これからの世界を支える「LPWA」を分かりやすく解説!

IT業界の専門用語にはなかなか一般に理解されにくいものが多く、得に新技術や新しい規格の名称などはその認知の浸透に時間がかかるもので、こういったコラムや取材記事を書く際にもどこまで説明すればよいのか、もしくは説明抜きに「これはみんな知っているよね」という前提で書いて良いものなのかの判断が難しい場合が多々あります。

今回題材にしようと考えている「LPWA」もそんな名称の1つではないでしょうか。LPWAと聞いて、IT関連企業の人間で知らない人はほぼいないと思われますが(というか、知らないと白い目で見られるレベル)、それ以外の業界の人々や一般人には逆にほぼ通じない名称でしょう。

しかしそこに使われている技術や仕組みはこれからの世界を構成する非常に重要で基礎的なものなのです。LPWAが世界のマーケットを動かす時代が来ると言っても過言ではありません。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はこれからの時代で重要な技術となるであろうLPWAについて解説します。


人々の生活をサポートする「情報」はLPWAによって進化する


■LPWAって何だ?
LPWA(エルピーダブリューエー)とは、「Low Power Wide Area」の略称です。日本語に無理矢理訳すならば「低消費電力広域無線通信」などになるでしょうか。さらに「Low Power Wide Area Network」(低消費電力広域無線通信網)という意味から「LPWAN」(エルピーワン)などと呼称している企業や団体も複数あります(用法や用例からLPWAとLPWANを区別して語る場合もある)。

この時点でIT関連に詳しくない人にはすでに読みづらい記事になっているようで申し訳ありませんが、LPWAはその名の通り非常に小さな消費電力で無線通信を行う規格の総称であり、単一の規格名ではありません。また特定の企業のサービス名でもありません。

LPWAに属する規格そのものには「SIGFOX」や「LoRaWAN」、「NB-IoT」、「Wi-Fi HaLow」、「Wi-SUN」、「RPMA」などがあり、いずれもまったく違った通信規格として策定され、非常に小さな消費電力で通信が行えることを特徴としています。

どの程度小さな出力なのかと言えば、スマートフォン(スマホ)などのLTEの出力規定は200〜250mW以下、Bluetooth(クラス1)が100mW以下であるのに対し、LPWAに含まれる各規格の出力には1〜20mW以下というカテゴリーがあります(規格によっては250mW程度の高出力カテゴリーを用意しているものもある)。

かつて低出力で安全性を謳っていたPHSでも80mW以下であったことを考えれば、驚きの低出力であり、システム全体でもかなりの低消費電力を達成できると考えられます。


ワイヤレスジャパン2017に出展してたWi-SUNアライアンスのブース。LPWAの各規格は複数の企業が策定団体を創り管理していることが多い



Wi-SUNアライアンスの公式サイト


■IoT機器を支えるLPWA
それでは、LPWAは一体何に利用することを目的として様々な規格が乱立する状況となったのでしょうか。それは「IoT」のためです。

多くのIoT機器の目的は「情報収集」です。温度センサーや人感センサー、音響センサーなどをビルや地域に無数に配置し、そこから得られた情報を集約・分析することで人々の生活をサポートすることが大きな目的です。

そこにはGoogleやApple、そしてNTTドコモなどが力を入れるAIアシスタントも介在します。IoT機器によって得られた情報をAIが分析・解析し、スマホを通じて人々にアドバイスを送る、そんな未来を各企業が想像しているのです。


情報は突然やってくるのではない。数多のセンサーやカメラによって集積されたものを分析・解析して初めて「情報」となる


こういった情報収集に欠かせないIoT機器にとって、消費電力の小ささはとても大きなファクターとなります。IoT機器には単体で長期間駆動させる必要があるものも多く、その場合外部から電力を取ることもありますが、電池やバッテリーによる駆動が必要な場合もあります。そういった場合にバッテリー1つで1年稼働するのか、それとも10年稼働するのかは大きな違いとなります。

IoT機器による情報の出力には大きな特徴があり、それは映像や音楽のような大容量通信ではなく、非常に小さな、それこそ数キロバイトといったサイズのデータを断続的に長期間送信し続けるといったものです。そのため大きな出力は必要なく、LPWAに与するような通信規格が最適なのです。

情報を集積・分析しそれをユーザーの生活サポートなどに活かすためのサービス自体は事業規模の大きさやインフラ整備の観点からそれほど多くの事業化を望めませんが、そこに必要となるIoT機器であれば桁違いの需要があります。その新たなビジネスチャンスに通信関連企業が飛びついた結果が現在の規格乱立へとつながっているのです。

■生活を支える裏方の技術
しかし、LPWAにも欠点はあります。非常に低い出力を達成するにはそれなりに通信速度や通信距離を犠牲にする必要があり、例えば、日本が主導で策定を行っているWi-SUNでは出力を20mWに抑える一方で通信速度は50〜400kbps程度、通信距離も端末間で500m前後(実利用において)となっています。

各種センサーから得られる小さなデータはメッシュ状にエリア配置した機器からゲートウェイ機器を通してLTEのような高速・広域通信網へ伝送する、というのがLPWAの一般的な使い方であり、それ単体(LPWAのみ)で情報伝達を完結させるものではないのも各規格に共通する仕様(利用方法)です。いわゆる「ラストワンマイル」的な使い方に適しているということです。

これらの特徴からLPWAがコンシューマ向けに展開される可能性はほぼありません。もっとも一般消費者に近い存在になりそうなのは水道メーターや電気メーターに組み込まれるLPWA機器ですが、しかしその情報がそのままユーザーに届くわけではなく、一度電力会社や水道局に送られ、各料金の請求や利用方法のアドバイスとしてスマホなどにお知らせが届く、といった使われ方になります。


中部電力ではLINEの法人向けサービス「通知メッセージ」を活用し、IoT機器によって自動取得した電気利用状況や料金請求を顧客のスマホへ通知するサービスを開始している。こういった機器の通信モジュールがLPWAに置き換わる可能性は高い


このようにLPWAは人々の生活を支える非常に重要な基幹技術でありながらも、その存在は表には決して現れない裏方の技術と言えます。ワイヤレスジャパンやJapan IT Weekといった日本有数の通信技術関連の展示会ではこういったLPWAを活用したIoT機器を展示する企業が所狭しと並びますが、そのほとんどはBtoBソリューションが中心で一般に小売する目的のLPWA機器を目にすることはほぼありません。

世間では人々の生活を豊かにする無線通信技術としてBluetoothやNFC、そして5Gといった言葉が華々しく飛び交っていますが、それら以上に人々の生活に密着し、スマホで手に入る情報の基礎を支えているものの中心が今後LPWAに置き換わっていくのかもしれないということを、知っておくのも悪くないかもしれません。


人々の生活をサポートする情報がLPWAによって伝達される時代が来る


記事執筆:秋吉 健


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