by will_cyclist

冬は通勤や通学に自転車を使っている人にとってつらい季節です。ハンドルを握る手や耳が冷たい外気に触れて痛くなったり、夜中に氷が張るほど寒い日の朝はスリップしやすくなったりします。また、日常的に自転車に乗る人の一部には「寒くなると明らかに自転車が進みにくくなる」と主張する人もいるとのことで、なぜそんな現象が起こるのかについて、ロードバイクに関するニュースやコラムを取り扱うCyclistが説明しています。

Why do we ride slower in the cold? | Cyclist

http://www.cyclist.co.uk/in-depth/1153/why-do-we-ride-slower-in-the-cold

まず注目すべきなのは自転車のエンジンである「人間」です。カーディフ・メトロポリタン大学で生体工学を研究するJames Pearson博士によると、たとえ外が寒くても運動を始めるとすぐに筋肉は収縮して体温が上がりますが、同時に人間の体は血管を収縮させて体温が外に逃げるのを防ごうとします。そのため、運動を開始した直後はヒートアップした筋肉を適度に冷ますことが逆に難しくなり、疲労がたまりやすくなるとのこと。また冷たい空気をいきなり肺にいれても十分に取り込むことができず、酸素の吸収効率が落ちてしまいます。



by Elvert Barnes

しかし、Pearson博士によると、少しずつ体が外気温になれてくると筋肉もクールダウンできるようになり、酸素も効率的に取り込むことができるようになるとのこと。つまり「単に寒いと運動のパフォーマンスが落ちる」とは一概に言えません。

次に注目すべきポイントは「タイヤのゴム」です。実はタイヤのゴムの柔軟性が高いほど道路に対するタイヤの転がり抵抗は少なくなり、逆にタイヤのゴムが硬くなると転がり抵抗は増加します。ゴムの柔軟性は温度によっても変化するため、外気温が低くなるとゴムが硬くなり、転がり抵抗が増加して走りにくくなるといえます。

Specialized社でタイヤの生産管理に携わっているWolf VormWalde氏によると、温度が8度変わると転がり抵抗はおよそ5%ほど変化したそうです。転がり抵抗が自転車が受ける全抵抗の10〜20%だとしても、8度の温度変化で全抵抗の1%未満に収まる計算になります。さらに合成ゴムを素材にした新しいタイヤは温度による転がり抵抗の変化が極力小さくなるように作られているとのことで、転がり抵抗が自転車に与える影響はあまり大きくなさそうです。



by Richard Masoner / Cyclelicious

そして、自転車に対して生理現象や転がり抵抗よりも大きな影響を与えるのが「空気抵抗」です。人間が自転車に乗って速度を出すことで空気と衝突し続けることとなるため、抵抗を受けます。空気抵抗は「空気密度」×「前面投影面積」×「抗力係数」×「速度の二乗」÷2で求めることができます。

例えば気温28度の時と気温10度の時で自転車が受ける抵抗を比べます。「同じ人」が「同じ自転車」に「同じ速度」で乗る場合、前面投影面積・抗力係数・速度は同じですが、気温が変わると空気密度が変わるため、空気抵抗も計算上では変化します。空気密度には温度だけではなく気圧も関わってきますが、同じ気圧条件下と仮定して空気密度を計算すると、気温10度は気温28度よりも5〜6%ほど空気密度が増える計算になります。これは「気温10度の空気抵抗も気温28度より6%増加する」ということを意味します。



by Michael J. Slezak (JW)

また、寒くなって厚着をした状態で自転車に乗ると、前面投影面積は夏よりも大きくなりやすく、より空気抵抗を大きく受けることになってしまいます。空気抵抗は自転車が受ける抵抗全体の70〜90%を占めるため、空気抵抗の増加が与える影響は大きく、体感的には時速1〜2kmほどのスピードダウンが見られるとのことです。

気温が低いと自転車の転がり抵抗と空気抵抗が増すため、冬は比較的自転車は確実に進みにくくなっていると科学的な根拠に基づいて主張できます。しかし、今までこの事実があまり大きく取り沙汰されてこなかったのは、そもそもみんなは外が寒いのに自転車で走ることにあまり興味がないからだろう、と記事では結論づけられています。



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