りになりやすいとも言える。番組の構成から、鶴瓶のスタンス、サブMC・川栄李奈のコメントまで、じっくり見ていきたい。

■木村隆志

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20〜25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。