猟犬のようにボールホルダーへと食らい付き、封殺の立役者となった金沢(左)。プライドのぶつかり合う一戦で、自身の価値を示した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ9節]大宮 1-0 浦和/4月30日(日)/NACK
 
 試合終了のホイッスルとともにスタジアムが揺れた。最下位が首位を打ち破る「ジャイアントキリング」。そんな単純な話ではない。同じさいたま市を本拠地とする2クラブの熱いダービーで、闘志全開のオレンジが勝ちを手にした。
 
 戦前に積み上げた勝点やチーム状況、周囲が書き立てる予想など意味をなさない。これぞ“さいたまダービー”。意地とプライドのぶつかり合う一戦は、何が起こっても決して不思議ではないのだ。
 
 試合後、最初に記者会見場に入ってきた浦和のペトロヴィッチ監督。その後に姿を現わした大宮の渋谷洋樹監督。両者は勝点3を得たホームチームの戦いぶりについて同じような内容を口にした。
 
 敗軍の将となった前者の言葉を借りれば「走ることと戦うことの強調」であり、勝利の美酒を味わった後者の言葉を書き記せば「ハードワークと球際のタフさ」である。
 
 その象徴がキャプテンマークを腕に巻いた金澤慎だ。いつものように中盤の底に入った“バンディエラ”は、いつもと違うタスクを獅子奮迅のごとく務め上げた。
 
 その最たるものが、興梠慎三の封殺。裏への抜け出しと落ちてのフリックを巧みに使い分けて相手DFを混乱に陥れ、抜群の決定力でゴールを量産する(ここまで7ゴールはJ1最多)浦和のキーマンをマンマークで封じ込めた。
 
「渋谷さんから『ハッキリとマンツーマンで付くように』とトレーニングの時に言われていたので、それをしっかりとこなそうと試合に臨んだ。
 
 対策は(ルヴァンカップ・札幌戦があって)1日しか準備期間がないなかでやりましたけど、分かりやすく、『左サイドはこの形、右サイドはこの形』と示してくれたので迷いなくプレーできた」
 
 仲間たちもその姿を称賛する。「興梠選手は相当嫌がっていたし、慎くんが真ん中でバランスを取ってくれて、球際で強くコンタクトしてチームを引き締めてくれた」とは江坂任の証言だ。
 
 その言葉通り、金澤は浦和が縦に楔のボールを入れると素早く身体を寄せて刈り取り、セカンドボールにいち早く反応してボールを回収。また、攻撃でも縦横に動いてパスコースを作り、キープでチームを落ち着かせる役目すらも担った。
 
 例えば、茨田陽生の決勝弾のように豪快なプレーはなかった。それでも、マン・オブ・ザ・マッチ(サッカーダイジェストは茨田を選出)に比肩するほどのパフォーマンスだったと言っていい。それほどに縁の下の力持ちが残した爪痕は深く、大きかった。
 
 その献身性、バランス感覚、戦う姿勢が敵将にこう言わしめたのだ。「ダービーでの負けは普段より痛い」。相手に痛烈な一撃は与えられる。シュートを放たずとも、パスで急所を抉らなくても、ドリブルで敵陣を切り裂かなくても、だ。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)