「先進国最低」の日本の生産性を、どのように高めればいいのでしょうか(画像:kou / PIXTA)

日本でもようやく、「生産性」の大切さが認識され始めてきた。
「生産性の向上」についてさまざまな議論が展開されているが、『新・観光立国論』(山本七平賞)で日本の観光政策に多大な影響を与えたデービッド・アトキンソン氏は、その多くが根本的に間違っているという。
34年間の集大成として「日本経済改革の本丸=生産性」に切り込んだ新刊『新・生産性立国論』を上梓したアトキンソン氏に、真の生産性革命に必要な改革を解説してもらう。

皆さんもご存じのとおり、日本ではすでに人口が減り始めています。人口が減る以上、GDPを維持するためには生産性を高めるしかありません。「GDP=人口×1人あたりの生産性」だからです。

それにはさまざまな改革が求められます。今回はその1つ、日本の企業数を大胆に減らすという改革について、考えたいと思います。

日本人は「人口減少」をなめている

その前に、まずは日本における人口減少のインパクトを改めて確認しましょう。


日本の人口の減少、特に生産年齢人口の大幅減少は、「経済の常識」を根本から変えるだけではなく、社会のあり方そのものを一変させてしまう、国にとっての一大事です。日本という国は、有史以来の未曾有の事態を迎える、スタートラインに立たされているのです。

しかしながら、この一大事に対して、当事者である日本人自身はあまり危機感を覚えているようには思えません。おそらく、人口減少が始まってしまったことは知りつつも、その規模や脅威がどれほどのものになるのか、正確に認識している人が少ないのがその理由ではないでしょうか。

そこでまず、今後の日本でどれほど人口が減ってしまうのか、その衝撃の数字を確認しましょう。

国立社会保障・人口問題研究所の2012年の推計では、2060年までに、2015年と比較して生産年齢人口が「3264万人」減ると言われています。この規模は、世界第5位の経済規模を誇るイギリスの就業人口とほぼ同じで、同じく経済規模世界第10位のカナダの総人口を上回ります。

人口減少が進んでいるのは日本だけではなく、一部の先進国でも同様です。しかし、同期間の人口減少は、ドイツで約1000万人、イタリアが約500万人、スペインは約300万人と、日本がその規模で他国を圧倒しています。


3月12日、丸善丸の内本店にて『新・生産性立国論』の刊行を記念記念した講演会を開催します。詳しくはこちら(撮影:今井康一)

つまり、これから数十年間にわたり、日本だけが他の先進諸国とはまったく違う経済環境に置かれ、どこよりも厳しい経済対策を強いられることになるのです。

マスコミなどを見ていると、移民を迎えたりロボットを導入することで、人口減少に対応できるというコメントをよく見ます。ここからも、多くの人は人口減少をただの言葉としてとらえており、その規模と意義を正しく把握しておらず、「のほほん」としている印象を受けます。

人口と経済には関係がないなど、とぼけたことを言う人すらいますが、今現在の先進国の経済規模ランキングは完全に人口ランキングを反映しているので、その指摘はまったくの誤りです。人口が減ることで消費者が減り、需要が減少して、需給バランスが崩れる傾向が強くなります。

そこで、やはり需給の調整が必要となります。

人口が増えて、企業数も増加した

これから数十年、日本の人口が減ってしまうのは、もはや避けがたい現実です。経済への打撃も、社会へ変革を迫る圧力が高まることも抗いがたい事実です。

しかし、これからの日本経済は、実は生産性が上がりやすい環境となります。なぜなら、人口の極端な減少によって経済が激変するからです。ただしこの状況を生かすも殺すも、経営戦略と国の政策次第です。

すでにその流れができ始めていますが、経営者は進んでM&A相手を探すべきです。かつて21行あった大手銀行が今は3行まで減ったように、ドラスティックな変革が求められます。政府が実施するべき政策はいくつかあるのですが、まずは「企業の数を削減」することが非常に重要です。私は、日本企業の数は今の半分まで減るべきだと考えています。

先進国の例をみると、企業数と人口の間には一定の相関が認められます。日本でも、戦後、人口が他国に類をみないスピードで増加するのに伴い、企業の数も大きく増えました。


しかし、先ほど説明したとおり、日本ではこれから数十年にわたって、生産年齢人口が他の先進国を大きく上回るスピードで減っていきます。それに伴い需要も大幅に減ります。人口の増加に伴って増加した企業の数は、人口が減るのであれば、それに伴い減少すべきなのは当然のことです。

要するに、消費者が減っているのですから、十分に企業数と供給量を減らさないと供給過剰となり、過当競争になって、デフレに拍車をかける結果になるのです。

企業の数を減らすべきもう1つの理由は、日本で長年にわたり低下し続けてきた、日本企業の経済合理性にあります。


日本経済が最も輝いていた高度経済成長の時期には、日本の1企業あたりの社員数は25人でした。しかし、1964年をピークにその数は減り始め、1985年には13人程度まで減りました。その後回復基調にはあるものの、いまだに16人程度の水準です。

1964年以降に増えた企業は、主に従業員数10人未満の企業でした。日本企業をみると、企業の規模が大きくなればなるほど社員の平均給与が増えますので、給与の低い企業を中心に企業数が増えたことになります。規模の経済が働かない企業が増えて、企業の経済合理性が継続的に低下していたことがわかります。

人口が増えている間は、この件がクローズアップされることも、経済への悪影響が表面化することもなかったのですが、人口の伸びが止まり、逆に人口減少が始まって以降は、しだいにその問題が顕在化し、デフレ問題、格差問題という形で現れています

人口がこのまま減り続け、1社あたりの平均人数が2060年に25人になると仮定すると、今現在の約352万社から、なんと約131万社まで減る計算になります。机上の計算ではありますが、実に約221万社の減少です。

新卒は3.6年に1人しか採れなくなる

ただし、今回この本のために分析をしていると、新発見がありました。それは、人口減少に呼応する形で、近年、経済の自動調整がすでに始まっているということです。

幸いなことに、企業数は減っており、特に生産性の低いところから静かに減っているのです。企業数全体は、1995年の389万社から、2015年には352万社まで減りました。1社あたりの社員数も増えており、全体で見ればいい方向に進んでいると評価できます。特に、給与が最も少ない、従業員10人未満の企業の数が最も減っているのは安心材料です。

給料が少ない企業の存続が今後ますます難しくなるのは、生まれてくる子どもの数と企業の関係を見ればわかります。1958年には企業1社に対して、日本では3.1人の子どもが生まれました。これは、将来的に企業は1社あたり平均して年に3.1人の新卒者を雇うことができたことを意味しています。

一方、2015年には1企業あたりの出生数が0.28人まで減っていますので、将来的に新卒者を雇いたくても、企業は平均して3.6年に1人しか雇うことができません

今後、人口が減れば減るほど、企業は採用に苦しむこととなります。これでは企業数を維持しようとしても、無理なのは一目瞭然でしょう。

では「中途を雇え」と思われるかもしれませんが、1企業あたりの生産年齢人口を見れば、それも難しいことがわかります。


1975年には、1企業あたりの生産年齢人口は37.7人でした。今後、企業数が減らないと仮定すると、2060年には、この数が12.7人まで減ります。逆に、1企業あたりの生産年齢人口が変わらないと仮定して2050年の企業数を計算すると、約204万社。つまり、2050年までに148万社減少する計算になります。

一方で、生産年齢人口の減少に伴う労働力不足を補う方法として、ロボットとAIの活用を挙げる議論をよく耳にします。政府も「AIを使って生産性改革を」という呼びかけを盛んに行っています。その裏には、企業数を維持しようとする魂胆のようなものが透けて見えます。

たしかに、人口が減り、労働者が減る分の仕事を補填するために、ロボットに代わりをやってもらったり、AIを使って工程を効率化したりすれば、労働人口の減少には対応できるかもしれません。そうすれば、企業数を守ることもできるかもしれません。

しかし、日本では人口減少に伴い需要自体が減るので、せっかく作っても買う人がいなくなります。供給過剰分をすべて輸出できると考えるのはあまりに楽観的すぎるので、結局、日本の企業の数は減ってしかるべきなのです。

くだらない例で言えば、散髪をする人間が減っても、ロボットにやってもらえば美容室の数を守ることはできるかもしれません。しかし人口が減る中で、誰の髪の毛を切るのでしょうか。日本人が消費しなくなる分を輸出することができなければ、過当競争になるだけです。

後継者のいない小さい企業はどんどん統合すべき

一方、日本には後継者に悩む企業が少なくありません。2017年に経済産業省が発表したデータによると、2025年には6割以上の中小企業の経営者が70歳を超え、そのうち、今の段階で後継者が決まっていない会社が127万社あるとのことです。

先ほど、1企業あたりの生産年齢人口が変わらないと仮定すると、2050年までに148万社減少すると申し上げました。後継者がいない中小企業の数がこの数値に近いことは、経済の自動調整機能のすばらしさを物語っているように思います。

経済産業省は後継者不足を危機的な課題として考えているようですが、私に言わせれば、このようにたくさんの企業で後継者が不足しているのは、日本経済にとって大変ラッキーなことです。

日本では企業の規模が小さければ小さいほど生産性が低いのが現実で、これら企業の存在が全体の生産性を引き下げる結果を招いているのは間違いのない事実です。

実際、日本の労働者1人あたりの生産性は、先進国中最下位。日本では決して働き者が多いとは思われていない、スペインやイタリアよりも下なのです。あのギリシャより、3%高い程度です。

後継者に困っている企業の中には、規模が小さく、生産性の低い会社も多数含まれています。生産性が高い企業なら小さくても儲かるのですから、後継者に困る確率は減るはずです。

このように生産性の低い、小さい企業は、無理に後継者を探して事業を継続すべきではありません。別の企業に統合してもらい、規模を大きくして生産性を高めるべきです。

ここで決まって、「生産性がすべてじゃない」「GDPを維持しなくてもいいのでは」と言われますが、その考え方は甘いと言わざるをえません。

今後の日本で減るのは、0〜14歳の若年人口と15〜64歳の生産年齢人口だけです。高齢者は減りませんので、当然、医療費や年金の負担は減りません。また、人口が減っても、国の借金は減ったりしません

社会保障の維持と国の借金を考えれば、GDPを減らすことが日本にとって自殺行為なのは明らかでしょう。

今の状態に陥っているのは、一言で言えば経済合理性を無視してきた結果です。人口が減れば、日本人も「日本型資本主義」「日本的経営」「公益資本主義」などという、人口激増が可能にした妄想を捨てるしかないのです。

企業数を減らすための意識改革

人口が増えていたころの名残なのか、日本政府は、いや日本人全体が、国内の企業の数が多いことを好ましいと考えています。特に中小企業が好きなようで、中小企業の数がちょっとでも減ったり、倒産や廃業が増えたりすると大騒ぎになります。

しかし、やっと生産性の低い企業の整理を進めるチャンスが訪れたのですから、政府はその動きを邪魔するべきではありません喜んで生産性の低い企業から削減するよう、励んでほしいと思います。

企業統合を促進する政策を打って、規模の経済を追求する体制を作るメリットは非常に大きいです。特に、これから一部余る供給を海外に輸出する必要が生まれていますが、10人未満の企業にはかなり厳しいと思います。

また、ITなどは特効薬にならないにしても、これからは人があふれていた時代から人が貴重な時代になりますので、ITを本格的に活用する必要があります。IT投資を生かすにも一定の規模が必要ですので、やはり企業統合を促進することが求められるのです。

次回はさらに、この統合政策の必要性の理由をご説明したいと思います。