「スマホ技術をPCへ」のMateBook Xが、LTEに非対応なワケ:週刊モバイル通信 石野純也
昨年、「MateBook」でPC市場にデビューを果たしたファーウェイが、その直接的な後継機にあたる「MateBook E」と、クラムシェル型のノートPC「MateBook X」を発表しました。

日本では7月7日発売予定。最小構成で価格はMateBook Eが9万2800円、MateBook Xが14万4800円です。

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2in1タイプの「MateBook E」


クラムシェル型の「MateBook X」

「テクノロジーでの差別化」を地でいくファーウェイ新PC


ファーウェイは、PCでは、スマホ以上にプレミアムカテゴリーに注力しています。「イノベーションを強化し、テクノロジーで差別化を図っていきたい」(ファーウェイ・ジャパン デバイスプレジデント 呉波(ゴ・ハ)氏)というのがその理由で、価格競争に巻き込まれるのを避ける戦略です。

バリエーションも絞り込んでおり、投入するのはこの2モデルのみ。「一見たくさんの選択肢を与えているように見えるが、逆にイノベーションに欠き、消費者の購買意欲を削ぐことになる」ため、あえて特徴のある製品だけを市場に投入しています。


PC分野での戦略を語る、ファーウェイ・ジャパンの呉波氏

特にMateBook Xは、他のPCにはない、さまざまな特徴を備えています。

呉波氏によると、主なセールスポイントは5つ。A4用紙より小さなボディ、ワンタッチでログインできる電源キーと一体型の指紋センサー、狭額縁なディスプレイ、ファンレス機構、長時間駆動がそれです。

「このうちのいくつかは、業界初のもの」(同)と語るように、テクノロジーでの差別化を地でいくPCと言えるでしょう。「新しいPCを通じて、新しい市場を開拓していきたい」(同)という、ファーウェイの意気込みが伝わってきます。

PC業界では新参者のファーウェイですが、近いジャンルのスマホやタブレットでは、長年の実績があります。このノウハウや技術を生かすというのも、ファーウェイの戦略。MateBookの新モデルに関して言えば、ファンレス設計を採用できたのは、「長年、省電力のコントロールや放熱設計に(スマホやタブレットで)取り組んできたから」だといいます。

指紋センサーに触れるとワンタッチでログインできるのも、スマホ風な挙動。呉波氏が「スマホを作った経験がなくても搭載は可能だが、もっともよい体験まで提供することができた」と語っているのは、そのためです。


指紋センサー一体型の電源キー


薄型だが、ファンレス設計になっている

携帯メーカーのPC市場参入はレアケース


スマホ業界を見渡すと、ASUSやAcerなどのPCメーカーが、そのノウハウを生かしてスマホの分野に参入するケースが増えている一方で、携帯電話の専業に近いメーカーがPCを開発するのはレアケースです。

かつてノキアが3Gモデムを搭載した「Nokia Booklet 3G」を海外で発売していましたが、ヒットしたという話は聞きません。スマホを外部ディスプレイに接続してPC風に使うといった機能を提供するメーカーは多々ありますが、PCそのものに挑戦する会社は、限りなく少ないと言えるでしょう。

その意味でファーウェイの取り組みはチャレンジングではありますが、逆のパターンは多いだけに、両分野の親和性は高い可能性も十分あります。

ただ、一般的に、PCは縮小市場と言われており、スマホでシェアを着実に伸ばしているファーウェイが、あえてこのジャンルに手を出したことを不思議に思われるかもしれません。実際、ファーウェイ・ジャパンで端末開発を率いる、端末統括本部 プロダクトソリューション統括部の楊勇(ヤン・ヨン)本部長も、PC市場の規模は「年々下降の一途をたどっている」と認めます。日本ではメーカーの統廃合も現在進行形で進みつつあるのは、周知の事実と言えるでしょう。


楊氏は、ファーウェイがPCを開発する意義を語った


全体を見ると、PC市場は縮小傾向にあるという

一方で、ファーウェイは、その理由をPCという製品カテゴリー自体が不要になったからとは捉えていません。むしろ、PCは生活必需品であり、タブレットだと「キーボードを頻繁に使ったり、強力な演算能力が求められるシーンでは物足りなくなる」(同)といいます。「PCは必需品で、日常生活から切り離すことができない」(同)と、そのニーズに対しては、前向きに捉えています。

では、なぜ市場が縮小しているのか。ファーウェイの出した答えが、市場全体に「イノベーションが足りなくなっている」というものでした。その証拠として楊氏は2in1とウルトラスリムのカテゴリー別市場データを挙げながら、「このカテゴリーが生まれたことで、全体が徐々に上がり始めている」と語ります。

これはつまり、PCの中で伸びているこれらのジャンルに特化し、スマホやタブレットで培ったノウハウを注いでいけば、ファーウェイにとって大きなビジネスになると見込んだということ。PC事業はファーウェイの端末部門にとって、スマホ、タブレット、ウェアラブルに並ぶ、4つ目の事業として、「重要視している」(呉氏)そうです。


2in1など、目新しさがあるジャンルは伸びていることが分かる

初代MateBookについては、日本市場で「まずまずの売上を出すことができた」(同)といい、これを受け、今年は2in1タイプとクラムシェルタイプの2モデルを出すことを決定しました。初代MateBookの国内での反応に対しては、「我々も自信がついた」(同)といいます。同時に呉氏は、「新しいMateBookシリーズは、消費者の皆様の信頼を勝ち得ることができると思っている」と自信をのぞかせます。

LTE非対応は今が過渡期だから


一方で、スマホのノウハウというのであれば、もう少しファーウェイの強みを生かしてもいいのではと感じたことも事実です。ファーウェイといえば、やはり通信機器ベンダー。中でも、LTEなどのセルラーに関してはグローバルでもトップクラスのベンダーであり、スマホの発表会でも、同社の"強み"として挙げられています。これに対し、MateBookシリーズには、残念ながら、LTEモデムを搭載したモデルがありません。


強みの通信としてWi-Fi機能が挙げられていたが......

呉氏は同社がWi-Fiルーターでも高いシェアを持っていることを挙げ、「日本市場では、PCはWi-Fiにつなぐものというのが主要な認識だと思う」と語っていました。

また家電量販店などでは、「Wi-Fiルーターを買うと、そのときにPCを買うときの割引を受けられる」(同)というように、ビジネスモデル上のメリットもあるといいます。

ただ、これはあくまで、今が過渡期であるだけという印象も受けました。ビジネスモデルの問題については、例えばSIMカードに割引を出すことで解消できます。呉氏も、「LTE機能については、搭載する方向に向かっている」と述べており、同社でも対応を検討している様子はうかがえます。

市場の変化をいち早く見抜き、早くからSIMフリースマホを日本で発売してきてシェアを伸ばしているファーウェイが開発するPCなだけに、今後のMateBookシリーズがLTE対応になる展開にも期待しておきたいところです。