MIT教授ネリ・オックスマンがつくる、美しき「未来のデスマスク」

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デジタルファブリケーションとバイオロジーの融合を目指すMITメディアラボ教授、ネリ・オックスマンの最新作は、「Vespers」と呼ばれるデスマスクだ。従来の概念を覆す美しいマスクは、どのようなコンセプトとテクノロジーによってつくられているのか?

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何千年もの昔から、人々は死に顔を型取ったデスマスクをつくってきた。たとえば、フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトのデスマスクや、発明家二コラ・テスラのデスマスクのように、もとの顔をかなり正確に写し取ったものもあれば、古代エジプトのファラオの葬儀用マスクのように、正確さよりも装飾品としての役目を重視したものもある。

ロンドンのデザインミュージアムでは、2017年4月まで、「Fear and Love」と題された展覧会の一環として、3Dプリントされた数々の見事なデスマスク「Vespers」が展示されている。

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの教授でデザイナーでもあるネリ・オックスマンと、彼女が率いるバイオロジー、コンピューテーショナルデザイン、ファブリケーションの統合を追究するMIT研究グループ「Mediated Matter」が制作した色鮮やかなマスクは、体を覆う外骨格のようだ。まるで映画『エイリアン』に登場する異星人の化石「スペースジョッキー」の頭部と発光クラゲが合体したかのように見える。

マスクを制作するにあたって、流体力学のモデリングソフトウェアと、カラフルな透明の樹脂、高解像度のマルチマテリアル3Dプリンターが使用された。その驚くほど有機的に見える色合い、形、質感は、死の概念と結びつくデスマスクとは思えないほどだ。

シンメトリック・宗教・最後の吐息

オックスマン率いるチームは、各マスクの外部と内部を異なるデザインコンセプトで制作した。外部はアルゴリズムを使って、芸術品や工芸品、建築のようにシンメトリックな構造をもつようデザインされた。色は世界のさまざまな宗教を参考に決められたという。

内部に関しては、オックスマンのチームは樹脂を使って優雅な流れをつくり出した。その形は人間の吐息を参考にしており、マスクをつける人の「最期のひと息」を表しているという。

この流れを表現するために、オックスマンらは、密閉空間にいる人間の吐息が流れる様子をモデル化した(透明なバイク用ヘルメットの中で、色付きの煙を吐き出すところを想像してほしい)。具体的には、流体力学モデリングソフトウェアを使って、吐く息がどのように流れるかシミュレーションを実施。その後、シミュレーションで得たデータに基づいてマスクの内部構造をつくった。

内部のデザインは、マスクをつける人の「最期のひと息」を表している。PHOTOGRAPH BY YORAM RESHE

Vespersのコンセプトは、生から死へと変化する瞬間の探求だとオックスマンは言う。「マスクは、生から死、あるいは死から生への変化を遂げる、想像上の殉教者を表現しています」

またこのプロジェクトは、デジタルファブリケーションとバイオロジーの融合を目指すオックスマンらの研究の一環でもある。Vespersシリーズは静的なプロジェクトだが、将来のデザインは動きに満ちたもっと「生きた」ものになるだろう、と彼女は言う。「微細な空間の中で、文字通り生きた微生物を使って生命を再構築したいと思っています」

あらゆるデスマスクと同様、Vespersは「死」のためのものではない。それは「生」を記念するためのものなのだ。

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