防衛装備庁は試作「装輪155mmりゅう弾砲」の概要を公開しました。わかる人にすればどのような装備なのかすぐわかる、ド直球なネーミングです。わからない人に向け、その特徴や運用などを基礎から解説します。

そもそも「りゅう弾砲」とは?

 2018年5月31日、防衛省・自衛隊が使用する防衛装備品の開発を手がける防衛装備庁が、陸上自衛隊向けに開発を進めている「装輪155mmりゅう弾砲」の試作品の写真と概要を、ホームページで公開しました。


2018年5月31日に防衛装備庁が公開した試作「装輪155mmりゅう弾砲」(画像:防衛装備庁)。

 陸上自衛隊は現在、「FH70」と「99式自走155mmりゅう弾砲」という、2種類の155mmりゅう弾砲を運用しています。りゅう弾砲は戦車の主砲のように目標に向けて水平方向に発射するのではなく、砲弾が放物線を描いて飛翔するタイプの砲(曲射砲)の一種です。一般的には「榴弾」と表記されますが、陸上自衛隊は「りゅう弾」という表記を用いているため、この記事では「りゅう弾」に表記を統一することを、あらかじめお断りしておきます。

 大砲で使用される砲弾は、おおむね徹甲弾とりゅう弾の2種類に分類されます。徹甲弾は戦車や軍艦などの装甲に穴をあけるための砲弾で、装甲の厚い戦艦同士や戦車同士の戦いでは、徹甲弾が使用されます。

 一方のりゅう弾は、内蔵された火薬の爆発によって飛び散った破片によって相手にダメージを与える砲弾で、装甲の厚い目標に対して効果はあまりありませんが、広範囲に展開した歩兵や、装甲の薄い車両などに対する攻撃に適しています。

その名の「155mm」や「装輪」はなにを意味する?

 第二次世界大戦ごろまで、りゅう弾砲の口径(砲身の直径)は国によってまちまちでしたが、第二次世界大戦終結後に起こった冷戦で、西側諸国がNATO(北大西洋条約機構)、東側諸国がワルシャワ条約機構という軍事同盟をそれぞれ創設し、使用する兵器の規格の統一を進めたことから、旧西側諸国に属する国の軍隊では口径105mm、155mm、203mm、旧東側諸国に属する国の軍隊では口径122mm、152mm、203mmで、ほぼ統一されています。

 現在各国が使用しているりゅう弾砲の射程は、おおむね30kmから40km程度ですが、ロケットブースターを装着して射程を70km程度まで延ばした、「VLAP」と呼ばれる砲弾も開発されています。


陸自「99式自走155mmりゅう弾砲」は、無限軌道(いわゆるキャタピラー)で49.6km/hでの自走が可能(画像:陸上自衛隊)。

 陸上自衛隊は現在、「203mm自走りゅう弾砲」、「99式自走155mmりゅう弾砲」、「155mmりゅう弾砲(FH70)」の3種類のりゅう弾砲を保有しています。

「自走」とは読んで字の如く、自ら走れるという意味で、「203mm自走りゅう弾砲」と「99式自走155mmりゅう弾砲」はキャタピラー式の装甲車輌に、それぞれ203mmりゅう弾砲と155mmりゅう弾砲を搭載しています。

 実のところ「キャタピラー」はアメリカ企業であるキャタピラー社の登録商標で、一般的に英語では「クローラー」または「トラックベルト」、日本語では「無限軌道」と呼ばれます。無限軌道を用いて走行する車両は「装軌車両」と、タイヤを用いて走行する車両は「装輪車両」と呼ばれています。つまり前出の「装輪155mmりゅう弾砲」は、タイヤを用いて走行する車両に、155mmりゅう弾砲を搭載しているということになります。

先任は富士重工製水平対向エンジンつき

「155mmりゅう弾砲(FH70)」は車両による牽引で移動するタイプのりゅう弾砲で、陸上自衛隊では三菱ふそうが製造する7tトラックに、砲弾の積み下ろしに使うクレーンや牽引装置などを装備した「中砲けん引車」によって牽引されて移動します。


「155mmりゅう弾砲(FH70)」は西独(当時)、英、伊の共同開発で、陸自に配備されているものは日本製鋼所のライセンス生産品(画像:陸上自衛隊)。

 実は「155mmりゅう弾砲(FH70)」もまったく自走できないという訳ではなく、陣地(発射位置)に展開後の移動などの短距離移動用に、排気量1800ccのガソリンエンジンが搭載されています。このエンジンは富士重工業(現スバル)が開発したもので、クランクシャフトをはさむ形でシリンダーを左右に水平に配置して、遂になるピストン同士が向かい合うように上昇・下降する構造から「水平対向エンジン」と呼ばれています。スバルは自社の乗用車の全車種に水平対向エンジンを使用していますが、スバル以外ではトヨタとスバルが共同開発したスポーツカーの「86」と、ポルシェ911などでしか使われていません。

 陸上自衛隊の駐屯地祭や、毎年8月に開催される「富士総合火力演習」などでは、「155mmりゅう弾砲(FH70)」が自走することがあります。もし自動車ファンの方が足を運ばれる機会があれば、いまでは希少種となった水平対向エンジンの音を楽しまれてはいかがでしょうか。

「155mm自走りゅう弾砲(FH70)」は1983(昭和58)年から400門以上が調達されましたが、老朽化に加えて、2013年末に策定された、おおむね10年間の防衛政策を定めた「防衛大綱」で、陸上自衛隊の砲の定数(上限)を300門に定めたこともあって、順次退役が進んでいます。今回防衛装備庁が試作品の写真と概要を公開した「装輪155mmりゅう弾砲」は、「155mmりゅう弾砲(FH70)」の後継砲として、配備が予定されています。

「牽引式」の後継が「装輪」になったもっともなワケ

 なぜ牽引式の「155mmりゅう弾砲(FH70)」の後継が牽引式のりゅう弾砲や、「99式自走155mmりゅう弾砲」のような装軌式の自走砲でないのか、という疑問をお持ちの方もおられるのではないかと思います。

 現代の砲戦では砲の発射位置を探知する対砲レーダーや、無人機をはじめとする観測装置の進化により、砲は発射後に発射した陣地から速やかに移動しないと、生き残ることが難しくなっています。前にも述べたように「155mmりゅう弾砲(FH70)」には水平対向エンジンが搭載されていますが、そのエンジンで自走できる距離は短く、現代の砲戦で必要とされる距離の移動は困難です。

 装軌式の自走砲は装輪式の自走砲に比べて、砂漠やぬかるんだ土地などでの走行性能が高く、またその場で360度旋回できるため、砲の向きを変えやすいという長所もあります。ただ装軌式車両は道路の長距離自走には適しておらず、また装輪式車両に比べて重量が重いため、大型の輸送機でないと空輸ができないといった短所があります。

 こうした理由からフランス陸軍やインドネシア陸軍が採用した「カエサル」、スウェーデン陸軍やノルウェー陸軍が採用した「アーチャー」など、装輪式自走砲を採用する国が増えつつあります。また韓国陸軍は装軌式の「K9」自走砲と並行して、トラックに105mmりゅう弾砲を搭載する「EVO-105」の導入を進めています。


フランス陸軍などが採用している155mm装輪自走砲「カエサル」(竹内 修撮影)。

スウェーデン陸軍などが採用した「アーチャー」155mm装輪自走砲(竹内 修撮影)。

韓国陸軍が導入する「EVO-105」105mm装輪自走砲(竹内 修撮影)。

 陸上自衛隊は「203mm自走りゅう弾砲」を順次退役させ、北海道に配置されている北部方面隊に「装輪155mmりゅう弾砲」を配備する計画を立てています。道路を高速で自走し、おそらく航空自衛隊のC-2輸送機にも搭載できる「装輪155mmりゅう弾砲」の配備により、陸上自衛隊は砲の定数の削減をカバーできると考えているようです。

【写真】大迫力! 陸自最大口径火砲「203mm自走りゅう弾砲」の発射炎


陸自最大口径の「203mm自走りゅう弾砲」。略称は20HSP。「サンダーボルト」という公式愛称もある(画像:陸上自衛隊)。