7月にネットで公開された、安田純平さんとみられる映像

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3年間の拘束から解放されたフリージャーナリスト・安田純平さんへの風当たりがインターネット上で強い。日本政府を批判しながら紛争地帯に飛び込んだにもかかわらず、拘束されてから時折ネット上に公開される映像の中で、助けを求める発言をしていたのが「都合が良すぎる」というのが、批判の大きな根拠となっている。

ただ、解放後に安田さんの妻がメディアで公開した「直筆メモ」には、「(身代金を)払っちゃあかん」と読み取れる暗号のようなメッセージを残していたことが明かされた。安田さんはどこまで「助け」を求めていたのか。そして、実際に身代金を払ったとされるカタールの意図とは。

「チキン国家」ツイートなどがネットで物議

シリアの武装勢力から解放された安田さんは、トルコ南部アンタキヤの入管施設で保護された後、イスタンブールに移動し、2018年10月25日未明に日本へと出発した。

帰国の飛行機内でメディアの取材に答えているが、その中でも注目されたものの一つが、NHKが同日に報じた「トルコ政府側に引き渡されるとすぐに日本大使館に引き渡されると。そうなると、あたかも日本政府が何か動いて解放されたかのように思う人がおそらくいるんじゃないかと。それだけは避けたかった」といった発言だ。

15年6月に消息を絶って拘束された安田さんだが、映像が何度かネット上に公開されてきた。16年5月には日本語で「助けてください これが最後のチャンスです」と手書きされた紙を持った画像がアップ。18年7月には、2人の人物から銃を突き付けられた状態で「私の名前はウマルです。韓国人です」「助けてください」と日本語で話す動画が投稿された。

こうした安田さんの言葉は、日本のネット上で批判も浴びた。安田さんは拘束前、ツイッターで

「戦場に勝手に行ったのだから自己責任、と言うからにはパスポート没収とか家族や職場に嫌がらせしたりとかで行かせないようにする日本政府を『自己責任なのだから口や手を出すな』と徹底批判しないといかん」(15年4月3日)
「日本は経験ある記者がコバニ(編注:シリアの都市)行っただけで警察が家にまで電話かけ、ガジアンテプ(編注:トルコの都市)からまで即刻退避しろと言ってくるとか。世界でもまれにみるチキン国家だわ」(15年6月20日)

といった書き込みをしていたためだ。「助けて」といったメッセージが出た時、一般ユーザーから「さんざん日本に反抗しといて、困ったら泣きつく」といった声があがることになった。

「はろ(払)ちゃあかん」のメモ

ただ、本意として「泣きついた」かどうかは定かでない。まず、武装勢力によって撮影された写真・映像では、助けを求めるよう脅迫されていた可能性はある。加えて、安田さんの妻・深結(みゆ)さんが24日、日本テレビの報道番組で、拘束中の安田さんによる直筆メモを公開しており、「いろんなメッセージが込められていた」と語っている。

メモは解放交渉の関係者だという人物を介し、深結さんが安田さんに投げかけた7つの質問に回答したものだ。書かれていたのは「Harochaakan, Danko6446, Bujifrog」という文字列。「はろ(払)ちゃあかん、断固無視しろ、無事帰る(フロッグ=カエル)」と解釈できるとして、「身代金を払うな」というメッセージだったとの推測がなされている。深結さんは、質問を書いたのは15年、回答のメモを見たのは18年。これだけ手の込んだメモで、真意と異なることを書くとは考えづらい。

日本政府も今回の解放にあたり、菅義偉官房長官が23日深夜の会見で「身代金を払ったという事実はない」と発言。菅氏は16年3月の会見でも、安田さん解放のための身代金要求について「承知していない。政府の対応方針が変わることはない」と表明していた。

「巧みなカタールの外交戦略」?

こうした関係からは、身代金をめぐって安田さんは「払うな」、日本政府も「払わない」という考えがあったとも推測される。安田さんが本当に政府に泣きついたり、政府が身代金を払って安田さんを解放しようとしたりしたというのは、疑問が残る。そうした中で、解放にあたって別の国で身代金の授受があったとの情報がある。カタールだ。

複数メディアの報道によれば、在英民間団体「シリア人権監視団」のラミ・アブドルラフマン代表が23日、カタールが身代金100万〜300万ドル(約1億1100万〜3億3800万円)を支払ったと主張したのだという。

なぜカタールが日本人解放に金銭を出してまで動くのか。同代表は、「解放に尽力した姿勢を国際的にアピールすることだ」と指摘したことが報じられている。

また、前東京都知事で元厚生労働相の舛添要一氏は24日、ツイッターで「サウジなど4カ国に断交され孤立しているカタールの狙いは、人道面の貢献で国際的評価を上げ、また日本政府の支援を受けること。サウジが非難されているときに、巧みなカタールの外交戦略である」と身代金支払いの思惑について投稿した。安田さん本人の意思と無関係なところで、解放の動きが進められていた可能性がある。

(26日追記)読者からのご指摘を受け、本文の一部を修正いたしました。