30代の独身女性で仕事もしっかり、生活も堅実なのに貯金ができない。実は「優等生」ほど、悩みを抱えこむケースが少なくない(写真:zon/PIXTA)

今回、私たちファイナンシャル・プランナーの事務所に「おカネの相談」に来たのは、38歳の独身女性E子さん。E子さんは、大手メーカーに勤務する正社員で、年収は500万円程度です。清楚な外見で、お話をしていても「しっかり者」という印象のE子さんでしたが、悩みは意外にも「まったく貯蓄ができない」というものでした……。いったい何が原因だったのでしょうか?

さっそく読者の皆さんと考えていきたいと思います。

基本は3食自炊。なのに貯蓄できない原因は…

E子さんのお話を聞いてみると、途中までは「第一印象」のとおり、まさに「しっかり者」でした。ほとんど外食はせず、基本は「3食自炊」。衣料品などの買い物もネットショッピングを利用して安く購入しているとのこと。無駄遣いもほとんどせずに堅実に暮らしているようでした。それなのに、意外なことに貯蓄がまったくできず、月によっては、なんと貯蓄を取り崩しているというのです。

「こんなに堅実に暮らしているのに不思議!」と思い、さらにお話を聞いてみると、「離れて暮らす母からのおカネの無心がすごいんです……」とのこと。

聞けば、地方で暮らすE子さんのご両親は、ともに団塊の世代である70歳で年金暮らし。普通に生活はできているものの、住宅ローンも残っており、両親の年金だけでは、生活にゆとりはありません。さすがに「ご両親だって、貯蓄はそれなりにあるのでは?」と思いきや、母親の派手な性格が災いして、貯蓄も数百万円程度しかないそうです。

母親は、父が現役で働いていた時代のぜいたくざんまいの生活が忘れられず、「お友達と旅行に行くから」「家電を買い替えたいから」と、ことあるごとにE子さんに無心してくるとのことでした。両親あるいはどちらかの親がこうした要求をしてきたら、皆さんはどうしますか?

E子さんの場合、両親の住宅ローン代の一部に加えて、母親の要求に応じると、なんと少なくとも毎月10万円、多い月だと15万円程度の仕送りをすることになってしまうそうです。一方で、E子さんの毎月のお給料は手取りで30万円程度ですから、いくらE子さんが堅実に暮らしていても貯金できるはずはありません。

ここまでお読みいただいて、おそらく、ほとんどの読者の方が「病気などではないのだから、母親の要求なんて無視すればいいのに。バッカじゃないの!」と思ったのではないでしょうか。

ほとんど「マザハラ」? 優等生ゆえに「母の支配下」に

でも、それができないから相談に来ているわけです。E子さんには、2歳年上のお姉さんがいるのですが、実はこのお姉さんが自由奔放な性格で、現在も漫画家を志望していて、見習いの身。昔から、自分の好きなことに没頭し、マイペースに暮らしていたそうです。

現在は東京に住み、たまに連絡はしてくるものの、ほとんどE子さんとも両親とも交流がないとのこと。収入も少ないので当然、両親への仕送りはゼロです。

一方、E子さんは、学校の勉強もでき、学級委員も務めた優等生。それだけに小さいときから母親からの期待はものすごく、母親が引いたレールの上をただひたすら走ってきた人生だったそう。姉には関心が薄かった分、母のE子さんへの干渉や執着はものすごかったそうです。

E子さんは、母の期待に応えるべく、有名大学を卒業し、有名メーカーに就職。就職してしばらくは、地元にある支社に勤務し、自宅暮らしだったそうですが、E子さんが休みのたびに、一緒に買い物に出掛け、E子さんに洋服やバッグなどをねだる母。話題のレストランに出掛けたり、お芝居を見たり、母のぜいたくを満たすための出費がかさんでいて、自宅暮らしの恩恵はまったく受けられなかったそうです。

でも、昔から母の命令は絶対で、E子さんには、母の要求のままにおカネを出すことしか選択肢がなかったとのことでした。よくパワハラやモラハラも優等生のほうが受けやすいといわれますが、E子さんも優等生ゆえに完全に母の支配下に置かれていたのです。

実は、そんなE子さんにも、数年前に転機がありました。会社から、東京転勤を打診されたのです。母からは、地元に残って自分たちの生活の面倒を見てほしいと言われていたようですが、「母親から離れるのは今しかない!」と思い東京転勤を決意しました。

「ようやくこれで逃れられる!」と思いきや、冒頭にお伝えしたように、離れて暮らしてからも、月に10万円以上の仕送りに苦しんでいたわけです。

しかも、E子さんは、東京に転勤になってからすぐに同僚の彼ができましたが、度重なる母からのおカネの無心と、頻繁にE子さんに連絡してくる母に彼氏が嫌気をさし、別れてしまったそうです。

E子さん曰(いわ)く、「母のせいで、私の人生は台なしです。でも、母の要求は断れないんです……」。確かにこのままの生活を続けていては、貯蓄ができないどころか、貯蓄も底をついてしまいますし、何よりもE子さん自身の人生がダメになってしまいます。

1人で抱え込まずに、専門家に相談を!

E子さんのように、まじめで優等生であればあるほど、自分ですべてを背負ってしまい、頑張ってしまうのです。実は、私たちの事務所へ相談に来たのも、偶然私と共通の友人がいたからでした。この縁がなかったら、いまだに1人でずっと悩み続けていたそうです。

いくら親子といえども、ここまで複雑な問題になると、専門家に相談したり、第三者に話し合いに入ってもらったりすることなどが必要です。

これはまれなケースかもしれませんが、実はE子さんの相談を聞いて、私と数人の専門家がE子さんとお母様との間に入り、話し合いを進めたところ、こちらが拍子抜けするくらい、スムーズに話し合いができました。

正直、E子さんからの話では、「かなり手ごわい相手」だと思っていたのですが、話し合いを進めていくうえで、母親も「自分の過ち」に気がつき、「必要以上にE子さんに無心しない」と約束してくれました。

実際、その後のフォローでも、E子さんから時々連絡が来るのですが、「母から昔のような無心はなくなり、やっと貯蓄する余裕が生まれました!」とうれしいお知らせをいただきます。

おカネの相談をしていると、時として相談者の深い内面の問題にぶつかることがあります。おカネの問題は、内面の深い問題を抱えているケースが多いので、1人で抱え込まずに、専門家を頼ってみることもぜひ検討してほしいと思います。