12月17日、自身のパーティーで乾杯する自民党石破茂氏(写真:共同通信)

単なる奇遇にすぎないのか。12月17日夜に都内で2人の自民党議員のパーティーが開かれた。ひとりは野田聖子前総務相で、もうひとりは石破茂元地方再生担当相。いずれもポスト安倍を狙っている2人だ。

だが2人の立場は大きく違っている。2018年自民党総裁選では、推薦人20名を集められず2015年と同様に出馬を諦めた野田氏に対し、石破氏は苦戦しながらも地方票の45%と国会議員票73票を獲得した。2012年の総裁選では第1回投票で安倍晋三首相を上回る199票(地方票165票と国会議員票34票)を得ている。

しかも石破氏のパーティーの会場となったのは、立食パーティーでは1500名を収容できるホテル・ニューオータニの芙蓉の間。鈴木宗男元北海道・沖縄開発庁長官や有村治子元内閣府特命担当相がパーティーを開く会場だ。最近ではパーティーが長女で衆議院議員の貴子氏との共催となっている鈴木氏は、現職時代から「天下獲り」を目指すべく全国に後援会を結成していた。参議院比例区選出の有村氏は、神道政治連盟を支持母体とするため、パーティーの参加者の数が多い。

石破氏の場合、かつては同ホテルで500名収容可能な鳳凰の間でパーティーを開いていた。よって、当時と比べて今回はざっと3倍の規模になったわけだ。

「石破が総理大臣にもしならなかったら、私は永遠に鳥取に来ることはない――。そう言ったら、みんなすごい拍手するんですよ。おっかなくてもう鳥取には行けない。なるべく早くなっていただいて、境港でおいしい蟹を食べたい」

規模拡大も、寂しさが否めなかったパーティ

ほぼ満席となった会場で、新進党時代からの盟友であり石破派のスポンサーとも言われる笹川堯元衆議院議員が最初に挨拶し、笑いをとった。次に挨拶に立ったのは9月の内閣改造で石破派から“1本釣り”された山下貴司法相だ。当選回数3回ながらパーティー会場入り口での立礼では石破氏、佳子夫人に次いで3番目に立っていた。

「私は石破先生の弟子のひとり。法務大臣の打診があった時に報告に行くと、石破先生から『石破派のためではなく、日本のためにやってこい』と言われた」

2017年10月の衆議院選では石破氏が山下氏への応援のために雨の中を傘も差さずに立ってくれたことも披露。まさしく石破氏らしいエピソードといえる。

また石破氏とテレビで共演することも多い田原総一郎氏は、「私は昔から石破応援団。いまの自民党は安倍首相にものを言えなくなっているが、石破さんは本当に頑張った」と檄を飛ばした。

しかしながら、あいさつに立ったのは以上3名のほかに柴山昌彦文科相のみで、いささか寂しい印象が否めなかった。総裁選で石破氏を支持した吉田博美自民党参議院幹事長や竹下亘前総務会長らの姿はなく、石破氏の“盟友”である小池百合子東京都知事も、都議会が第4回定例会の最終盤にあったせいか、メッセージを寄せるのみだった。

それは翌18日昼に同ホテル鳳凰の間で開かれた金田勝年自民党幹事長代理のパーティーと比較しても寂しさは際立つ。

金田氏のパーティーには前日に退院したばかりの二階俊博幹事長と菅義偉官房長官は不参加だったものの、麻生太郎副総理兼財務相や加藤勝信総務会長、茂木敏充経済再生担当相、片山さつき内閣府特命担当相などそうそうたるメンバーが次々と挨拶に立った。予定になかった原田義昭環境相まで駆けつけ、壇上で一言述べている。

なお石破氏のパーティーと同時刻に開かれた野田氏のパーティーには、加藤総務会長や河村健夫元官房長官も参加し、乾杯の際には舞台に上がって花を添えていた。これらと比較しても、石破氏のパーティーはなんとなく寂しい。

「出ない方がおりこうさんだったかもしれない。しかし自民党は国民政党。その自民党員に対して選択肢を提示するのは自民党の責任だ」

ほぼ16分にも及んだ石破氏の返礼の辞には、次期総裁選への意欲が見えるものの、「(総裁選は)初出馬以来の辛い選挙だった」といった恨み節も含まれた。

では2021年の自民党総裁選がどうなるのか。予定通り3期の任期がまっとうされるなら、第2次安倍政権は9年という記録的長期政権となり、その後は安倍首相はキングメーカーとして政界で君臨することは間違いない。その場合の“ポスト安倍”は石破氏よりも岸田文雄政調会長や加藤総務会長などが取り立てられる可能性は高く、短命政権が続くとも見られる。そうした予想の中で注目すべきは、自民党参議院の要である吉田参議院幹事長のこれからの動きだろう。

吉田氏の去就と石破氏との微妙な距離感

吉田氏は故・金丸信元自民党副総裁の公設秘書を務め、長野県議を経て2001年の参議院選で初当選した。2016年から参議院幹事長として辣腕を振るい、参議院自民党をまとめてきた。

そもそも自民党参議院は固有の“金庫”を持ち、党本部からの干渉をほとんど受けることがないと言われている。かつて村上正邦氏や青木幹雄氏が“ドン”として君臨し、政界に広く影響力を振るったのはそれゆえだ。

そのように考えるなら、9月の総裁選で吉田氏が石破氏を支持したのも、青木氏からの指令もあったものの、参議院の独自性を発揮しようとしたからだともいえる。そもそも山口県柳井市に生まれ、10歳まで育った吉田氏と安倍首相はまさに同郷人。2020年までに憲法改正を果たすことが悲願の安倍首相には、参議院の全面的な協力が不可欠であることも明らかだ。

その吉田氏は2019年夏の参議院選で改選を迎えるが、前回から1人区となった長野選挙区からの不出馬を宣言し、小松裕元衆議院議員を後継指名した。比例に転出するとの噂もあるが、吉田氏は「12月末に進退を表明する」と先延ばしにしている。

しかし出馬表明は選挙半年前がタイムリミット。また吉田氏は次回の参議院選から導入される「特別枠」の利用を否定したが、官邸が強力な後援団体を付けるとも見られている。

ポスト安倍で誰が一番笑うのか。次期参議院選を前にその布石は打たれつつある。