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●Mixed Realityで国宝を「体験」

hakuhodo-VRARと京都・建仁寺が、国宝「風神雷神図屏風」を題材に、Mixed Reality(複合現実・MR)を活用した「MRミュージアム in 京都」を開催中だ。建仁寺と京都国立博物館において期間限定で2018年2月22日から一般公開される。

「hakuhodo-VRAR」は博報堂と株式会社博報堂プロダクツによる VR・ARの最先端技術を有する専門ファクトリーだが、同ファクトリーが大本山建仁寺(京都市東山区)と2017年7月より推進している、Mixed Reality技術を使って「体験する」ことをテーマにした共同研究を、日本マイクロソフトは技術的な側面から支援している。

この研究の最初の成果となるのが、今回のMRコンテンツ「MRミュージアム in 京都」だ。このコンテンツは、体験者が日本人なら誰もが知っているであろう国宝「風神雷神図屏風」の前で「Microsoft HoloLens」を着用し、「風神雷神図屏風」の実物(複製)と3Dグラフィックが融合したMRの世界を体験できる。コンテンツは約10分間で、案内役として「風神雷神図屏風」を熟知する建仁寺の僧侶が登場する。

○後世の「風神雷神図屏風」と本物を見比べる

20畳くらいの暗い部屋に置かれた屏風を照らす照明。左右の壁には独特の模様が描かれたパネルが貼られ位置を認識するためのマーカーとして使われる。模様は左壁が光琳時代、抱一時代のら琳派模様になっているという凝りようだ。

さらに音と灯りは別制御となっている。6個のスピーカーと定常照明、カミナリを表現するストロボなどがあり、これを2台のノートPCでコントロール、音や光を演出する。2人一組がそれぞれHoloLensをつけるが、その2台がシンクロして体験を共有できるようになっている。

「MRミュージアム in 京都」のために、マイクロソフトのMR専用3D撮影スタジオである「Microsoft Mixed Reality Capture Studios」が、日本のプロジェクトとして初めて使われた。マイクロソフト米国本社の同スタジオを訪れて3D撮影された僧侶が、俵屋宗達の制作意図や作品に込 められた願いを体験者に解説する。

また、風神雷神図屏風の作者である俵屋宗達に影響されて後世になって描かれた、尾形光琳や酒井抱一ら琳派による別の「風神雷神図屏風」作品なども3Dグラフィックで現れ、実際に見比べられるなどMRならではの体験ができる。

●絵に込められた想いを知るきっかけに

マイクロソフトのミッションは、あらゆる企業や個人がより多くのことができるように貢献すること、だという。日本マイクロソフト 執行役員常務 パートナー事業本部長 高橋美波氏は、今回の博報堂とのプロジェクトについて、教育の現場に新しい体験を持ち込み、教育の価値を高めることができそうだと語る。HoloLensのようなデバイスの活用で、創造、学習の世界に何かをもたらし、テクノロジーとアート、クリエイティビティをつなぐものとして受け入れてほしいとした。

また、hakuhodo-VRARの須田和博氏(博報堂エグゼクティブ クリエイティブ・ディレクター)は、ただ絵を見るだけではなく、なんとなくでも"感じてもらうこと"をめざし「こういう想いでこの絵が描かれたといったことを知ってもらうきっかけになれば」と語った。

○リアルな屏風をリアルに見て欲しい

もっとも、教育という言い方をするがHoloLensは13歳以下は使えないというルールがある(一般的なVR・ARヘッドセットもそうだ)。そういう意味では、大人の文化財鑑賞教材といった意味合いが強い。

須田氏はVRでなくMRなのは、リアルな屏風をリアルに見て欲しいからだという。しかも、風と雷は空間表現に適してそうだ。HoloLensが登場する以前に、VRで歴史観光をアップデートできないかと考えていたそうだが、VRでは実際にその場所に来ていることに意味が見出せない。たまたま1年前にHoloLensとの出会いがあって、本物の空間でできそうだという側面に注目して今回のプロジェクトにつながったという。

HoloLensは空間そのものでありフレームがないのが特徴。「広告屋はフレームの中にあるものを作るのは慣れているが、それができないところが難しかった」と須田氏。仮想現実、複合現実の世界はまだ未知の領域で、"街頭テレビで力道山"の段階だという。ここからノウハウをためていきたいと、いきさつを説明した。

●文化財をHoloLensで見るということ

一般公開の前日に建仁寺で開催された記者会見には関係各氏が出席し、それぞれの立場からHoloLensへの期待を語った。

臨済宗建仁寺派宗務総長 川本博明師は「風神雷神図屏風は日本の工芸品の国宝第一号。モチーフのおもしろさもあって選ばれたのだろうが、この建仁寺を発表の場にしてもらい、ありがたく思う。この事業を展開されるにあたって、まったくの素人として、生意気なことをいえば、これからの技術なんだろうなという気がしたが、進化すればもっとおもしろくなりそうだ」とコメントした。

日本マイクロソフト社長の平野拓也氏は「テクノロジーの世界も、過去においては一人一日ひとつのデバイスを使っていればいいほうだった。だが世界はインテリジェントクラウドの時代となり、インテリジェントなデバイスの時代になった。このふたつがあわさることで生活、ビジネス、芸術がどんどんデジタルトランスフォーメーションしていく」とコメント。

また、「物理世界とデジタル世界があって、これらを融合したらどうなるか。それがMRということ。リアルもデジタルも分け隔てなくひとつの空間になる。デジタルを現実にまぜることで制約がとりはらわれる。今後もこうしたプロジェクトを継続的に支援していきたい」とした。

○美術館では作品の持つ背景にまで到達できない

また、京都国立博物館館長の佐々木丞平氏は「こういう体験は今後ものすごく大きな発展が期待できるのではないかと強く感じた。普段は、建仁寺が所有の屏風絵を預かっているが、本来なら、こういう寺の独特の空間の中で多くの人たちに鑑賞してもらうべきもの。でも今の時代はちょっとそれが難しい。だから博物館の中で見てもらうときは新しい入れもの、新しい照明のもとで見てもらうことになる」と話す。

一方で「でも今回のような試みで、俵屋宗達はこういう見られ方を想定してこの絵を描いたんだろうなと改めて思った」ともコメント。「文化財には本来置かれるべき場所があるはずで、博物館にとってもこれから鑑賞の在り方がずいぶん変わっていくだろうなと実感している。本来、作品には必ず背景がある。ところが美術館に持ってきたとたんにそれがなくなる。作品を見ているだけの世界ではそういうところに到達することはできない。でも、こんなデバイスがあれば違う。だからこそ期待している」とこのプロジェクトへの期待を語った。

「MRミュージアム in 京都」は、建仁寺と京都国立博物館にて以下の日程で一般公開されている。予約などは受け付けていないが、出掛けてみればきっと貴重な体験ができるだろう。

【建仁寺】

日時:2018年2月22日(木)〜 2月24日(土)10:00〜16:00

場所:建仁寺本坊(京都市東山区大和大路通四条下る小松町)

URL:http://kenninji.jp/info/index.html

【京都国立博物館】

日時:2018年2月28日(水)〜3月2日(金)11:00〜17:00(最終日のみ11:00〜13:00)

場所:京都国立博物館(京都市東山区茶屋町527)

URL:http://www.kyohaku.go.jp/jp/riyou/access/index.html

一般公開は当日現地での受付となる。詳細については公式サイトを参照してほしい。