メジャーリーグには、暗黙のルールがたくさん存在する。
 その中には、現在もルールブックに書かれたルール以上に厳格に守られているものもあるが、その一方で、死文化しつつあるものも存在する。今週は、その代表的なものをいくつか書き出してみた。

●味方の主砲が相手投手からデッドボールを食らったら、味方の投手は次のイニングの先頭打者か相手チームの主砲に、報復のデッドボールを食らわせないといけない。
(最も厳格に守られている暗黙のルール。最近は次のイニングの先頭打者の初球に、報復死球を食らわせるケースが多くなった)

●監督が捕手に「ぶつけろ」のサインを出したら、捕手は直ちにそれをサインで投手に伝え、投手は何食わぬ顔でそれを遂行しないといけない。
(捕手が「ぶつけろ」のサインを出すときは、げんこつを突き出す、あるいは5本の指を全部広げる、といった見間違えようのないサインを出すことが多い。見分けがつきにくいサインを出すと、投手がすぐに識別できず、何度も見返すため、めったにないサインが出ていることがバレてしまう)

●打者に故意にデッドボールを食らわせるときは、頭部を狙って投げてはいけない。
(頭を狙った投球は乱闘の引き金になることが多い。最近は脳震盪の怖さが広く認識されるようになり、頭を狙った危険球に対するペナルティーも重くなった。そのため頭を狙った故意死球は損ばかり大きくて、得るものは何もないバカげた行為となった)

●どの審判も独自のストライクゾーンがあるので、投手はそれを尊重しないといけない。ルールブックに書いてあるストライクゾーンだけを唯一のルールと思い込んで、ストライク・ボールの判定にいちいち顔色を変えてはいけない。
(優秀な投手は、各審判の判定傾向とストライクゾーンを研究しているので、ストライク・ボールの判定に苛立つことはない。メジャー2年目の松坂大輔は18勝3敗、防御率2.90という驚異的な成績をマークしたが、キャンプ中に捕手バリテックから渡された各審判の判定傾向に関するデータを読み込んで、投球に生かしたことが成功の一つの要因になった)

●敵と味方の乱闘が勃発したら、ブルペンがどんなに遠くにあっても、リリーフ投手たちは1人残らず駆けつけて加勢しないといけない。
(暗黙の義務なので、投球練習中の投手でも中断して駆けつけるが、エキサイトして暴れる者はほとんどいない。ケガをしたら長期間のDL入りを強いられるからだ)

●死球を食らった打者が投手に殴り掛かってきたら、捕手や内野手は身を挺して投手を守らないといけない。
(打者がマウンドに突進して投手と取っ組み合いを始めた場合、駆け付けた内野陣や捕手は、両者を引き離すのではなく、次々に上に乗っかって両者を動けなくしてしまうことが多い。日本人選手では、レイズ時代の岩村明憲が、まっさきに乱闘を始めた打者に覆いかぶさって動きを封じ、男を上げたことがある)

●打者はデッドボールを食らっても、当たった箇所を手でさすってはいけない。
(痛がることは女々しい行為だと見なされる。そのためどんなに痛くても、やせ我慢して、涼しい顔で一塁に向かうのが大リーグ流のダンディズムだ)

●ホームランを打った打者がすぐに一塁に向かわず、打席に立ったまま飛球の軌跡を目で追う、あるいは派手にバットを放り投げてから走り出す、ダイヤモンドを1周しながら大げさなジェスチャーでアピールする、といった行為は慎まないといけない。
(どれも投手の気持ちに配慮しない無神経な行為と見なされる原因になるからだ)

●相手投手が完全試合やノーヒットノーランをやる可能性がある場合、バントヒットのようなセコいやり方で快挙を潰してはならない。