中国で販売されているバーモントカレー。日本のものより黄色味が強い。

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ハウス食品が海外事業を加速させている。2012年から国際事業を拡大し、米国の豆腐市場ではトップブランドに食い込んだ。現在は中国で、同社が得意とするカレーを「国民食」にすることを目論む。「海外売上高比率20%、利益率30%」という目標に向けて猛進する広浦康勝専務(国際事業担当)に、これまでのキャリアと今後の戦略を聞いた――。

※本稿は、2017年11月20日に行われた和歌山県出身の若手ビジネスパーソン向け講演会「わかやま未来会議」の講演抄録です。

■仕事は最初の3年間が肝心

仕事は最初の3年が非常に大切です。仕事とは何か、自分はどの柱で勝負するのかを確立する3年だからです。私の場合は1年目に、その後のキャリアを決定づけるような経験がありました。

私は1978年にエンジニアとしてハウス食品に入社しました。初年度、大和郡山市の工場で、機械設備の保全に当たっていました。簡単にプリンができるプリンの素をつくる工場です。あるとき、お客様から「別添のカラメル袋のシールが付いていない」というクレームが入りました。調べて機械の構造上の問題であることを突き止め、そこを改善したのです。

そのとき上司から「仕事をしたな」と言われ、私は仕事をするとはどういうことかが腑に落ちたのです。この貴重な経験を入社1年目にできたのが、その後のキャリアに大きく影響したと思います。

入社後3年間という目安のほか、人事異動や結婚、子どもが生まれるといったライフイベントなどの変化点は、一皮むけるチャンスです。これらの変化点から6カ月間が勝負と心得てほしい。私は新しくマネジャーになった人に、6カ月間経ったら振り返って仕事上の課題や方向性を確認するように指示しています。

■海外売上比率は、5年で2倍に

エンジニアとしては約15年のキャリアを積み、続けてマーケターとして約13年過ごした後、ボードメンバー入りしました。それから今までの約11年間で、マーケティング本部長、国際事業本部長、R&D統括、経営企画・品質保証担当を経験しています。

今日は私が携わった事業分野の中でも主に海外事業、なかでも中国カレー事業についてお話します。国内の食品市場が成熟する中、海外での成長を加速させることは社としての方針であり、2012年度開始の第4次中期計画からその方針は一層強くなっています。

現在、当社の海外売上構成比は11%ほど。為替の助けもあって、ここ5年で2倍になりました。海外の生活ニーズ、食ニーズを理解しながら事業を展開しています。

中国やアセアン諸国は子どもの成長や家族の幸せを重んじるカルチャーに加え、食の多様化が始まっており、私たちが日本で築いたノウハウが水平展開できるだろうと考えています。そしてカレーやビタミンなどをキーに展開しています。

一方、成熟エリアであるアメリカでは、日本のノウハウがそのままでは通じないと感じています。生活文化が進展し、健康志向や食の外部化が進んでいます。現地の食ニーズに合ったものを発見していく必要があります。具体的には豆腐や大豆関連の商品を投入しています。

■ケタ違いの発想の大きさに驚く

当社が中国事業に着手したのは約20年前です。カレーレストランの展開やレトルトカレーの輸出を通じて、中国にはカレーを受け入れる市場が存在すると手ごたえを感じました。2005年からはルウカレーを投入し、本格的な中国市場開拓に乗り出しました。

現地でのスローガンは「カレーライスを中国人民食に」というもの。「可能性があるから見に来てほしい」と言われ、私も2〜3カ月に1回は中国を訪れました。小売店の店頭販売を見に行くと、目の前で2個3個とまとめて買って帰る人もいて、1日で何百個という異常値が生まれていく。中国市場の大きな可能性を感じました。

この勢いを見て、ここを変曲点にしなければいけないという強い思いを持ったものです。中国で新しい食文化を創造するのですから、時間も投資もかかります。このとき、会社全体でその覚悟を決めることができたことが、これからの発展につながって行くと思います。

中国に出て驚いたのが発想の大きさです。私たちが事業規模を50億円で考えているところ、中国の人たちは500億円で考えています。中国人の考える規模、スピードに負けないようにしなければなりません。

■カレー普及のカギは幼少期の感動体験

中国事業では家庭用、業務用、レストランの3分野でバランスよく伸ばしていきたいと思っています。カレーの味は変えるべきところと、変えてはいけないところを明確にしました。中国人が好む八角をプラスしたり、日本よりも黄色くしたりといった面は変えた部分です。

色について、日本人は茶色のほうがおいしいと感じますが、中国人は黄色のほうがおいしいと言います。実は昔、日本のルウカレーも黄色だったのですが、年々茶色に変わっていきました。

変えていないところは、ライスにかけてとろみを感じ、具がしっかりと入っていて子どもが食べられる味、というバーモントカレーの基本部分です。

中国市場にカレーが根付くために一番大切なのは、幼少期からのアプローチだと考えています。子どものころにカレーを「おいしい!」と思った感動体験が、成長してからも食卓のメニューにカレーを選択する行動につながります。ですから学校の工場見学の受け入れ等も、積極的に行っていきたいと思っています。

この中国でのカレー事業もそうですが、ビジネスマンにとって「リーダーシップ」と「コミュニケーション」の力をつけることが重要です。そのためには、しっかりと相手を理解するとともに、自分を知ることがそのベースとなります。若い人たちにはそういう力を付けて「仕事をして」ほしいと思います。

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広浦康勝(ひろうら・やすかつ)
ハウス食品グループ本社 専務取締役
1955年、和歌山県生まれ。78年、ハウス食品入社。生産部門(工場、生産統轄室)を経て93年、マーケティング部門へ異動。2002年、調味食品部長、04年、執行役員、06年、取締役マーケティング本部長。13年ハウス食品グループ本社株式会社 専務取締役。16年より専務取締役 R&D統括、国際事業本部・品質保証部担当。

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(ハウス食品グループ本社 専務取締役 広浦 康勝 構成=Top Communication 撮影=向井 渉)