17年12月に女性宮司が殺傷される事件が起こった富岡八幡宮にも初詣客が訪れた。(時事通信フォト=写真)

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■「贅沢三昧」が可能になる3つの理由

2017年12月、富岡八幡宮の宮司が殺害された事件は記憶に新しい。

背景に宮司の座をめぐる争いがあったという見方が有力だが、宮司は豪勢な洋館に住み、弟の前宮司も銀座のクラブで豪遊していた。「宮司はそんなに儲かるのか」と驚いた人も多かったはずだ。

このような宗教者は例外的だとはいえ、なぜ贅沢が可能だったのだろうか。理由は主に3つ考えられる。

1点目は、神社に限らず、宗教法人は法人税が原則的に非課税となっているからだ。

たとえばおみくじの頒布や祈祷料には税金がかからない。富岡八幡宮には事件前、正月三が日に約15万人が参拝したというが、そのお賽銭はすべて非課税だ。そして非課税措置は、公私を曖昧にする危険性を常に孕んでいる。

「お賽銭を個人のポケットに入れたら本来は横領です。もちろん、抜いた分には所得税がかかります。しかし、お賽銭はもともと非課税。信教の自由との関係もあって、税務署は積極的にチェックしません」(現役僧侶であり税理士でもある上田二郎氏)。

言うまでもなく、非課税措置の前提となっているのは、宗教者の高い“倫理観”だということだ。

2点目の理由は、宗教法人が行う収益事業の存在だ。宗教法人の多くは宗教活動(非収益事業)のほかに収益事業を行っている。敷地の一部を駐車場やマンションにして貸したり、縁日で露店に場所を貸すのは収益事業で、こちらには税金がかかる。

しかし、宗教活動と収益事業の境目は必ずしも明確ではない。

「土産物屋と同じお守りを境内で売るのは収益事業ですが、住職が手書きした梵字を入れるなどして頒布すれば、宗教活動となり非課税になる。原則的に民間企業と競合する事業は課税ですが、グレーな部分はどうしても残ります」

加えて、収益事業で生じた所得の20%は宗教活動に寄附できる制度もある。富岡八幡宮は古くからの大地主だが、このように不動産収入などの収益基盤がしっかりしている宗教法人は、財政面で有利だ。

■大規模宗教法人の優遇税制は必要か

3点目は、宗教法人を監視する「第三者」が存在しないことだ。宗教法人の場合、3人以上の責任役員で構成される役員会で議決さえすれば、代表役員に高い給料を支払ったり、実質的に世襲のように宮司や住職の地位を引き継ぐことが可能になる。中小企業のオーナー社長が報酬を実質的に自分で決められるのと同じ構造だが、これも公私を曖昧にする原因となる。

しかし上田氏によれば、放漫な宗教法人は数のうえではごく一部だという。

「お寺と比べて『お葬式』が少ない神社は財政面で苦しく、1人の宮司が複数の神社を兼務することも普通です。お葬式の簡略化が進めば、お寺も今後は苦しくなる。そうした弱小の寺社にとって、非課税制度は命綱です」

真面目に運営されている小さな寺社もたくさんあることを考慮すべきだろう。

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=僧侶・税理士 上田二郎 写真=時事通信フォト)