2005年から06年までシドニーFCを指揮したピエール・リトバルスキー氏【写真:Getty Images】

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W杯最終予選・豪州戦目前…両国を知るリトバルスキーが指摘した“勝負の鍵”

「オーストラリアの選手たちは、日本ほど才能に恵まれているわけではない。でもとにかく成功したい、対面する相手をやっつけようという精神的なタフさを持っている」――ピエール・リトバルスキー

 現役時代に西ドイツ代表の一員として、1982年、86年、90年とワールドカップ(W杯)3大会連続の決勝進出を果たしたピエール・リトバルスキーは、93年からジェフユナイテッド市原(現・千葉)、ブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)と日本でプレーして引退したが、指導者に転身した後も多彩な経験を重ねた。オーストラリアでプロリーグが発足した2005年から06年までは、シドニーFCを指揮している。

「プロリーグができて1年目。みんなが新しいことに取り組み、選手や指導者、それに協会も含めて、みんなが必死に何かを成し遂げようと意欲に満ちていた」

 リティは、まず日本でトップチームを率いるために必要なS級ライセンスを取り、さらにドイツでも取得した。

「もし僕がイングランドで指導者をするなら、イングランドでライセンスを取得するよ。最初に日本で取得したのは、日本で仕事をしようとしたからだ。他の指導者と一緒に受講することで、日本人の性質やメンタリティーを、よく知ることができるからね。シドニーFCで仕事をする時も、オーストラリアに着いてから2週間は、あちこちをドライブして、いろんなところを見て回った」

タフなオージーとナイーブな日本人…「日本の選手たちは精神的に波がある」

 オーストラリアの選手たちを指導してみて、最も日本との違いを感じたのは、どんな時でもひたすら前向きに取り組むことだった。

「彼らには不確定要素が少なかった。良いトレーニングをすれば、必ず良い結果が得られる。オーストラリアの選手たちは、日本ほど才能に恵まれているわけではないが、毎日ハングリー精神を抱いている。とにかく成功したい、対面する相手をやっつけようという精神的なタフさを持っているんだ。それに比べると、日本の選手たちは精神的に波がある。そういう意味では、オーストラリアの方が指導し易いということが言える」

 タフなオージーと、ナイーブな日本人――。その差が表れたのが、2006年ドイツ・ワールドカップの一戦だったとみている。

「もし日本のフィジカルコンディションが100%整っていたら、自信を持ち、それが精神力を引き出してくれたかもしれない。だがそれが十分でなかったから、同点に追いつかれた瞬間に自信が崩れ、難しい状況に陥ってしまった」

 酷暑の中での一戦、日本はMF中村俊輔(現・ジュビロ磐田)の幸運なゴールで先制するが、オーストラリアを率いるフース・ヒディンク監督の巧みな采配もあり、終了間際の連続失点で1-3と逆転負けを喫した。

 明暗を分ける重要な一戦。W杯では予選、本大会を通して過去8戦、日本はオーストラリアに勝ったことがない。鍵を握るのは、日本代表選手たちの心身のコンディション作り。どれだけ万全の状態でピッチに立てるかである。

◇加部究(かべ・きわむ)

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。