50年以上にわたり、第一線で活躍し続ける大型輸送ヘリ「チヌーク」。沖縄の最前線に配備された同機の現役パイロットに、その実像を聞きました。

日本の防空を支える「隠れた屋台骨」

 航空自衛隊は全国にくまなく配置された「レーダーサイト」によって、24時間、日本の空の安全を監視しています。特に沖縄県周辺は、4か所のレーダーサイトを抱える重要な地域であり、南西地域の防空の要になっています。

 このレーダーサイトは、その役割上、へき地に存在することが多いものです。南西地域においては沖縄本島、沖永良部島、久米島、宮古島と、大半が離島に設置されています。これら離島のレーダーサイトへの輸送任務などに従事し、防空を支える“隠れた屋台骨”といえる存在が、那覇基地に所在する「那覇ヘリコプター空輸隊」です。

空自のCH-47J「チヌーク」(陸自は同型機をCH-47JAとして現有)。旧型(陸自ではCH-47Jとして現有)よりも胴体側面の張り出し部が大きく、燃料タンクの容量も増え航続距離が大幅に延長された(2016年1月、関 賢太郎撮影)。

 那覇ヘリコプター空輸隊のパイロット今井 誠3等空佐(取材当時)は、同部隊に所属する大型輸送ヘリCH-47J「チヌーク」について、以下のように語ります。

「『チヌーク』はもともとアメリカ陸軍が導入したヘリであり、ネイティブアメリカンの『チヌーク族』がその愛称の由来です。最大の特性は、前後に2つの巨大なローターを備えた『タンデムローター式ヘリコプター』ということで、容量がとても大きなキャビンスペースと、ありあまるほどの出力を有する2基のエンジンを備えています。約8トンの貨物を機内に搭載または機外に装備されているカーゴフックにより吊り下げることもできますが、8トンという重量はC-1輸送機(川崎重工業製中型ジェット輸送機)のペイロードとほぼ同じです。そのため、たとえば本土からC-1で輸送してきたものを離島のレーダーサイトへ運ぶ際は、ほぼそのままの状態で『チヌーク』へ載せ替えることができます」(那覇ヘリコプター空輸隊 今井3佐(当時))

ほかの地域と異なる、那覇での難しさとは?

 実は、今井3佐は旧型のCH-47Jを操縦することができませんでした。彼は航空自衛隊が旧型機保有時に、「LR」と呼ばれ弁別されていた性能向上型現有機のパイロットなのです。「LR」とは「ロングレンジ」、すなわち長距離型を意味します。

「当時、空自にはCH-47Jに2タイプがあったのですが、私はLR型(現有機)が導入された教育課程の第1期なのです。そのため、当時、「在来型」と呼ばれていた旧型に乗るには改めて教育を受ける必要がありました。旧型機の資格を有するパイロットは、逆にLR型での教育および慣熟飛行が必要になっていまいた。LR型は旧型の『チヌーク』よりも胴体左右の『バルジ(張り出し部)』と呼ばれる燃料タンク収納部が拡張されており、左右両方でドラム缶およそ40本分に相当する8000リットルの燃料を搭載できます。最大に燃料を入れますと、東京からなら北海道、または鹿児島あたりまで無給油で飛んで行けます。最高速度は秘密なのですが(笑)、巡航速度はだいたい250km/hといったところです」(那覇ヘリコプター空輸隊 今井3佐(当時))

 離島間の輸送で洋上を飛行することが多い那覇ヘリコプター空輸隊にとって、航続距離は非常に重要です。そして、那覇では洋上飛行が主であるがゆえに、ほかの地域と違った難しさがあると今井3佐はいいます。

モットー「定時・定点・必達」を遂行するために

「本土にお住まいの皆さんは、雲というのは大抵の場合、西から東へ流れることをご存知と思いますが、天気もだいたいそのように推移するので、現在地から西の天気を知ることで今後の天気を予測しやすいです。ところが、ここ沖縄は周りが全部海ですから、洋上から突然雲が湧くなど天気がめまぐるしく変化するうえに、地上の観測所も少ないですから、予測が非常に難しいのです。前線帯を通過しようとしたら、すでに“雨の壁”になっていたりします。直行経路で行けない場合は、減速し、高度を法律で定められた最低安全高度付近まで降下させたり、雨と雲の壁を迂回するよう経路を変更したりといったことがあるので、こちらでは1時間後2時間後、長いときには半日後の気象状況を常に考えなければ飛べません」(那覇ヘリコプター空輸隊 今井3佐(当時))

 沖縄のめまぐるしく変わる天候は、空を飛ぶ「チヌーク」にとって大敵です。しかし「ロングレンジ・チヌーク」には、従来機になかった“秘密兵器”が装備されました。

米・ハネウェル社製のウェザーレーダー(円形のアンテナ)。民間機にも広く使われている。

「機首部のFRP(繊維強化プラスチック)製カバーの内部には、ウェザー(気象)レーダーが搭載されています。パイロットはこのウェザーレーダーによって、自分たちがこれから飛んでいこうとする先々の気象状況を、コックピット内のディスプレイに表示し、掌握することができます。特にレーダーサイトへ精密機器などを輸送する際は、乱気流などが予想される荒天域を回避すべきなので、ウェザーレーダーで先々の天候を確認し、早めに迂回を決断することができます。結果として、到着予定時間から大幅に遅れさせないフライトができます。我々のモットーに『定時・定点・必達』という言葉があり、つまり決まった時間に決まった場所へ必ず届けるという意味ですが、ウェザーレーダーはこれに必要不可欠です」(那覇ヘリコプター空輸隊 今井3佐(当時))

「チヌーク」が50年以上も現役で活躍し続けられるワケ

 日本の防空に無くてはならない「チヌーク」。実はこの機体、その設計は非常に古く、原型機の初飛行は1961(昭和36)年でした。50年以上にわたり現役でいられるその理由は、どこにあるのでしょう。

「この『チヌーク』は、ベトナム戦争当時に開発されました。それ以降、エンジンや電子機器をグレードアップして使っているわけですが、とても頑丈でなかなか壊れず、可動率が非常に高いのが特徴です。東日本大震災でも全国から集結しましたが、全機とも大きな故障に見舞われることなく任務に対応しました。必要なときにはしっかり働いてくれる、信頼性の高い機体です。タンデムローター式ヘリコプターとしては、まさに理想型といえる設計ですね」(那覇ヘリコプター空輸隊 今井3佐(当時))

 今井3佐の「タンデムローター式ヘリコプターとしては理想型」という言葉通り、「『チヌーク』の後継機も『チヌーク』」としていまなおその生産が続いており、自衛隊にはCH-47Jをさらに改造した新型機も登場しています。「『チヌーク』の時代」はまだまだ続きそうです。

【画像】CH-47Jが擬人化された那覇ヘリコプター空輸隊のマーク

那覇ヘリコプター空輸隊は、北は奄美大島から南は宮古島まで、CH-47Jヘリコプターで各基地間の輸送を行っている(画像出典:航空自衛隊)。