高学歴高収入のシングルマザーがハマりやすいワナとは?(写真:fast&slow/PIXTA)

今回、読者の皆さんにぜひお読みいただきたい「マネー相談」は、38歳のシングルマザーAさんのお話です。Aさんには6歳の娘さんが1人います。仕事はフリーの翻訳者です。

シングルマザーというと、一般的に所得が低いイメージがありますが、Aさんの月収はなんと手取り100万円。素敵な生活を送っているように見えましたが、悩みは「貯蓄がほとんどなく、なかなかおカネが貯まらない」と私たちの事務所に相談しに来たのです。「手取り月収100万円なのに、貯蓄ができない」のは、必ず理由があるはずです。早速お話をお伺いすることにしました。

高級マンション在住でも生活は地味、なのになぜ?

フリーの翻訳者とひとくちにいっても、いろいろな人がいるもの。その点、Aさんは非常に優秀で次から次へと仕事の依頼があるそうです。

お住まいは、都内超人気エリアの賃貸マンションで、賃料は月額約35万円。娘さんと2人で暮らすには、十分すぎるほどの広さです。高級外車にも乗り、一見セレブな生活を送っているように見えるAさんですが、家計を細かく拝見すると、違う意味でビックリ!

違う意味で……というのは、食費5万円、日用品1万円、美容費5000円、通信費5000円、レジャー費1万円……と、手取りで月収100万円も稼いでいる割には、かなり堅実な生活なのです。

Aさんに話しを聞いてみると、「食事はほとんど自炊、美容についても1000円カットを利用したり、ドラッグストアの求めやすい『プチプライス』の化粧品などを買ったりして、節約しています」とのこと。
 
なのに、貯蓄額を見ると100万円ほどしかありません。年収なら1200万円ほどにもなるのに、貯金ゼロにも等しいといっても過言ではないくらいです。「なぜ? なぜ? これは不思議だ……」と思ってよくよく家計を見てみたところ、ワケが判明しました。

それは、6歳の娘さんの「教育費」でした。その金額はなんと月30万円にも及んでいたのです。そもそも私立小学校に通っているため、学費が高いのですが、それだけでは30万円にはなりません。学校の授業が終わると月曜日から金曜日まで、英会話にスイミング、絵画教室、バイオリン、体操教室と、習い事ざんまい。おまけに、週末は塾通い!と、6歳の子がこなすスケジュールとは思えないほど、ギッシリ詰まっていました。

さらにAさんは仕事が忙しいこともあり、ベビーシッターを頻繁に利用。そのことも、費用がかさむ大きな要因になっていたのです。

ここまで教育費につぎこむ理由を尋ねると、Aさんはこう答えてくれました。「娘に、私が離婚したことをハンデキャップと思ってほしくない。できるかぎりの教育をして、世間から後ろ指をさされないよう立派な人間にしてあげたいんです」と。娘さんのことを心配するあまり、過剰な教育になっているようでした。

高級なマンションに住み、高級外車に乗り、教育費を惜しまないのもすべて娘さんのため。一方で見えないところは削って……。月収の6割以上が家賃と教育費で消えていくのですから、貯蓄をする余裕がないのもうなずけます……。

Aさんの老後は?おカネを3つに分けて考えてみる

子供にいい教育を与えたいと思うのが親心というものですが、子供が小さいうちから教育におカネをつぎこんでしまうと、のちのち起こるライフイベントのおカネがまったく準備できない状態になってしまいます。

もし、このままAさんがシングルのままだとすると、Aさん自身の老後資金の準備もしっかりしておく必要がありますし、Aさんに万が一のことが起きたときに備えて、貯蓄する必要もあります。

Aさんの場合もそうですが、ぜひ一度、おカネを「日々出入りするおカネ」「5年以内に使い道が決まっているおカネ」「将来のためのおカネ」の3つに分けて、それぞれにいくら必要なのかを考えてみましょう。そして、それぞれ別の口座や金融商品、方法で貯めるという仕組みをつくるとよいでしょう。3つのおカネを、1つひとつ説明していきます。

まず「日々出入りするおカネ」とは、もしもの場合に備えるおカネや日常生活費です。もしもの場合に備えて、会社員であれば生活費の3カ月分、Aさんのように個人事業主なら6カ月〜1年分は確保しておきたいところです。

次にマイホームの頭金や留学費用など、「5年以内に使い道が決まっているおカネ」は使うまでに時間はありますが、使うときに元本が割れていると困ります。ですから普通預金よりも少し利回りがよく安全性が高い定期預金や国債などに回すとよいでしょう。

最後に「将来のためのおカネ」は、使うまでに時間の余裕があるので、元本が割れるリスクはあるものの、増える可能性がある投資信託を活用したり、節税しつつおカネが貯められる制度「iDeCo」(個人型確定拠出年金)を活用するとよいでしょう。特にフリーランスの方の場合は、「iDeCo」「国民年金基金」「付加年金」「小規模企業共済」のいずれかは確実に利用したいところです。

「将来のためのおカネ」という視点で見直した

このようにおカネを3つに分けて考えると、Aさんの場合、家賃や教育費にいかにおカネをかけすぎてしまっているかがわかります。

Aさんがこの「3つのおカネの考え方」を知ってからの対応は、まさに電光石火の早業でした。

3つは「時間」と「目的」を明確にするということでもあります。Aさんは「このままではいけない」と、まず無理のないところで家賃35万円程度の今の場所から、20万円程度のマンションに引っ越しを決意。教育費も娘さんが乗り気ではないお稽古ごとを一気に減らしました。すると、もともと日常生活は質素に暮らしていたこともあり毎月20万円以上、家計にゆとりが出るようになりました。

毎月家計にゆとりができたので、貯蓄できるようになりましたが、Aさんの場合、収入が高いので、もう1つ課題がありました。

それは、「節税」です。税金を払わないということではありません。高額所得者だけに限りませんが、やはりどれくらい税金を払っているかは意識したいものです。収入が高いAさんの場合、所得税、住民税の金額が普通のサラリーマンよりは高額な税金を支払っています。

このままAさんがシングルでいる場合も考えて、まず優先して準備したいのが「老後資金」や、仕事を辞めた場合の「退職金」です。老後のおカネを、節税もしながら効率的に増やすには、「iDeCo」を活用するのがよさそうです。

iDeCoは、今年(2017年)の1月から加入対象者が大幅に拡大され、将来の自分年金作りに最適な制度として注目されている年金制度です。この制度の一番の節税メリットは、掛け金が「全額所得控除」になることです。フリーランスの場合は、毎月の掛け金の上限金額が6万8000円であり、年間では81万6000円となります。

仮に上限金額いっぱいでiDeCoに加入した場合、81万6000円が所得控除になるということです。どういうことでしょうか。Aさんの場合、所得税の税率は33%なので、所得税は約27万円安くなり、加えて住民税(一律10%)も8万1600円安くなります。

また、フリーランスのAさんは、「小規模企業共済制度」にも加入できます。これは、小規模企業(法人や個人事業)経営者の退職金代わりに設けられている共済制度です。毎月、おカネを積み立てて、事業をやめたとき、会社の場合は役員を退職したとき、廃業などにより共同経営者を退任したときなどに、通常の預金利子よりも有利な利率(2017年11月10日現在、予定利率は1%)で受け取ることができます。毎月の掛け金は1000円から7万円までの範囲内(500円単位)で自由に選択できます。

なお「小規模企業共済」は前出の「iDeCo」と併用加入できます。掛け金もそれぞれ7万円、6万8000円の限度額いっぱいまで設定可能で、両方掛け金の全額を所得控除することができます。仮に、両方限度額いっぱいまで掛けた場合、年間の掛け金の合計金額は165万6000円となります。この金額は将来のための資産として積み立てることができ、そのうえ収入から165万6000円を控除されるので、所得税・住民税が節税できます。Aさんの場合、資産を積み上げつつ、節税により家計のゆとりも生まれそうですね。

教育の「ゴール」は「子供の自立」がキーワード

私にも子供(息子)がいるので、子供にいい教育環境を与えたいと思う気持ちはよくわかります。しかし、よく教育費は「家計のブラックホール」といわれ、いくらでもかけられるのが教育費でもあるのです。家計全体のバランスを見て、「いくらかかるか」ではなく、「わが家ならいくらかけられるか」を考えてみましょう。Aさんはそれに気づいて、いろいろな見直しをしたのでした。

教育のゴールは子供が「自立できるようになること」です。過剰に与えすぎず、子供が主体的に考え行動できるようにする環境を整えることが大切です。「子供の自立」をキーワードに考えていくと、子供へのおカネの使い方も変わってくるでしょう。