ビジネス書作家・営業コンサルタント 和田裕美氏

写真拡大

だれにとっても時間は平等にある。だが成果を残す人は、その使い方が違う。そして違いが出るのは、平日ではなく休日だ。トップ営業マンは休日をどう活用して、まわりに差をつけてきたのか。3人の識者に6つのテーマについて聞いた。第4回のテーマは「自分の軸をつくりたい」――。(全6回)

※本稿は、「プレジデント」(2017年5月15日号)の特集「一流の人の1週間」の記事を再編集したものです。

和田さんの教え
「ワクワク」を基準にして行動する

■わがままになることで、人間の幅が広がる

私の軸は、“ワクワクしたら動く”ということです。自分の軸がわからない人も、“ワクワクしたら動く”ことを心がけてみてはいかがでしょう。迷ったら、「自分の心が躍るのはどっちだろう」と考えて、行動を選択するんです。

私はよく講演で、「500円と1300円のお弁当があって、1300円のお弁当がすごく食べたいと思ったら、迷わず買ってください」といっています。いつもお昼を500円に抑えているお父さんは、「1300円の弁当買っちゃったよ」と、蓋を開ける瞬間からワクワクして、その美味しさやお肉の厚さに感動すると思うんです。そういう体験はすごく大事。その積み重ねで人間の幅が大きく違ってくると思うんです。

人生を狂わせるほどのお金じゃない限り、時々、少しわがままになって、買ってしまっていいと思うんです。休日に買い物に行ったら、ゴルフクラブでも、靴でも、車でも、「これを買ったら自分の人生がときめく」と思うぐらいワクワクするものを買ってみる。そうすると、豊かな感性が培われ、自然と自分の軸ができてくると思うんです。「子どもの学費がかかるんだから」と奥さんにいわれていても、少しわがままになって、ときめきを取り戻してください。クラブを磨くたびに、その靴を履くたびに、車に乗るたびに、機嫌がよくなるんだから。しかめっ面でつまらなそうにしているお父さんより、家族にとっても幸せです。そういうふうに生き方を選択していたら、人生の楽しい扉が開いてくるはずです。

▼ときめきを取り戻すと、楽しい人生が開ける

川田さんの教え
自分を見つめ、心の変化を感じてみる

■苦しい時期を乗り越え、新たな軸が生まれた

私には行動を選択する基準となる3つの軸があります。1つ目は、新しいか。2つ目は、想像してワクワクするか。3つ目は、人の役に立つか、です。実は私には非常に苦しい時期がありまして、この軸はその辛い時期を乗り越えてできたものです。

私は1997年にプルデンシャル生命に入社してから、トップを目指して頑張り、5年目にトップの成績を収めることができました。その頃の私の軸は、少しでも上位になること、少しでも多く稼ぐことでした。

しかし、いざ全国約2000人の営業の中で1位になってみたら、燃え尽きたようになり、仕事への意欲を失ってしまいました。当然、翌年は順位を落としました。仕事が嫌になり、布団から出るのも辛く、アポイントのキャンセルの電話を嬉しいと感じるときもありました。

■順位に縛られるのはもう、やめよう

そんな状態を克服しようと、行ったこともないセミナーに参加してみたり、無理やり運動したりもしました。

3年後、私はもう1度トップを目指して頑張りましたが、全国2位で終わりました。そのときの失意は大きく、家族にも心配をかけ、もう、順位や報酬に縛られる生き方をやめようと心に決めました。しかし、その代わりになる軸が見つからず、しばらく辛い日々が続きました。

そんな折、私はあるセミナーで講演をする機会がありました。そこで「自分は何を軸に生きていきたいのか」を真剣に考え、先ほどの3つの軸が浮かんだのです。新しいか、想像してワクワクするか、人の役に立つか。これからは自分に得はなくても、3つの軸に当てはまったら、「はい」と答えると決めました。そして、それを実践し始めたら、いろんなことが変わってきたのです。

■新しい軸を持つことで、様々な出会いがあった

今、私は女性アシスタントを2人、自分で雇用しています。そのうちの1人は「高次脳機能障害」という知的障碍があります。以前の私であれば、障碍者を自分で雇用しようなどと思いもしなかったはずです。しかし、ある人を通じて彼女と出会ったとき、この3つの軸に当てはまることに気づきました。生保の営業として障碍者を雇用しているのを聞いたことがないから新しいし、自分がそのことをやっている姿を想像したらワクワクするし、必ず人の役に立つと思ったのです。

今、彼女は名刺のデータ入力やお礼のはがきを印刷して出すなどの仕事をしていて、本当に戦力になっています。仕事を覚えるにはとても時間がかかったし、本人ももう1人のアシスタントも苦労しました。しかし彼女がだんだんといろいろなことができるようになっていく姿を見るのは喜びでした。

あるとき彼女に「仕事どう? 楽しい?」と尋ねたら、「私、毎朝起きると、自分がシンデレラなんじゃないかと思うんです。こんな素敵なところで仕事をさせてもらえて、夢だったら醒めないでほしい」といってくれました。感動して鳥肌が立ちました。

振り返ってみると、私は彼女のおかげで、いろんな方と障碍についての話ができたり、紹介で新しいご縁ができたり、彼女から貰ったたくさんのものが私の財産になっています。この先も、彼女の活躍によって、障碍者の方や親御さんが希望を持てたり、企業の人たちが障碍者雇用をもっと積極的に考えたりという未来を想像すると、楽しくなるんです。

自分の軸は、環境の変化や自分の成長とともに変わってもいいと思います。私の場合はセミナーがきっかけでしたが、普段の仕事を離れて自分と向き合う機会を持てると、心が求めているものが変わっていることに気づきやすいかもしれませんね。

▼仕事を離れ、自分と向き合う機会を持つといい

市村さんの教え
「孝」の精神と「使命」を心に秘めよ

■休日に親孝行をすると、ブレない自分になる

自分の軸がない人は、休日に親孝行をしましょう。遠くにいる人は、親に感謝するだけでもいい。なぜなら、自分の軸をつくるうえで、「孝」の精神は欠かせないものだからです。

仏教の教えとされる「父母恩重経」というものがあります。子が父母から受けた10の恩を説いたものです。母は腹の中の子を守護し、苦しみに堪え出産し、大量の乳を飲ませる。父母は大小便を喜んで洗い流し、子どもを見守り、安全を祈る。子の苦しみを代わってあげたいと思い、世を去れば子を守護する。そうした恩の重さを感じることは自己肯定感と自信につながります。自信があれば軸はブレない。先祖は根、親は幹、自分は枝葉です。もし根や幹がしっかりしていないなら、自分の代から花を咲かせ、太い幹になり、強い根になればいい。そのためには家族を大事にすることです。私は普段は忙しく食事も外食ばかりですが、日曜日は家族で食事を取ることにしています。

自信が持てたら、自分の軸を考えてみる。自分の軸とは、「使命」のこと。使命は「命を使う」と書きます。つまり、命がけでする仕事は何かを考え、行動するということです。

「使命」とは、must, can, willが交わるところにあります。mustは、「家族を絶対に守る」といった譲れないもの。canは、何ができるのか。willは、将来どうなりたいか。夢、目標があると人は行動します。その3つが見つかれば自分の軸が定まりますよ。

▼軸を持つには、まず「自信」から

----------

市村洋文
ファーストヴィレッジ代表取締役社長。
野村證券入社後、前人未到の月間手数料収入6億円を達成。その後、KOBE証券の社長に就任し上場に導く。2007年に現在の会社設立。著書に『1億稼ぐ営業の強化書』。最新刊は仕事を効率化し人脈を驚異的に広げるメモの取り方を書いた『1億稼ぐ人の「超」メモ術』(ともにプレジデント社)。
 

川田 修
プルデンシャル生命保険エグゼクティブ・ライフプランナー。
リクルート時代、年間最優秀営業マン賞受賞。1997年プルデンシャル生命保険に入社し、2001年営業成績全国約2000人中1位となる。著書に、テクニックではなく人間力で営業をする方法を説いた『僕は明日もお客さまに会いに行く。』(ダイヤモンド社)などがある。
 

和田裕美
ビジネス書作家・営業コンサルタント。
日本ブリタニカ入社後、世界142カ国中2位の成績を収め、20代で女性初の支社長に。京都光華女子大学客員教授。幸運が舞い込む仕組みを解明した『和田塾 運をつくる授業〜あなたもぜったい「運のいい人」になれる方法がわかった!』(廣済堂出版)など著書多数。
 

----------

(ビジネスライター 嶺 竜一 撮影=和田佳久)