理論的に証明された「粘り強さ>才能」の事実! 「やり抜く力」をいかにして育むか?

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■「結果を出す人=才能がある人」ではない



何かを成し遂げるのにもっとも必要なものは「才能」ではないことが、アメリカの心理学者アンジェラ・ダックワース教授によって理論的に証明された。

ダックワース氏は、ハーバード大学を優秀な成績で卒業後、マッキンゼーの経営コンサルタントを経て心理学者となり、2013年には将来のポテンンシャルに対し贈られる「マッカーサー賞」、別名「天才賞」を受賞した人物だ。

彼女の研究対象は「GRIT」、すなわち「やり抜く力」についてである。
そして、その研究成果をつづった著書『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(神崎朗子訳、ダイヤモンド社刊)は、すでに20万部を超えるヒットとなり注目を集めている。

「天才賞」を受賞した氏だが、人生の成功に大切なのは「才能」ではなく「情熱」と「粘り強さ」である、と述べているのはとても興味深いところだろう。

著者の研究は、米国陸軍士官学校から始まる。士官学校には、候補生として、知力体力ともに優れた1万4000人以上が集まり、最終的に1200人が入学を許される。ところが、せっかく厳しい競争を勝ち抜いてきたにもかかわらず、多くの候補生が入学直後に辞めてしまうのだ。

では、どんな人なら過酷な訓練を耐え抜けるのか?

その疑問を研究テーマにして、氏は調査を開始した。学校側は各志願者の知力や体力、リーダーとしての資質などを分析した「総合評価スコア」を算出していた。だが、そのスコアの優劣は厳しい訓練を乗り越えられるかどうかとはまったく関係がなかった。
そこで彼女は、「やり抜く力」を測定するための「グリッド・スケール」というテストをつくる。

すると、結果を出せるか否かは、「スキル」や「才能」よりも、「情熱」と「粘り強さ」を持っているかどうかにかかっている、という事実にたどり着いたのである。

■「やり抜く力」を測る「グリッド・スケール」

ダックワース氏が「やり抜く力」を測るためにつくった「グリッド・スケール」とは、「情熱」と「粘り強さ」の二つの要素をヒアリングするためのテストだ。

全部で10個の質問があり、それぞれに、「まったく当てはまらない」〜「非常に当てはまる」までの五段階評価で答える。
各評価には点数が振られており、その数値が高いほど、「情熱と粘り強さ」=「やり抜く力」がある、と言えるのである。

氏は、士官学校の調査と並行して、この「グリッド・スケール」を使ってさまざまな職種や集団への調査を行った。

たとえば、営業職の数百名の男女を対象にした調査では、半年後には55%の人間が仕事を辞めていた。しかし、「グリッド・スケール」のスコアが高かった人たちの離職率は低く、辞めていった人はほとんどがスコアの低かった人たちだった。

また、公立高校での調査でも、退学者は一様にスコアが低いことが実証されたし、スコアが高い人ほど、修士や博士、医学士など大学院の学位を取得する率が極めて高かったのである。

本書には実際の「グリッド・スケール」の設問が載っているので、自分の「やり抜く力」を測りたい人は、ぜひ本書を手にとってみてほしい。

■「やり抜く力」を伸ばす方法



本書は、一貫して「才能」よりも「情熱」と「粘り強さ」の大切さを説いている。
それだけでは単なる自己啓発本となんら変わりはない。

だが、安心してほしい。「情熱」と「粘り強さ」を伸ばし、「やり抜く力」を高める方法も著者は提示している。むしろこちらが本書の白眉と言ってもいいだろう。

その方法は大きく分けて2つある。

ひとつは、自分自身で「内側から伸ばす方法」。
「興味を掘り下げる」「自分のスキルを上回る目標設定をして、それをクリアする練習を習慣化する」「自分の取り組みと大きな目的とのつながりを意識する」「絶望的な状況でも希望を持つことを学ぶ」。この4つのステップの具体的、かつ、実践的な方法が提示されている。

もうひとつは、周りの人たちによって「外側から伸ばす方法」だ。
こちらは、子どもの素質を伸ばしたい親にとってもは重大な関心がある部分だろう。
どうすれば、相手の「やり抜く力」を育んでいけるかが紹介されている。

能力があっても「やり抜く力」がないために結果が出せないのは、自分にとっても周りにとっても不幸でしかない。仕事で結果を出したい人、「才能」という言葉にとらわれてやる前から物事をあきらめてしまっている人にとって、本書は非常に役に立つ一冊だろう。

(新刊JP編集部/大村佑介)

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