田中角栄「名勝負物語」 第一番 田中真紀子(3)
結婚後、間もなく真紀子は未練を残しながらも女優への道を断念、『雲』を正式退団した。
「舞台を終えて夜遅く家に帰ると、新郎(直紀)がご飯を食べずに待っている。女優と主婦、両立せずを悟っての決断だったようだ」(田中家をよく知る関係者)
その後、真紀子は1男2女をもうける一方、直紀も旧〈福島3区〉から衆院選に出馬、初当選を果たした。昭和58年(1983年)である。この選挙で、真紀子は結婚前の夫の政界入り反対から一変、積極的に選挙運動を手伝った。
「親父(田中)の血を引いているから、当意即妙の演説は抜群。モンペ姿でたんぼに入って農家の人と握手したりと、演出も巧みだった。直紀の票の半分は、『真紀子あってのもの』との声しきりだった」(地元記者)
_=敬称略=
_(この項つづく)
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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。