トランプ政権が打ち出した中国製品に対する制裁関税は対抗策にはならない(写真: Bob Riha Jr. /ロイター)

中国は「中国製造(メード・イン・チャイナ)2025」の国家戦略を掲げ、ハイテク分野で世界の覇権を握ろうと野心をむき出しにしている。これは米国との直接対決につながるものであり、技術をめぐる新たな冷戦が激しさを増してきたといえる。

中国は通商面だけで覇権を争っているのではない。軍事転用可能な技術に巨額の投資を行うことで、さらに強大な軍事大国になろうとしているのだ。中国は知的財産権を侵害したり、中国進出を望む外国企業に中国企業への技術移転を強要したりと、あらゆる手を駆使し外国から技術を奪い取ってきた。

制裁関税は米国企業に制裁を課すのと同じ

米国は中国のこうしたやり方にいらだちを募らせている。米トランプ政権は米通商法301条に基づき、年間500億ドル(約5.5兆円)相当の中国製品に25%の制裁関税をかけると発表。さらに、2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品にも10%の追加関税を課すと警告し、米中は今、報復の連鎖に陥っている。

だが、制裁関税は中国への有力な対抗策とはなりえない。当の米国企業に制裁関税を課すのと同じ結果になるからだ。これは世界のサプライチェーンが複雑に入り組んでいることに原因がある。

トランプ政権が制裁の対象とする中国製品の多くは、外資系企業が製造している。たとえば、米国が中国から輸入しているコンピュータ製品の86%、電子機器・部品の63%、一般機械の59%は多国籍企業が生産したものだ。

加えて、こうした製品には外国(主に米国)企業が中国国外で生産した高付加価値部品などが組み込まれている。つまり、トランプ関税によってサプライチェーンが混乱すれば、その恩恵を受けている米国企業に打撃が及ぶことになる。

では、制裁関税が無力なのだとしたら、どうやって中国のルール違反に対抗していけばいいのか。前オバマ政権で設置された大統領科学技術諮問委員会(PCAST)が、いくつかの対策を提示している(筆者も委員の一人だった)。

PCASTの報告書は中国の脅威から米国の半導体産業を守ることを目的としており、次のように勧告した。まず、同盟国と協力して中国に圧力をかけ、WTO(世界貿易機関)ルールを順守させること。

次に、欧州連合や日本・韓国・台湾の例に倣い、中国に半導体関連の特許が流出したり、関連企業が中国に買収されたりしないように監視を強めることだ。現在、外資による米国企業の買収を安全保障の観点から審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化が進みつつあるが、これはPCASTの勧告内容とも一致する。

すべては米国のイノベーション力にかかっている

一方でPCAST報告は、米国には中国が巨額の補助金を投下してハイテク産業を育成するのを止める権限はないとも指摘している。それに、中国の技術革新やコスト削減は米国の消費者にも恩恵をもたらすので、一方だけが得をするゼロサムゲームとはならない。米国にとっての課題とは、中国をWTOのルールに従わせ、特許侵害や技術移転の強要といった真のゼロサムゲームをやめさせることであって、中国のハイテク産業の発展を妨げることではない。

最後に、PCAST報告は、米国自身が産業政策を持たねばならないと強調している。結局のところ、米国が中国の脅威に打ち勝つことができるかどうかは、米国がイノベーションを維持し続けられるかどうかに懸かっているのだ。

歴史は「ツキディデスのわな」に満ちている。新興の大国が台頭し、既存の大国との間で緊張が高まると戦争に発展するという理論だ。ハイテク分野の覇権争いが過熱して米中がこのわなに落ちるのを防ぐためにも、緻密で洗練された通商政策が求められている。