今年6月に生鮮品売り場を導入した福井のゲンキー東古市店。ドラッグストアにもかかわらず、店の入り口には「野菜もお肉も毎日安い!」という看板が設置されている(写真:記者撮影)

地方の小売業で、地殻変動が起きている。ドラッグストアが異業種の食品スーパーやコンビニの領域を侵し、日常消費の中心になろうとしているのだ。

かつて繊維産業で盛えた福井県永平寺町──。古民家が並ぶ永平寺口の駅を降り、幹線道路へ5分ほど歩くと、約300坪の大型店舗が見えてくる。中堅ドラッグストア・ゲンキー東古市店の食品売り場には、冷凍食品、弁当などのほか、青果、鮮魚、精肉の生鮮品がずらりと並ぶ。

店内には250点の生鮮品が並ぶ

外観は郊外型ドラッグだが、生鮮品売り場を見ると、さながら食品スーパーだ。10〜15坪の売り場に、弁当・総菜も含めて、250点の生鮮品を展開。あくまで補完商品という位置づけだが、その価格は周囲のスーパーに、「競争環境は確実に厳しくなっている」と言わせるほどだ。


店内には生鮮品目当ての客が目立つ(写真:記者撮影)

100グラム=198円より高い牛肉は扱わないなど低価格を徹底。すべての生鮮品で周辺スーパーの特売商品と価格を合わせ、定番品は2割ほど安い価格で販売している。

近くに住む40代の女性は、「野菜が手に入るようになり、遠くのスーパーまで行かなくなった」と話す。ゲンキーは6月から生鮮品の導入を目的とした改装を順次実施。改装店舗の売り上げは3割増になったという。

「すべては来店頻度を上げるため。日用品と食品を同時に安く買えれば、時間もおカネも節約できる」(生鮮マーチャンダイジング部長の平田都芳氏)

ドラッグストアの業界規模は6兆4916億円と、2016年に百貨店と並んだ。ドラッグストアの最大の強みは、高い粗利を稼ぐ化粧品と医薬品だ。これを原資に、食品の大胆なディスカウントを行う。


JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは、「スーパー、コンビニは、両手に武器を持ったドラッグストアを素手で迎え撃つようなもの。そもそも戦う土俵が違う」と話す。

ドラッグストア業界全体では毎年400〜500店のペースで増え続け、全国の店舗数は足元で約1.9万を突破。食品スーパーから着実に客を奪い、コンビニと並ぶ小売業の勝ち組となりつつある。

業界内の競争は激化の一途

だが、業界内の出店競争は年々厳しさを増している。中でも、ゲンキーが展開する岐阜、福井、石川、愛知の4県は業界内で「関ヶ原」といわれる全国一の激戦区。石川県地盤のクスリのアオキホールディングス(HD)や愛知県地盤のスギHD、岐阜県発祥でバローHD傘下の中部薬品などが群雄割拠、それぞれの本拠地に進出している。近年は九州の雄・コスモス薬品も中部地方に進攻している。

ドラッグストアの1店当たりの商圏人口は全国平均で約1万人。それに対し、岐阜県や福井県の商圏人口は6000〜7000人台と少ない。幹線道路を車で走ると5分に1店は見掛けるほどで、その過密ぶりはコンビニに近い。

ゲンキーは2017年6月期に最高純益を更新するなど業績は一見好調だ。だが、4社の中で売上高は最小。ライバルのクスリのアオキは、生鮮品と調剤を扱う完全ワンストップ型の450坪業態を確立しつつある。

ゲンキーの藤永賢一社長は社内の会議で、「9回裏ツーアウトまで追い込まれている」と危機感をあらわにする。先手を打たなければ、いずれ同業大手に買収されるおそれもある。


その対策として来年までに既存店の改装を終えて、全店に生鮮品を導入する。売上高に占める食品構成比率は2017年6月期の56%から、65%程度まで高まる見込みだ。

こうした動きは都市部でも広がる。首都圏を中心に展開するサンドラッグは今2018年3月期に126店の改装を実施、大半の店舗で食品を強化する。コンビニを意識した小型業態の店も都市部やロードサイドに出す。

食品拡充で粗利率悪化のリスクも

業界最大手級のツルハHDは、今年9月、静岡県首位の杏林堂薬局を買収した。杏林堂は食品の比率が約45%。300〜1200坪の超大型店内で、焼きたてギョーザを売るなどスーパーのような取り組みを行う。ツルハは買収後も杏林堂に経営の裁量を残し、食品販売のノウハウを吸収する狙いだ。


当記事は「週刊東洋経済」10月14日号 <10月7日発売>からの転載記事です

ただ、弁当や生鮮品を扱うには加工センターや低温物流などへの投資が不可欠。これまで化粧品などメーカーに返品可能な商材を扱ってきたドラッグストアは、廃棄ロスのコントロールは不得手だ。食品拡充により粗利率が急激に悪化するリスクもある。

ムダを抑えた生鮮品の発注や在庫管理ができるか。ドラッグストア各社の力量が試される。