"妻の年収"が低いほど、夫は育児をサボる

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日本は、子どもを持つ男性が育児や家事に参加する時間が、世界と比べて短いと言われる。その原因は男性の長時間労働のせいだと指摘されてきた。だが今年リクルートワークス研究所が全国4.8万人の「労働実態」を調査した結果、共働き家庭でも夫の育児家事時間は思うほど増えていなかったのだ。妻が忙しくても、育児や家事をサボる夫はいる。その背景にあるものとは――。

■長時間労働が育児家事参加の障害

2020年、1日当たり2時間30分――。政府の「働き方改革実行計画」で掲げられている、6歳未満の子どもを持つ男性の育児家事時間の数値目標だ。労働力人口が不足する中、より多くの人が就業して能力が発揮できる社会の構築が急がれている。仕事をしている女性に今後より一層の活躍を期待するのであれば、これまで妻に偏っていた育児家事の負担を、夫の参加により軽減する必要がある。

夫の育児家事時間が短い要因としては、男性の恒常的な長時間労働が指摘されている。総務省「労働力調査」(2016)によると、子育て期にあたる20代、30代の男性が過労死ラインの目安となる週60時間以上の長時間労働をしている割合は、それぞれ15.1%、15.7%にも達している。

「働き方改革実行計画」では、週60時間以上の長時間労働をする労働者の割合を2020年に5%以下にするという目標を掲げている。では、長時間労働がなくなれば、本当に夫は育児や家事に参加するのだろうか。そこで、近年増加傾向にある共働き夫婦(i)に着目し、夫の家事時間の実態や労働時間との関係を、「全国就業実態パネル調査2017」(リクルートワークス研究所)を活用して検証してみたい。

■妻が働いても、ほとんど変わらぬ夫の平日の育児家事時間

まずは、6歳未満の子どもを持つ夫の平日の育児家事時間(ii)を見てみよう(図表1)。共働きの夫の平日の育児家事時間は平均1時間36分であるのに対して、妻が専業主婦である夫の育児家事時間は平均1時間16分となっている。妻が仕事をしていても、夫の平日の育児家事時間は平均20分しか増えない。

つぎに、共働きの妻の育児家事時間をみると平均5時間43分であり、夫の平均1時間36分に比べて4時間以上も長い。このうち、正社員として働く妻の育児家事時間をみると平均5時間14分だ。妻がフルタイムだからといって育児家事時間が大きく減るわけではなさそうだ。これらの数字からは、6歳未満の子どものいる夫婦の育児や家事時間の分担が、妻の就業や働き方に関わらず、女性側に大きく依存している実態が浮かび上がる。

では、平日の長時間労働が、夫を育児家事から遠ざける大きな要因となっているのだろうか。もしそうであれば、仕事のない休日の育児家事時間は増えていてもおかしくない。ここでは、共働き夫婦の夫の休日の育児家事時間を、平日の育児家事時間との関係でみてみよう(図表2)。

■夫の休日の育児家事時間はおおむね増える傾向、ただし……

まず、夫の休日の育児家事時間は平均で4時間33分と、平日と比べて全体的に3時間ほど増えている。平日に30分未満だった夫のうち7割は休日の育児家事時間が増えている。同じように見ていくと、平日の育児家事時間と比べるとおおむね7〜9割の人は休日の育児家事時間を増やすことがわかる。ただ、ここで特徴的なのは、平日の育児家事時間が長い夫ほど、休日も育児家事時間が長くなっている関係がみえることである。

平日に30分未満だった夫の休日の育児家事時間は平均で2時間37分なのに対して、平日に4時間30分以上だった夫の休日の育児家事時間は7時間56分となっており、休日の妻の平均的な育児家事時間にも相当近づく。つまり、休日の育児家事時間は平日のそれと強く関係しているようだ。また、平日の育児家事時間が短い人ほど、増え方にばらつきがみられ、ほとんど伸びていない人の割合も高い。平日の長時間労働による疲れが、休日の育児家事時間にも影響を残しているのかもしれない。

では、今回の本題である、労働時間と夫の育児家事時間の関係をみていこう。夫の育児家事時間について、「平日から長い」「平日は短いが、休日は長い」「平日も、休日も短い」(iii)の3グループを取り出して、1週間あたりの労働時間を比較してみた(図表3)。

まず、週60時間以上の長時間労働である割合が、「平日から長い」「平日は短いが、休日は長い」「平日も、休日も短い」の順に高くなっている。ここからは夫の長時間労働が、平日だけでなく、休日の育児家事時間を短くしている傾向がわかる。また、「平日から長い」グループでは、週45時間未満である割合が高く、労働時間が短いことが、平日の育児家事の参加に影響を与えることがわかる。

ただし、疑問も残る。平日の育児家事時間が短い2つのグループを比較すると、週45時間未満である人の割合は「平日も、休日も短い」ほうが高いのだ。週労働時間が短くても、平日も、休日も、育児家事に参加しない夫がいる。労働時間だけでは、夫の育児家事時間の参加の違いを説明できそうにもない。

もしかすると、夫の育児家事時間に影響を与えるほかの要因として、共働き夫婦の妻との役割分担があるかもしれない。夫のほうが、役職が高かったり、より責任が大きい仕事をしていたりする場合は、妻がより多くの育児家事を担うという考え方だ。そこで、夫の年収を100%とした場合の妻の年収を、3つのグループで比較してみた(図表4)。

この図表からは「平日から長い」「平日短い、休日長い」「平日も、休日も短い」の順に、夫と比べて年収が低い妻の割合が高くなっていることがわかる。夫の年収に対して妻の年収が低いほど、夫は平日だけでなく、仕事のない休日も、育児家事に参加しない傾向にあることが伺える。

■働いていても、妻の年収が低いと休日の育児家事負担まで妻に偏る

共働き夫婦間で合意した上で、このように役割分担をしているのであれば、何の問題もない。しかし、明確な合意もないのに、妻に負担が多い役割分担になっていることに疑問を感じながら働いている妻も多いのではないか。「育児との両立のために、私が働き方を調整した。その結果として給与が低くなっているのに、私の収入が低いことを理由に、夫が育児や家事をやらない」

だからといって、単純に夫を責められる問題でもない。育児休業制度、短時間勤務制度、在宅勤務制度など、育児をしながら女性が働き続けるための環境は、過去に比べて、随分整ってきた。一方で、男性に対しては、社会的には制度が整ってきたとはいえ、職場では、これらの制度を利用しやすい状態には至っていないのが現実だ。その結果、妻が働き方を調整し、収入が減る。そしてそれを理由に育児家事時間の分担も妻に偏る。仕事と育児家事の多重責任を負う妻からは、仕事で挑戦しようという気力はそがれていくだろう。

■女性が働き方の調整を迫られない社会に

より多くの人が就業して能力を発揮できる社会の構築を目指すのであれば、働き続ける女性の数を増やすだけでなく、女性が働き方の調整を迫られない社会にする必要があるのではないか。例えば、労働時間でいうと、「働き方改革実行計画」が掲げる、週60時間以上の長時間労働をなくしていくというレベルを超えて、誰もが残業なく定時で帰れる社会を目指す。そうすれば、フルタイムで働いていても、残業ができないことを理由に、短時間勤務制度を選ばざるを得ない状況や、フルタイムではない働き方に変える必要性は解消される。また、これは企業にとっても無駄な残業代を無くし、生産性をあげるチャンスにもなる。

もはや、育児に限らず、時間に制限なく働ける人は今後ますます減っていく。誰もが介護を担う可能性をもち、時代の変化のなかで働き続けるために学ぶ時間をもちたいと願う。また、地域のなかで役割を発揮したいという思いが増すかもしれない。残業なしで定時に帰れることが当たり前の社会を実現することは、誰もが、それぞれの状況に応じて仕事で能力を発揮しつづけることを可能にするであろう。

また、前述の調査結果からは、労働時間が長くても、平日から育児や家事に参加している夫がいることや、妻の収入が夫と同等レベルでも、育児や家事に参加しない夫がいることもわかった。その背景についても、明らかにしていく必要があるだろう。そこには、個人の働き方の問題を超えて、社会のジェンダー観を再構築していく必要性が見えてくるのではないだろうか。

(i)本稿では、共に雇用されて働く、6歳未満の子どもをもつ夫婦に注目する。
(ii)男性の育児家事参加時間の数値目標の達成度は、総務省の「社会生活基本調査」で測定される。リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」で把握できる、育児家事参加時間は、ほかの活動をしながらの育児家事時間もカウントされるという設問の違いがあるため、「社会生活基本調査」よりは、育児家事時間が長くなる傾向がある。
(iii)「平日から長い」は、平日の育児家事時間が、数値目標である1日あたり2時間30分をすでに超えているもの、「平日は短いが、休日は長い」は、平日は平均に満たない1時間30分未満だが、休日は平均を超える4時間30分以上のもの、「平日も、休日も短い」は、平日は平均に満たない1時間30分未満であり、休日も1時間30分未満のもの。

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萩原牧子(はぎはら・まきこ)
リクルートワークス研究所主任研究員/主任アナリスト。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年4月より現職。個人を対象とした調査設計を担当し、個人の就業選択やキャリアについて、データに基づいた分析、検証を行う。労働経済学・公共経済学専攻、専門社会調査士。

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(リクルートワークス研究所主任研究員/主任アナリスト 萩原 牧子)