新作の「AxE」(Alliance x Empire)が順調。日本でもヒットとなるか(写真:ネクソン)

時価総額は約1.3兆円と非常に大きく、東証1部上場のゲーム会社でトップの任天堂に次いで2位につける実力企業。それがPCゲーム大手のネクソンだ。日本に本社を置きながら開発拠点を韓国に持ち、主力事業は中国におけるPCゲームという、変わった事業形態が特徴の企業だ。
ネクソンの足元の業績は絶好調。2017年1〜6月期の営業利益は中国事業の好調に加えて為替による好影響もあり、前年比228%増となる560億円を稼ぎ出した。ただ、国内では慢性的な赤字が続いており、今1〜6月期も18億円の事業赤字。海外の攻めと国内の守りをどう展開するのか。オーウェン・マホニーCEOに聞いた。

どうして超ロングヒット作を出せるのか?

――2008年に配信してから約9年が経つ中国の「アラド戦記」が今でも業績を牽引している。日本ではあまりなじみのないゲームだが、どのような魅力があるのか。

「アラド戦記」は多数のプレーヤーが同時に参加するアクションRPGで、グラフィックはシンプルながら深みのある戦闘がゲームの魅力だ。


ロングヒットの秘訣を語るマホニーCEO(撮影:梅谷秀司)

1回の戦闘で終わりではなく、どのようにキャラクターを動かしていくか、という戦略が重要なゲーム設計になっている。また、長年にわたってコンテンツを追加し続けてきたため、ゲーム内でできることがほかのゲームよりも多い。

ただし、成功の秘訣として特定の要素を挙げることは難しい。ゲームのコンテンツはマップやキャラクター、アイテムなど多様な要素が複雑に絡み合っているからだ。今後も人気を継続していくためには、ユーザーの要望をつねに聞き続け、スピード感を持ってアップデートし続けることが大切になる。

――アラド戦記以外にも2003年配信の「メイプルストーリー」、「マビノギ」などの長寿タイトルが収益を支えている。

既存ゲームを運用する大規模な専門チームを持っていることがネクソンの強みだ。そこで中国や韓国、日本のニーズを吸収し、ゲームの改善を進めている。中でも重視していることは、ゲーム内に擬似的な世界を作り出すことだ。

オンラインゲームは多くのユーザーが同じゲーム空間に集い、コミュニティの形成やアイテム売買が行われる。それに伴い、ゲーム内で経済や政治が発達し、現実と同じような世界が形成される。短期的な売り上げを追わず、ゲーム内の世界を楽しいものにすることが長期的な人気につながると考えている。

――一方、中国などでの人気とは裏腹に、日本事業は赤字が続いている。

日本は(ニンテンドースイッチやソニーのPS4など)ゲーム専用機が強く、ネクソンが得意とするPCゲーム市場がほかの地域より小さかったことが苦戦の要因だ。ただ、今年は前年同期比で増収に転じており、状況はよくなっていくと考えている。牽引役はスマートフォン向けゲームだ。


「HIT」は日本で主力となっているタイトルだ(写真:ネクソン)

スマホ端末の性能は、ここ5年でPCに匹敵する水準に向上している。ユーザーも、今までよりさらに複雑で高度なゲームを求めるようになってきた。それによって、ネクソンがPCゲームで培ってきた開発・運用能力を生かせるような環境になりつつある。

現在日本で主力となっているスマホゲームは、アクションRPGの「HIT」やガンシューティングの「HIDE AND FIRE」といった、国外で開発したゲームだが、国内での開発も強化している。2012年に買収したグループスの開発チームに加え、今年に入り開発組織も新設した。日本のセンスやスタイルを生かしたゲームを開発していきたい。

世界でヒットするものを見極め、投資する

――かつて出資していたNCSOFT社のスマホゲーム「リネージュ2 レボリューション」やBluehole StudioのPCゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」など、最近は韓国産ゲームがほかの地域でヒットするケースが目立つ。

韓国や中国など、アジア地域ではゲームの品質向上が著しい。個別の開発者を見ても、優秀な人材が次々と出てきている。韓国にグループ最大の拠点を有し、ゲームを他地域で展開しているネクソンにとっては追い風だ。


新作のダークアベンジャー3は順調な立ち上がりだ(写真:ネクソン)

ネクソンが直近に韓国でリリースしたスマホゲームの中でも、アクションRPGの「ダークアベンジャー3」、アラド戦記と同様、オンラインで多くのプレーヤーが同時に参加するRPGの「AxE」(Alliance x Empire)が非常に好調な立ち上がりを見せており、世界で成功する見込みがある。これから日本を含めて国際的に展開していきたい。

ゲームの地域別展開には3パターンある。1つは言語対応など最低限の調整で売れる場合。2つ目はグラフィックやキャラクターを現地の文化に合わせれば売れる場合。3つ目は文化の違いが大きすぎて成功させるのが難しい場合だ。開発したゲームがどのパターンに当てはまるのかを見極め、世界で通用するものには積極的に投資を行う。


マホニーCEOは米国のゲーム大手エレクトロニック・アーツで経営企画担当のバイスプレジデントを務めており、ネクソン買収を試みたが、結局断念。逆に打診を受けて2010年に入社し、2014年から社長として会社を率いることになった、珍しい経歴を持つ(撮影:梅谷秀司)

VRよりもARに期待大?

――ゲーム業界ではVR(仮想現実)が注目を浴びている。どのように見ているのか。

個人的には、VRにあまり興味がない。私自身、VRゲームを何度も試しているが、体験としてはあまりよくなかった。ゲーム開始から15分頃までは面白いが、それ以上になると快適さが大きく落ちる。

さらに、VR端末を付けていると周囲が見えないため、飲み物を飲みながらプレーできず、犬や妻が部屋に入ってきたら対応できない(笑)。ちょっとした問題かもしれないが、何時間もゲームをしようとすると必ず出てくる問題だ。

ただ、AR(拡張現実)はこれから大きく伸びると思っている。AR技術を使えば、現実の中に新たな世界を作ることができるからだ。たとえば、2016年に配信された「ポケモンGO」はAR技術を使うことで現実空間とポケモンの世界を一体化させ、世界的にヒットした。

米アップルや米マイクロソフトがAR技術の開発を積極的に進めており、近いうちによいAR端末が発売されるだろう。現在のオンラインゲームではディスプレー上に仮想の世界を作り出しているが、メガネ型のAR端末が普及すれば現実世界の中でオンラインゲームと同じ体験が可能になる。もう2〜3年もすれば面白いゲームが出てくると考えている。